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Ghost of a rose

作者: はぐれイヌワシ

※『広寒宮-横濱奇譚-』や『残夢』の世界観です。

※未来捏造…かもしれない。




2098年10月29日の昼下がり、文京区本郷、JFAビル。

13時から開館の1階・日本サッカーミュージアムには、多くのサッカーファンやマスコミが詰めかけていた。


曰く。

『毎年この日になると日本サッカーミュージアムに謎の人物がやってきて、

遠い昔にJリーグに存在したチームのマスコットに花を手向けて帰っていく』

というのだ。


毎年多数のサッカーファンが『彼』を見るために集まり、

また『彼』の訪問はJFA側から非公式に支援されていたにも関わらず、

はっきりとした目撃情報も写真を撮られることも情報社会の中で稀であった。


それは2064年の10月29日から始まった。

開館とほぼ同時に、黒いコートとつばの広い帽子を目深に被り、顔を白いスカーフで覆った人物が、

ミュージアム内に入っていった。


そして、Jリーグにかつて存在した『横浜フォーゲルス』のマスコット『ひこ丸』

―――といっても、本物は老朽化が激しいため倉庫に厳重に保管されており、

現在展示されているのはレプリカである―――の前に、数本の白い薔薇を手向けて去っていった。


薔薇は、水色の包みと青いリボンでまとめられていた。


それだけだったら『変わった人が来た』で済まされたのだ。

だが、翌年の10月29日にも、やっぱり同じような人物が現れ、数本の白いバラを手向けた。


二度あることは三度ある。

そのまた翌年も、同じことが続いた。

その間、『彼』を妨害する人物は意外にも存在しなかった。


そんなことが10年近く続いたある年、一人の職員が口にした。

「これは、ポー・トースターやキャロライン・ウォルターの類じゃないかな」


それぞれ、アメリカの有名な詩人の誕生日にその墓前に現れて薔薇とコニャックを捧げていた者の名と、

16歳の若さでこの世を去りながら200年以上もその墓前に花束の絶えたことのない少女の名である。


サッカーファンやマスコミは口々にその正体を予想し始めた。

といっても、現役で横浜フォーゲルスに在籍していた人物は既に全員物故しており、

20世紀にしか存在しなかったチームを直接知る者は、最早わずかである。

その僅かな者も全員70代以上であり、『若い男性のようだ』という目撃者の証言とは食い違っている。


『Jリーグのサポーターたちに《愛するクラブがある事が当たり前ではないのだ》と警告する存在なのだ』とする

評論家もいた。


Jリーグが創設されて一世紀以上が経った今も、消滅したJリーグクラブは横浜フォーゲルス只一つである。

栄枯盛衰はあれど、一度Jリーグ参加クラブとなったクラブでJ3降格の憂き目にあったり、

アマチュアリーグのアマチュアクラブになったりしたクラブも多いが、

完全に消滅を余儀なくされたクラブは一つもない。


既に日本サッカーはCWCも男子A代表のW杯も手にしていた。

完全にサッカー強豪国の一角となっている日本に、年に一度現れる人物。

その存在が意味するものとは。


***


やがて、それらしき人物が薔薇を携えて現れた。

黒いコートとつばの広い帽子を目深に被り、顔を白いスカーフで覆った人物である。


『彼』は、ひこ丸の元へまっすぐ向かい、白薔薇の花束を捧げた。



そして踵を返し、再び入り口の方へ戻る『彼』を、両サイドから取り押さえ、正体を確かめようとした者たちがいた。

しかし、その試みは成功しなかった。


何故なら、『彼』は、

その者達の間を、


目にもとまらぬ速さですり抜けていったからである。



その者達が呆然としている間に、『彼』は、悠々とミュージアムを後にした。


あとには、ただ、水色に包まれ、青色で留められた白薔薇の花束が残されているばかりであった。


***


最初に、彼を『ポー・トースターやキャロライン・ウォルターの類じゃないかな』

と評した高齢の学芸員―――彼は横浜出身で、自宅にフォーゲルスのグッズがいくつか存在する

(しかし学芸員自身が『彼』ではないのか、という噂を学芸員自身はきっぱり否定している)―――の

インタビューによると、


「『彼』についての調査で、JFAがまだ公表していない事実がひとつだけあります。

それは『彼』の素性をあらわすヒントである仕草に関することです。

『彼』はその仕草を、毎年ひこ丸の前で行なっています。

私は、いつの日か『彼』の正体をきちんと解明する望みを捨てていないので、明かすつもりはございません」


いずれにしろ、『彼』の訪れはJリーグがある限りは続きそうである。



題名は、リッチーブラックモアの曲より。

ポー・トースターやキャロライン・ウォルターのような話を書きたかっただけです。


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