0214
勢いと思いつきで書いた。
脳内補正絵柄は、某ジャックランタン部隊漫画で想像。
その日、帝國の空は、赤く赤く燃えていた。
ダダダダダ――ドン、ドン、ドン!!
「ここに居られたか、ヤールヴォー皇帝陛下」
ドアを破り、一人の男が入ってきた。その後ろには何人もの男が控えているが、状況を見守る積もりのようだ。
「ヴァーレンタイウス卿――いくら貴方でも、この様な遣り様は――」
「――よい、アポロ、下がれ」
主の言葉に、アポロと呼ばれた小姓は引いた。
「――陛下。件の法、取り下げて頂きますぞ」
「――どの法だ?」
『惚けるな!!』『例の悪法だ!!』
「――皆、暫し黙ってくれ、私に任せてくれると言ったはずだろう?」
後ろの男たちを押し留めるヴァーレンタイウスに向けて、ヤールヴォーはふう、とため息をつく。
「悪法、悪法か――例のあれが、それ程に都合が悪いのか?」
「……ヤールヴォー陛下。人の心を取り締まる様な法は――心の自由を奪う、『ショコラール禁止法』は――」
その言葉に、ヤールヴォーは爆笑した。
「――ふぅ、ふぅ、ははは――全く、お前という奴は――」
「何が、おかしいのです。他人が愛を自由に囁き合うのが、それ程に不愉快なのですか?」
ふぅ、と一息を付くと、ヤールヴォーはヴァーレンタイウスを冷えた目で睨め付ける。
「――知らぬもまた、幸せな事よな」
ヴァーレンタイウスは、その静かな口調に気圧された。
「『その一滴は血の一滴』」
パァン
「――――」
「な――誰だ!? 何故撃った!?」
# # #
数年後――ヴァーレンタイウス卿は、手に握り締めた資料を見つめながら、床に倒れていた。
「――余計な所までたどり着いてしまいましたなぁ、ヴァーレンタイウス卿」
「エッ、トール――卿、貴様ら――」
「最早根付いた文化と市場なのですよ、誰がどう始めたか等、瑣事ではありませんかな?」
あの男の言った、知らぬも幸せという言葉が、頭の中を回る。
「心配せずとも、貴方は悪法を排した英雄、あるいは恋人達の守護者として、後世に残りますよ――いえ、残させていただきます」
掌の中の資料を思う。ショコラールの原料を原産する国で、その労働に払われる対価、それは、ショコラールの一滴にも満たない程に――
「俺、が、間抜け、だった、か――」
暗転していく意識の中で、ヴァーレンタイウスは誰にとも無く毒づいた――
# # #
帝政はとっくの昔に終わり、共和制を越え、民主政治に移管してもなお。
2の月の14日はこう呼ばれている。
「ヴァレンタイの日」。
恋人たちは、互いにショコラールや贈答品を贈る。
エットール商会は、株式会社エットールとして、製菓産業の一翼を担っている。
ショコラールの原料は、相も変わらぬ方法で育ち、それらを育てる人々も、相も変らぬ生活を送っている。
今日も、誰かの口に、甘い、あるいはほろ苦い、血の一滴が運ばれる。
『落ちは、
無 い ! ! ! !』
カカオの実が、安い人件費で作られてるのは凡そ事実ではないかと(アフリカ辺りとかでは特に)