彼女は機兵と踊る
ふと、思いつきました。
彼女は俺の後ろで背中合わせで仕事をしている。
ここは、機兵操作を学ぶための学園。俺は生徒会長をしている。
俺の後ろでひっついている少女は、同じクラスの変わり者と有名な人物。なにしろ、授業中は常に寝ているくせに、学科は常にトップという人物だ。
実技に関しては……おそらくは手を抜いているんだろうな。アレを見て、能力がないとは誰も思わないだろう。……知ってるのは俺だけだが。
人類が魔力と呼ばれるものを発見してはや百年。物語にあるような魔法を使うことはできなかったが、代わりにこの魔力というのは機械と相性が良かった。
簡単に言えば、エネルギー源になるってことだ。
しかも、そのエネルギーを送る機械がラジコンみたいに電波で操るようなものだったとしたら。
電波の代わりに魔力を使うと、リモコンなしで自由に操作できる。しかも、自分がそれに乗り移っているかのように、手足のごとく扱える。
そうなれば当然、二足歩行のロボットやら、偵察用の飛行機器やら、無人の物が色々と作られ、それを操作するのが軍人の仕事となった。
もちろん、本体に何かあればそのロボットーー総称して機兵と呼ばれているーーも停止するが、大体は操縦者は他国にいるので、直接襲われることは滅多にない。
万が一の場合のため、武術に長けた人たちの需要も逆に増えたくらいだ。
そうした操作の技術にも、個人差がある。そのため、学ぶためのこういった学園があるのわけだ。……人を殺さない、戦争の技術を学ぶ学園が。
俺が彼女と出会ったのは、一月ほど前だった。放課後、生徒会の仕事のあと、すこしのんびりとしたくて中庭でぼんやりとしていたときだった。
ふらふらと彼女が歩いてきたかと思うと、俺の上に倒れ込んできたのだ。
「な、おい!」
「あー」
なぜか彼女は、そのまま俺に抱きついてきた。
「おい⁉」
「あー、いやされるー」
「は?」
そのまま十分くらいしただろうか。
「いや、堪能させてもらったよ、会長さん。それじゃな」
「は?」
堪能ってなにを?
彼女は何も言わず、そのまま立ち去っていった。
それから。ちょくちょく彼女は俺のそばに来るようになった。
前のように抱きついてはこないが、俺にくっついてはくる。もっとも邪魔にならないようにか、せいぜい肩に手を乗せてくるくらいだったが。
「……おい? なんのつもりなんだ?」
「まーまー。気にしない気にしない」
「気になるわ!」
というやり取りも、数日で飽きてほっとくようになったが。
そして、あの日を迎えた。
機兵を扱える人材を育てる学園。そんなものが他国から狙われないわけもない。
引き抜きをしようとしてきた国も多い。
それでも、一番簡単なのは、学園を破壊して学ぶものを滅ぼすことだと短絡的に考えるものもいるということだ。
襲ってきた騎兵は五十。生徒会長として、決められたとおりに生徒たちをシェルターに誘導しているときだった。
「会長、来て」
「おい、何を⁉」
俺は彼女に機兵の格納庫へと連れて行かれた。教師や他の生徒たちは、俺達に気づく余裕もないようで、邪魔は入らなかった。
「何をするつもりだ!」
「あれ、全部追っ払う」
「何⁉」
そう言うと、彼女は俺の手を握ったまま、その場にある機兵、百機に魔力を通した。
……通常、一流の機兵躁者でも一度に操れるのはせいぜい五体ほど。それ以上は個人の演算力では無理だとされている。
それを百。しかも完璧に扱ってみせた。
……すべての敵を殲滅するまで、わずか10分ほどだった。
説滅を終えると、ふうっと一つ息をついて、彼女は俺の手を放した。
「会長。あとはまかせたー」
「ちょ、おい!」
彼女は普段の鈍さが嘘のように走り去っていく。そこに学園長が来た。
「君があの機兵たちを操っていたのかな?」
「あ、いえ、俺ではなく……」
彼女が。そう伝えると、学園長は目を細めた。
「なるほど、そういうことか。それではすまないが今回機兵を操っていたのは君だということにしてほしい」
「なんでですか? 学園を救ったのは彼女ですよ?」
「彼女にも理由があるからね。すまないが理由は彼女自身から聞いてくれ。他人の秘密を私が話すわけにもいかないからね」
「……わかりました」
そうして彼女に理由を尋ねるも、
「んー。なんでらろうねー」
とはぐらかすばかり。その代わりか、前以上に俺にベッタリになった。ついでに生徒会の仕事も手伝ってくれる(しかもかなり優秀)なので助かっているが。
「いつか、話してくれるのか?」
「そーだね。会長があたしの恋人になったら?」
「……寝言は寝てから言ってくれ」
「えー?」
そうして、今日も彼女は俺の背中にくっついている。
続編を書く予定ですので、彼女の秘密はその時までお待ちください。
なお、全員、名前は決めていなかったり……。