第59話
充は訓練場にもどり、エリーナ校長と交代したあとも模擬戦をさせて今日の授業はおわった。
「よし、今日の仕事はこれで終わり.....今から俺は生徒だな」
「いえ、もう少し教師モードで居てもらっていいですか?」
そう言ってストップをかけたのはエリーナ校長だった。
「ん?なんでだ?」
「教師として頼みたいことがあってですね」
エリーナ校長は真面目な顔でそう言った。
「頼みたいこと.....?」
そのエリーナ校長のその顔を見て充も少し気を引き締める。
「ええ、実は2週間程後に新入生歓迎闘技大会という催しがあってですね.....」
「そんなものがあるのか。結構楽しそうだな」
「そりゃもう、毎年大盛り上がりですよ!.....って話したいのはこの先でしてね」
一瞬ぱぁっと顔をほころばせたエリーナ校長だったが直ぐに気を取り直して元の顔に戻る。
「ここからが本題なんです。新歓闘技大会はエイル魔法学園の姉妹校であるヴァリアント武術学園の新入生も参加するのです」
「なるほど、それは分かった。で?俺に頼みって?」
「実はここ数年あまりこちらの学園の勝率がよろしくなくて.....もしかしたら国からの援助金が減らされてしまうかもしれないのです.....」
「.....要するにあのクラスを鍛えてくれと?」
「はい.....」
充は眉間を押さえ少し考える。
「まず、今年はアイシャがいるから大丈夫なんじゃないか?」
率直な疑問をぶつけてみる。それに答えたのはアイシャだった。
「私だけ勝てても意味が無いの。新歓闘技大会はそれぞれの学校から5名選出されて勝利数が多い方がその大会の勝者になるの。
それに私はかなり例外、と言うよりは異常な存在だからあまり公の目に晒されるのは好ましくないの。だから今回は不参加のつもりよ」
「ふむ、なるほど、新歓闘技大会は一対一の戦闘なのか」
「はい、なのでミツルさんがあのSクラスの子達を育てて大会に出場させてください!お願いします!」
エリーナ校長は深々と頭を下げる。
「頭を上げてください、そもそも俺は人に物を教えられるほど魔法のことを熟知しているわけではないのでそこまで期待されても.....」
「でもミツル、魔法を行使する上で秘密にしてる事.....あるよね?」
充はそう言われ一瞬なんのことか分からなかった。
「なんの事だ?」
「ミツルって魔法を展開する時詠唱しないわよね」
「あぁ、しないな」
充は別に否定する必要も無いので充はその言葉を肯定する。
「それはする必要がないからしないんじゃなくて、詠唱の詞が分からないからしてないんじゃない?」
ようやくここでアイシャの言っている『隠している事』の意味がわかった。
「よく分かったな、俺は詠唱が出来ない。そもそも詞を知らないからな。でもよく気づいたな?」
俺が感心してそうアイシャに言うとアイシャは自慢げにこう言う。
「だってさっきの授業の最初にミツル言ってたじゃん、『魔法を行使する時どのように発動させるのかな?』って。
あれはミツル以外の人が魔法を発動させるための条件をミツルの中で再確認してるように見えたの。詠唱が必要という条件をね」
俺はここまで言われてポカーンとしてしまった。
なぜならアイシャに言われた事は先程俺が考えた内容と同じだったからだ。俺はイメージだけで魔法を発動できる。なので、『念の為に』みんなの魔法の発動の仕方を確認した。この行動がアイシャには不審に感じたのだろう。
「あはは、凄いね、アイシャは。全くもってその通りだから怖いくらいだ」
「よく見てれば簡単に気づくわよ」
「そうか、そこまで言われると仕方ないな。
分かった。一年Sクラスを絶対に負けないように育ててみせる。そのかわり、俺からも頼みがあるんだ。」
そう言って俺はエリーナ校長の方を向いた。
「頼みですか、ものによってはつっぱねますがそれでも良ければ」
「言うだけ言わせてもらうさ、もししっかり新歓闘技大会を勝利で飾れたらライリーを特Sクラスに移動させてくれ。絶対にライリーは特Sに行った方がいい」
「.....先程の魔法、私が見てても驚きました。並列展開の並列化。私も数十年ほど前に出来るようになったばかりの高等技術です。いいでしょう、それだけの技量があるなら特Sクラスに入るのにはなんの問題もないと思います。.....期待してますよ?」
「あぁ、任せとけ」
こうして充は一年Sクラスの強化を請け負ったのだった。




