黄泉の森
初投稿です。暖かい目で見て頂けると嬉しいです。
月明かりだけが光を照らすある満月の夜、木々が生い茂る森の奥深く息を乱し必死に走る集団があった。
その集団は30人程で皆、鎧を着て剣を持ち兵士のような格好をしていた。
全員が、何度も後ろを振り返っては顔を強張らせ全身から汗を吹き出して疲れきっている。
疲れるのも当然だ。道のない森の中が走りやすいはずがない。
いくら月明かりがあるからと言って足元は見えにくいうえに木の枝や草など前をはばかる物ばかりだ、その邪魔であろうものを払いのけながらなのだから。
その上、背後から来る何かに怯えているのだ。
兵士達には、もう無理だろうと諦めの顔すら伺えた。
皆、道も分からずあてもなく走りつづけていた。
その集団の中心には恐らく兵士とは異なる格好をし見るからに身分の高そうな装いをした男がいた。
「………ここまでか」
足をもたつかせながら、ここまで結構な距離を走り続けて体力の限界がきたのだろう。
その男がつぶやいた。
「ジルフリーク様、諦めないで下さい! 我々が時間を稼ぎます! その隙にお逃げください!」
すると横で走っていた兵士の中でも質の良い鎧を着た男。
恐らくこの兵士達のリーダーであろう男が走るのをやめ後ろから来るものを立ちはばかるように立ち止まり叫んだ。
何人かの兵士達もその兵士に付き従うかのように横に並び立った。
身なりの良い格好をした男ジルフリークは振り返り一瞬だけ顔を悲痛にゆがませ
「……すまないヴィグール! 皆! 後で追いついてくれ!」
兵士達の気持ちを受け止め意を決し走り出そうとしたその時、
前方で道を作りながら走っていた兵士がこちらに引き返してきた。
「何事だ?!まさか、前からも?!」
身体から一気に血の気が引いていくのを感じた。
すると戻ってきた兵士は慌てて首を横に振り
「いえ! ……いえ! 前方に教会が見えます! 教会には、恐らくですが魔除けの魔法が張られているようです」
「なんだと! それは本当か? このような森の中にか?」
「はい、私もこの森に何度か来たことはございますが、初めて見ました」
兵士達全員の顔を見渡してみる。
だが、誰も知らないと言ったように首を横に降る。
魔除けとは、魔物などの魔の者を通さないようにする結界のことだ。
ーーーこのような場所にある、誰も聞いたことのないそんな怪しい教会に行っても大丈夫なのだろうか危険な賭けだ……だがどちらにしろ
全員が息を呑みジルフリークをジッと見つめ判断を待っていた。
すると少し考えていた後、フッと鼻で笑い全員に向かって叫んだ。
「どうせこのまま逃げてもいずれ追いつかれるであろう、ならば少しでも可能性のある方に賭けてみようと思う! 皆……すまないが私の最初で最期の賭けに付き合ってくれ!」
兵士達は顔を見合わせて困惑しているようにも見える、
ーーーやはり無謀すぎたか?だが、しかし他に……何も
するとヴィグールがキョトンとした顔を一瞬したかと思えば突然大袈裟に腹を抱え笑いながら
「ハハハハハ! 今更、何をおっしゃいますか。もちろんです! どこまでも付いて行き、この命に代えましてもお守りいたします!」
それを皮切りに全員が「もちろんです」「当たり前です」口々に言い出した。
ジルフリーク達は、森の奥深くにある聞いたことも見たこともない教会に少しばかりの期待と不安を抱きながら走っていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
区切りよくしようとしたら短めになってしまいました。次は、少し長めにできるといいなと思います。