第5話
「ただいまー.....」
彼女は親に怒られるかと思ったのだろう。少々控えめなただいまだった。そして、それから数秒後店の奥からドタドタと騒がしい足音を立てながら、ティナの両親らしき人物が出てきた。
「ティナ!こんな時間まで何してたんだ!」
「とても心配したのよ!?」
「ごめんなさい....」
「あの....彼女は悪くないんです。実は彼女が誘拐されそうになってた所を俺が助けたんですよ」
「それは本当か?ティナ」
「うん。本当だよ。ミツルさんがいなかったら私は誘拐されてた」
そこまで聞くと、ティナの両親は無言で涙を流しながらティナに抱きついた。
「お父さん....苦しい....」
「抱き締めたくもなるだろ!もう少しでティナが誘拐されてたなんて.....あんた、ミツルって言うんだよな。娘を助けてくれてありがとう」
「いや、お礼とかは結構です。自分もたまたま通りかかっただけなので。あ、それより部屋空いてません?まだ泊まるところ決まってなくて...」
「あぁ!それならどうぞ泊まっていってください!宿泊している間無料とはいえませんが格安で部屋を提供しますよ!」
よし。これで今夜の寝床は確保したぞ。
「では、お言葉に甘えさせてもらいます。今日は疲れてるので早速受付してもらっていいですか?」
「はい!少々お待ちください!」
そして、通常は銀貨5枚のところ、今回は銀貨2枚で泊めてもらえることになった。
そして、部屋に通され俺はベッドにダイブした。そのまま意識の手綱を離すことにした。
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ここはアスメル王国のとある地下での出来事。
「はぁ!?誘拐を失敗した挙句騒ぎになりかけただぁ?何があったか言って見やがれ!」
「はっ、はい!ボス!少女を誘拐してあとは帰るだけって時になんかひょろっとした男に見つかって殺そうとしたら返り討ちにされました!」
「ちっ....俺の計画の邪魔しやがって...おい!お前ら!そのひょろっとした男を探し出して弱みを握ってこい!やられたらやり返さなきゃ気がすまねぇ!」
「ですがボス、あいつ凄まじい速度で去っていったっぽいのでどこにいるか分かりません!」
「それを探せっていってんだよ!分かったらさっさと行け!弱みを握れるまで帰ってくんな!」
「はっはい!」
こうして、下っ端の男は部屋を出ていった。
「....うちの者に手を出すとはいい度胸してんな...俺らを『餓狼の遠吠え』だと知っての狼藉か....?」
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「.....知らない天井だ....」
今はまだ日の差し加減からすると、早朝の5時くらいだろうか。窓から差し込んでくる光が少しばかり眩しい。そんなことを考えつつ、充は今日何をするか考えるのだった。
(まずはギルドに行って依頼を受けてみないとな。魔物討伐系を受けて、1度自分の実力を確認しておかないと。その後はあれだな武器も必要だろうから武器・防具を売ってる店に行ってみよう。あと服もちゃんとしたの買わなきゃな。)
そして1通り今日すべきことを脳内でまとめ終わった充は2度寝をするべく瞼を閉じた。
「知らない天井だ」
やはり2度目でも言いたくなるよなこのセリフ。
とかくだらないことを考えながら、朝食を食べるために部屋を出た。
食堂にいくと、俺とまばらに客がいるだけでかなり空いていた。
充は厨房にティナの姿を見た。どうやら、両親の手伝いをしているらしい。
「あっ、ミツルさんおはようございます。ご飯すぐに用意しますね!」
「あぁ、おはよう」
充はすぐそこのテーブルに腰掛け、朝食を待つのだった。そうしていると、向こう側にいる女二人がこちらを見て何が話している。見た目からして冒険者だろう。片方は皮鎧をつけ腰に剣をぶら下げた赤いショートヘア、もう片方は白いローブに杖を持ち
、金髪で、髪の両サイドを小さく三つ編みにしていると言った見た目をしている。
内容までは聞き取れないが、声は聞こえるとなると、とてつもなく内容が気になる。充は決心して、声をかけてみることにした。
「あの....俺がどうかしましたか?」
「えっ....」
女2人もまさか俺が声をかけてくるとは思ってなかったらしく、少々驚いた様子を見せた。
「いや、さっきから俺のことチラチラ見ながらなんか話してるなーと」
言ってから気づいたが、これが自分の勘違いだと、俺は相当痛いやつに見えるだろう。
「いや、大した内容ではなくてですね?昨日冒険者ギルドで登録してて、その時に受付嬢さんが大声出してた人だなー....と」
「あぁ、あれか。あれは俺にもよく分からん」
あまり自分のジョブを明かすのは良くないと思い適当に誤魔化すことにした。
「あなた初心者よね!何かわからないことがあったら教えて上げるからなんでも聞いてね!私の名前はテルーナ。親しい人はみんな私のことをテルって呼ぶわ!で、こっちの大人しい子が私のパーティのリン!」
「あぁ、ご丁寧にどうも。俺は充だ」
「おっけー!ミツルね!早速だけど聞きたいことはあるかしら!」
「じゃあ効率のいい狩場とかないか?」
「んー初心者が手頃に狩れる所ってなるとこの街の南門を出てまっすぐ言ったところの平原かな?視界が開けてるから不意打ちとかもされないし魔物もそこそこいるし」
「なるほど。南門から出てまっすぐか、覚えておく」
「ミツルさんー!朝食が出来ましたよー!」
「あぁ、悪い今行く。じゃあありがとな。また何かあればよろしく頼む」
「はいはーい!こちらこそー!」
そしてようやく朝食にありつけたのだった。
さて、朝食も食べ終わった事だし、冒険者ギルドに....と、思ったんだが武器がないと依頼を受けようにも受けられない。いい武器屋をティナの母親に聞いてみることにする。
「あの、少しいいですか?聞きたいことがあって」
「私にわかることなら何でも聞いてください」
「ここら辺で手頃な武器屋って無いですか?」
「あぁそれならここから数分歩いた所にドワーフのおじさんがやってる店がありますよ」
ドワーフ!やっぱりいるのか!じゃあエルフや獣耳っ娘も夢じゃないな。
「へぇ、ドワーフですか。じゃあその店に行ってみようかと思います」
「そうかい?じゃあ行き方は.....」
ティナの母親に、その店への行き方を教えてもらい、その店を尋ねることにした。今は宿を出て道を歩いている。
ちなみに、テルーナとリンはもう既に冒険者ギルドに行き、依頼を受けているだろう。
「昨日は夜だったから分からなかったが、意外と、人通りが多いのな」
馬車なども通っており、屋台なんかもちょいちょい出ている。
そんなこんなでドワーフのおじさんがいるという武器屋についた。
なんだか重厚感のある扉を開けるとむわっとした空気が部屋から出てきた。
それと同時に鉄を打つカーンカーンという音が聞こえてくる。
「すみませーん」
.......返事がない。少し声が小さかっただろうか?
「すみませーん!」
......鉄を打つ音がいっそう大きくなった気がする。
「すー.....はー.....すみませーーーーーん!!!!」
「聞こえとるわい!うっさいわ!すこしまっちょれ!」
聞こえてたのかよ!と、ツッコミたくなるのをぐっと我慢し、待つこと数分。ようやく鉄を打つ音がなりやんだ。すると、店の奥からずんぐりむっくりのtheドワーフがでてきた。
「たくっ....最近の若者はせっかちでいかんな」
「そんなことないと思いますけど....あの、魔術師用の装備とかありますか?あと、片手剣なんかも」
「魔術師用のローブと、杖が無いこともないが、わしの造る装備品は魔力量が多くないと使い物にならんぞ?」
「あぁ、それなら多分大丈夫です。魔力には自信があるので」
「ふん!若者は大体そういうんじゃ」
そう言うと店の奥に引っ込んで行った。
このドワーフ若者嫌いなのか?いや、ドワーフって言うイメージにぴったりハマるけども。
「このローブはこの店で一番いいものじゃ。これを扱うことが出来るのであればこれに短剣をつけて、タダでくれてやるわ。まぁまともに扱えないだろうがな」
そういいながら、持ってきた物をカウンターの上に広げる。
全体的に黒い、だが、丁寧な刺繍が入っているローブを持ってきた。
ローブを扱えないってどういう事だ?とか思いながらそのローブに袖を通す。
「おおぉぉぉ....」
なんだこれは....なんだか体が軽くなった気がするし、心なしか、周りを広く感じる。
「ま、まさかこれを扱うことが出来るやつがいるとは.....おい小僧、名をなんという?」
「充です。このローブすごいですね。あなたの手腕が伺えます」
「ミツルか....気に入ったのなら先に言った通りくれてやる」
「え、あれマジで言ってたんですか?貰えるなら貰いますけど....」
「あぁ貰ってくれて構わない。だが一つ条件がある!」
「条件?」
「そのローブを大事にしてくれ。それとこの店にまた来てくれ」
「そんなことならお安い御用ですよ」
「そうか。じゃあそのローブの説明だが、そのローブはわしの旧友と作ったものでな。そいつは魔術が得意でそのローブにエンチャントしてもらった。効果は軽量化に魔力量増加そして最後に自動精密探知だ」
「視野が広くなる感覚ってその自動精密探知の効果なんですね」
「多分そうだろう。素材はキングスパイダーの柔糸.....金額にすればそのローブは金貨500枚は下らんよ」
「ごひゃっ!?」
いやいや、これタダとか儲けもんどころの話じゃねぇ。
「んじゃ、説明はこれ位にしておくか。おっと、忘れるところだった。片手剣じゃったな。お前にはこれをくれてやろう」
取り出したのはこれまた黒い刀身をした、片手剣だった。
「まるで暗器だな」
「まあ、素材が黒かっただけじゃがな」
「何を素材に作ってるんだ?」
「黒竜の逆鱗じゃよ」
「それまたやばそうな素材だな」
「そりゃもうやばいぞ。ただの鱗ではなくて逆鱗じゃからの。逆鱗はその竜の特性を引き継ぐと言われててな。その竜は魔力を吸い取るという能力を持っていてな。お陰で近距離型魔術師は役たたずだったそうじゃ」
「じゃあその片手剣の効果は魔力を吸い取るっていう感じか?」
「まあ、そうじゃな。刀身に触れた物の魔力を吸い取る。生き物だろうがなんだろうがな」
「ふむ。ほんとにこの二つ貰っていいのか?」
「最初にいいと言ったじゃろ。男に二言はない!」
「そうか。じゃあ、俺はそろそろ冒険者ギルドに行くわ」
「またいつでも来い」
こうして、いい買い物(金は使っていない)をした充は上機嫌で冒険者ギルドへ向かうのだった。
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