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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 三章 強烈姉妹と幽霊それから勇者
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ラッキースケベってこういう



「お前ら? いい加減にしろ」


 カイが傘でぶっ叩いてきた。


 ………ぐぬぬ、悪くないと思ったんだけどなぁ……。


「俺がロリコンなわけねえだろ!?」


「ほんとに?」


「当たり前だろ? ほら、リンも何か言ってやれ」


 僕は見逃さなかった。リンと呼ばれたエルフの娘が何とも言えない目でカイを見ているのを。


「むぅ……。……カイくんからすれば私は年下で子供みたいなのかもしれないから……それはそれで…」


 そして俯いたせいでその小さな呟きは雨音にかき消されてしまう。


「何だって?」


 聞こえなかったから、聞こうとするカイ。


「……何を隠そう私はエルフなのです! だから君なんかより圧倒的に年上なのですよ!!」


 誤魔化した。この女の子誤魔化したよ。あと、圧倒的に年上だとしても、僕は感じたままに一言を呟く!


「威厳はないよね」


「むきゃーっ!!」


 あ、キレた。


 傘をカイに渡してから両手を振り上げて追いかけてくる。ちゃんと傘を渡した辺り、丁寧な性格しているのだろうか。


 こりゃ僕は風邪引くかもなぁ。


「お前ら、雨の中はしゃいでっと風邪引くぞー」


「ぐっ……うう」


 リンさんはその言葉で渋々傘の範囲内に向かった。


「もう手遅れだよ」


 僕は雨のせいで肌に張り付いた服を引っ張り、そう呟いた。


「だとしてもだ。リンも一々小さいことでキレんな」


「つーん」


 カイがそう言うとリンさんは顔だけそっぽ向いてカイに一歩近づいた。


「取り敢えずまぁ、もうすぐ着く」


「何かこういうのが帰ってきたって感じするよね」


「……そうだな」


 その一言を言うまでに妙な間があった。


「おお、見覚えが大いにある道!」


「おい、はしゃぐなよ」


 傘を持って猛ダッシュするリンを呆れながらも走って追いかけるカイ。


「………って、この道まさか……」


 僕はカイとリンさんの背中を眺めながら、どこに向かっているのか一つの結論を頭の中にはじき出した。




「やっぱりかー……」


 カイとリンさんは一つの店に入っていく。


『霜降り山亭』


 その店にはそう書かれた看板が立て掛けてあった。


「どうした、早く来い」


「分かってるよ」


 元々この店は店長不在。


 何となく、ぼんやり予想していた事が当たって何とも言えない。


 だって、友人の経営する店にお世話になっているのってなんか恥ずかしくない? 色々事情があるとは言え何ともむずがゆい気分だ。


「どしたのカイくん」


「……変な臭いするな?」


「そう? そう言われてみれば錆臭いような……まさか掃除を怠ったとか!?」


「そんなはずないよ!? ないからね?」


 誠に遺憾である。疑いの目を向けられるような甘々な掃除なんてしていない………つもりだ。それとこの臭い割と最近……。


「……まぁいい、シャワーでも浴びてこい」


「分かったよ、さすがに寒い」


 店内の構造は理解している。だから迷わずに向かう。


「あれ? どこにあるか聞かないの?」


 が、2人にはその事が疑問に思えたらしい。


「よく知ってるので大丈夫でーす!」


 僕はそれだけ言う。どうせすぐ分かるだろうし、これだけで良い。


 2人の方へ向いて言った。後ろ手で扉を開ける。


「さてと────ふべっ!?」


 開けた扉の向こうに肌色の何かが見え────たと思った瞬間に棒状の物にど突かれて、壁づたいに思い切り転がされた。


「な、何っ!?」


「何じゃないわよ!!」


 全開になった扉から顔だけ出してエリシアさんが抗議の声を上げる。


 風呂上がりだからか、その顔はほんのり上気して赤く、髪から雫がポタリポタリと落ちていた。


「え、あれ、エリシアさん!? ってことはさっき見え」


「忘れてっ!!」


「ほばらがっ!?」


 飛んできた刀の峰が額にヒット。一瞬ばかり意識を手放した。


 そういやこの漂う臭い、血に似ているな───。




 エリシアさんは大きな足音立てて自室に入ってしまった。動作の一つ一つが大きな音を立てていたので、怒っているのだろう。ちょっと怖い。


 それはそれとして既に風呂には入ってしまい、それから閉じた扉越しにカイが話しかけてきた。


「ってことはお前、うちの店の、店員だったのか?」


「……そうだよ」


 赤くなった額擦りながら答える。


「で、見えたか?」


「何が」


「エリシアのはだっ!?」


 カイはリンさんに後ろからひっぱたかれていた。


「舌噛むとこだったろ」


「カイくんは一度舌を噛んでしまえばいいと思うの」


「おいおい、ひでえなぁ」


 怒る事もなく静かにやり取りしている二人。


「それで? 見えたか?」


 カイは懲りないな。


「見えたわけ無いだろ……そうだ」


「何だよ」


 肝心の所を忘れていた。


 思い出したので、口に出す。


「着替え、制服で良いかー?」


「自分の服着ろ」


「部屋入れない」


 因みに言うまでもなく先ほどまで着ていた服は泥塗れ。


 何で持ってくるの忘れたのか。それはどうしようもなく抜けていたとしか言いようがない。


「馬鹿じゃねえの?」


「あー、うん。僕もそう思う」


 制服はここにある。


 ─────結局自分の制服姿をカイ達に晒すことになった。そのときの大爆笑したカイの顔は一生忘れない。


 エリシアさん、返り血を落とすために風呂場に居たのです。あと雨。

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