第100話
「えっ...」
「これくらいは見えないと戦場では生きていけませんぞ?」
エリックは全く反応できていなかった。もちろん俺には見えていたが、あれはステータスの敏捷性が高いとかではない。今エリックが全く反応できていなかったのはゴーランさんの体の動かし方に秘密がある。
あの時エリックはゴーランさんの目を見ていた。おそらくゴーランさんの目線からどこを狙ってくるのか割り出そうとしたのだろう。だがゴーランさんは目線を動かさず、足を一歩出した。この時点でゴーランさんの動きに気づいていれば受け止めるくらいはできたかもしれない。その一歩でゴーランさんの間合いに入ってしまった。あとはとてつもない速さで剣を2往復させていた。
「そんな...見えもしないなんて......」
「これが今の私とエリックくんの差だと思ってほしい。どんな時も油断はダメですよ。逆に相手が油断した時を狙いなさい。それが試合開始直後でもね。これがあなたに教える最初のことです。ほら、すぐに回復しなさい。今回は待ってあげましたが、次からは待ってあげませんからね」
「っ...はいっ!!」
エリックは自分の腕にヒールをかける。かなり良いイメージができているのか、みるみるうちに傷が塞がっていく。
「その回復力はやはり馬鹿げていますね...さあ、続きを始めますよ」
ゴーランさんはそういうとさっきの復習とばかりに全く同じ攻撃を繰り出した。だが今回は先程とは少しちがった。甲高い音が鳴り、ゴーランさんの剣が止まる。エリックが籠手をはめた手をクロスさせ、その刃を受け止めたのである。
「んぎぎぎ......流石に同じ方法でこうげきするのはなめすぎじゃ.......無いですか、ねっ!!」
「!?......ははっ...ははは!!たった二度目で受け止められるのか!やはり君には才能がある!!どこまで私について来れるかな!?」
そういうとゴーランさんの剣撃は激しさを増していった。
「はっ、はやっ!ちょっ、まっ、痛っ!」
少しずつだが、受けきれなかった攻撃により、エリックの体に傷が出来ていく。だがそこでエリックに変化が起きた。
今まで腕を忙しなく動かしていたのをやめ、一切受けることをやめたのである。その間にも剣撃が止むことはなく、エリックの体に傷を増やしていく。そして、決着をつけるかのようにゴーランさんは上からの振り下ろしを繰り出した。
流石にそれはまずいと思い充が動こうとした、その瞬間だった。
「もらったぁぁぁっっ!!!」
「なっ!?」
キィィィィンと言う間延びした音が訓練場に響き渡る。エリックはその傷だらけの左手をゴーランさんの剣に当て、はじき返したのである。ただしその代償は大きく、籠手にはヒビが入ってしまった。
弾かれたゴーランさんは体のバランスを崩す。そしてその隙にエリックはゴーランさんの懐に潜り込んだ。
そしてーーー
「ファイアフィストォォォ!!」
「ホーリーガード!!」
右手に炎の拳を纏い、ゼロ距離でゴーランさんに叩きつけた。
凄まじい音とともに土ぼこりが上がる。
暫く茶色の風景が続いた。少し赤らんでいるところを見ると、エリックの魔法の火がまだくすぶっているのだろう。そんな中声が響く。
「ふふふ、こんな痛みを感じるのも久しぶりだよ。正直に言おう、君は強かった。だがその状態ではあの魔法を放つので精一杯だったろう。魔力も今の魔法でそこを尽きたんじゃないかい?」
ゴーランさんの声だった。そしてこの言葉を肯定するように沈黙が訪れる。やがて砂ぼこりが晴れ、そこには
1つの人影があった。
「ゴーランさん言ってましたよね、どんな時でも油断するな、逆に相手の油断したところを狙えって。しっかり学ばせて頂きました」
そう言って、無傷のエリックが佇んでおり、その足元にはゴーランさんが無傷で倒れていた。
「やった......勝てたああああ!!」
両腕を空高く掲げ、そのまま地面に倒れこんだ。
「あれ......なんでだ?傷は直したのに......」
「おつかれさん。傷は治ってても血が足りてねぇんだからそのまま大人しく倒れとけ」
「そっか...先生......俺、頑張ったよ」
「あぁ、頑張ったな」
俺のその言葉を聞きエリックは目を閉じた。それを確認すると俺はゴーランさんが倒れている方向に向かって声をかけた。
「ふぅ、もう起きてんでしょ、ゴーランさん」
「いやはや、参りましたね」
何事も無かったようにゴーランさんは起き上がった。
「参ったって言うのはエリックに対してか?」
「それもそうですが、私が起きていることに気づいていたあなたに対してもですよ。おそらく私がどのように倒されたのかお分かりになっているでしょう?」
「あぁ、要するに窒息だろ」
エリックはあの魔法を放った後、時空魔法でゴーランさんの周囲の空間を隔離していた。そして地面で燻っていた炎により酸素濃度が薄くなり、窒息に至った。
「ご明察です。いやあ、ゴブリンと同じ方法で倒されるとは思いませんでしたね」
ゴブリンは洞窟に住処を作ることが多いため、その中に火を放ち、土属性魔法で蓋をして1日ほど待つと言うのが有名な討伐方法である。科学が発展していないこの世界では何故そうなるかは理解していないのかもしれないが、そう言うものだとされ、この方法は広く知れ渡っている。
「まぁ、何より......一番最初に教えた事をそのまま返されるとは思ってませんでしたねぇ......」
その言葉は終わりの時間を告げるチャイムによりかき消されたのだった。




