姉妹?!
思ってもみなかったことに・・。
金曜日の午後、セーラがデイビーと一緒にお昼寝をしていると遠慮がちなノックの音が聞こえた。
誰だろう?
目が覚めかけていたセーラは起き上がって、急いでフリースの上着を羽織った。
「ハァーイ。今行きます。」
セーラが隣の育児室に入ってドアを開けると、そこにはキャサリン王太子妃が立っていた。ロイヤルブルーのワンピースを着て、セーラに向かってにこやかに笑っている。
「えっ?!」
「ハイ、セーラ。お休みのところごめんなさいね。ニュイヤー前後は謁見で忙しいから今日しか来れなかったのよ。入ってもいい?」
「あ・・・どうぞ。」
育児室のソファにキャ、キャサリン王太子妃が座っている。あのカフェに置いてあった雑誌の表紙に載っていたのと同じ笑顔で・・・・。セーラは信じられなくて、自分が何をしたらいいのかわからなかった。
「セーラも座ってくれる? ちょっと話がしたいの。」
「あ・・・はい。」
「突然来てごめんなさいね。急に予定が開いたものだから・・。」
「いえ、いえそんな。」
「デビッドが先走ってるんですって? 遠慮しないでガツンと言ってやればいいのよ。あなたの予定や考えをちゃんと言わなくちゃダメよ。男は走り出したら止まらないから。特にデビッドは夢中になると周りが見えなくなるタイプだからね。あの子のやった数々のイタズラときたら・・・。それにゲームをやり出すと勉強もそっちのけにしちゃってねぇ。」
「・・・はぁ。」
「ちょっとそれだけ言っときたかったの。それからね、私は結婚に賛成だから心配しないで。貴族との縁組だからってビビることはないわ。デビッドとあなたがお互いにしっくりきてたら、それが一番よ。・・・デビッドもずっと寂しかったと思う。兄弟がみんな結婚しちゃって、おばあ様が亡くなって、そしておじい様もすぐにたおれたでしょ。あの子の笑顔を最近見てなかったもの。私たちはお互いの伴侶がいたから寄りかかれる人がいたわ。でもデビッドは・・・。」
キャサリンは頭を振ってもの思いを振り切ると、セーラの手を握って顔をじっと見た。
「エムに聞いたけど、あなたも苦労してきたのね。でもそういう苦労を知っている人だからこそ、あのデビッドの手綱が握れると思う。どうか、デビッドをよろしくね。そして義理とはいえ姉妹になるんだから、仲良くしてくれると嬉しいわ。」
「はい、・・あの・・・。」
「良かった。下にリッチも一緒に来てるの。彼ったらミセスコナーを信奉しててね。きっとまた厨房で教えを受けてるわ。下で一緒にお茶にしましょう。デイビーはうちの子達と一緒に見てもらえるように、メアリに頼んでおいたから。」
セーラは戸惑っているうちにキャサリンに連れられて一階の厨房に来ていた。
何が何だかわからない。キャサリン王太子妃にはセーラがデビッドと結婚しないという連絡がいっていないのだろうか? 心からこの結婚を喜んでいる姉の顔をしたキャサリンの顔を見ていると、自分の考えのほうが間違っているのではないかと思えてくる。申し訳なくてろくな返答が出来なかった。
「ハイ、ミセスコナー。うちの旦那様は上手くやれたかしら?」
「まあまあですね。以前いらっしゃった時より手際が良くなっておられます。」
ミセスコナーに褒められたイギリス第一王子リチャード・グラン・ジェネシス殿下は、チョコレートケーキを大皿にのせながら、嬉しそうにニッコリ笑った。
「お、やっとミセスコナーの『まあまあ』が貰えたぞっ。やぁ、君がセーラか。今日のケーキは特別美味しいからね、楽しみにしてて。」
殿下の顔は勲章でも貰ったかのように輝いていた。セーラはその様子を呆然と見ることしかできなかった。
キャサリンは今度はティールームに向かって一緒に歩きながら、セーラに国家機密を漏らすかのような厳粛な顔をして話してくれた。
「公には内緒なんだけどあなたは身内になる人だから言っておくわね。リッチはお料理と裁縫、それにガーデニングが趣味なの。いえあれは趣味の域を超えてるわね。うちでは子ども達の離乳食もリッチが作ってるのよ。あなたのとこのデイビーと同級生のカールがいるでしょ?」
「第二王子の?」
「ええ、最近離乳食を始めたから、また楽しんで作ってるわ。ちょっとしか食べないのに何種類も。凝り性なのよね。」
リチャード殿下が・・・・あの冷たい微笑みが魅力的な輝きの王子が、お料理。
世の中何があるかわからないものだ。セーラは自分がこんなことを知る立場になるなんて思ってもみなかった。王族のマル秘情報。それも料理を作っている本人の様子まで見てしまった。私の名前まで知ってたし・・。
なにか事態が取り返しのつかない方向へ進んで行くような気がして、セーラはゾクリと身を震わせたのだった。
次回はやっとデビッド登場です。




