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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 三章 強烈姉妹と幽霊それから勇者
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初登場の人との再会



「それで、カイさん?」


 飛ぶように戻ってきたリエルは、ティアに抱きつかれて頬擦りされている。


 相変わらず仲が良い。百合百合しさを感じるが本人達にその気があるわけではないらしい。


 その光景にただ笑みを浮かべるカイ。実際微笑んでいるだけなのに、人相が悪いからか、そうは見えない。高く売れそうな女を目にした奴隷商人とかこんな顔しそう。


「アサギ……この人と知り合いなの?」


 未だに地面に転がされているアサギを指差しリエルはカイに聞いた。


 珍しく自分から率先して動くティア。彼女はアサギの首を引っ掴んでずるずる引きずって行く。


「知り合いも何も、友人だが? ……と言うかあの運び方で行くのか? あれの無関心さは人を殺すぞ?」


 ティアが姉たるリエル以外に異常なまでの無関心なのは覚えていた。


 因みにカイは既に両手の指では足りないくらいにティアに会っているというのにティアはカイの名前以前に、出会った事があることすら覚えていない。


 カイもリエルも、ティアの物に対する無関心さをしっかりと理解していた。


「んぇっ!? ティア!?」


 首をブンブン回して周りを確認してもアサギの姿が見当たらず、ティアが引き摺っているのが見え、言いようのない驚きを感じたリエル。


「何ですか、お姉さま」


 振り返るティアの手はアサギの首に深く食い込んでいた。


「ちょっ、その手をはなせって!!」


「はい、お姉さま」


 手を少し振り上げて思い切り落とした。


「なんでそう、言うことをするんだっ!!」


 怒ったリエルが大きく足音を立てて、ティアに詰め寄る。


「言われた通り離しただけですよ?」


「それは叩き落とすって言うんだ!!」


 リエルは怒ったままアサギの首を掴む。


「離すってのはこうで!」


 パッと首から手を離すリエル。


「さっきのはこうだった!!」


 もう一度首を掴みティアが先程した行いを真似する。


「これは離すとは言わない!」


────因みに反対の手でしっかりとその衝撃を消すようにアサギの頭を受け止めることは忘れていない。


「分かるか!?」


「それは分かりますが、お姉さま」


 ティアの言葉はそれだけだ。


「……それなら良いんだが」


 良くねぇよ。カイは心の中でだけで呟いた。


 あぁぁー……! と頭を掻き、カイは二人に歩み寄る。


「ちょっと寄越せ」


「え、はい」


 リエルは素直にそこから退いた。ティアは素知らぬ顔でさっさと帰ってしまっていた。


「ほいっ………意識剥奪を自己催眠だけでやってたのかあの野郎、おぞましい位の自己信頼だな……。まぁ、これで良いか」


 手のひらの上の球体をアサギの顔面に押し付けると球体は頭をすり抜けて包み込む。


 するとぼんやり開いていた目に光が戻る。


「……あれ? ……カイ…久しぶり」


 我を取り戻したアサギはぼんやりした顔でそう言ったのだった。






「────ってカイ!? なんでここに!? いや行方不明だったんじゃ!?」


 気付いたら、どこにも居なかった、ここにも居ないはずの友人がそこにいた。


「いやぁ、お前に話したいことは腐るほどあるぜ?」


 カイはどうも話したいことが浮かばないのか、困ったような笑いを浮かべる。


 他人が見ればやはり怖い笑顔であろうが。


「……と言うか向こうで俺、どういう感じよ?」


「? ああ、えっと……行方不明、かな…? カイのこと、失踪したとしか聞いてないよ」


 それがどうしてこんな所で。


 困り果てているのはどちらもであろうが、それでは話が進まない。


「まぁ、そりゃあ。死体が残らないからなぁ……この世界にきたんじゃなぁ」


「…………?」


「一応何でこの世界に居るかって言うと……まぁ向こうで死んだからだな。向こうで話題になったか知らないがな、高二の5月に博物館で銃の発砲事件みたいなのが有ったはずだ。それで死んだ」


「確か茜屋先輩が入院した一件……だったかなぁ。うん、覚えてる……死んだ人が居たなんて聞いてないけど……」


 ま、茜屋先輩が入院したのは銃弾喰らったからではなく、別件で腕の骨にヒビ入っていたから……なのだけれど。


「多分死体残ってないだろうからそりゃあ死人については誰も言わんだろ。つかあの赤髪の人入院したのか」


「ん。銃弾かすって医者に行ったら入院決定したという感じらしいよ?」


「マジか……大事なくて良かったわ…」


 カイはそれなり以上に心配していたようだ。安心したように呟いた。


「近くの客を炎の魔法で守ってたんだ。……俺あの時初めて魔法があったんだって事を知ったんだぜ!?」


「えっ」


────魔法が使えた?


 あの世界には魔法あったんだ。と言われても実感が湧かないし、どう反応したものか。嘘ではないだろうと思うくらいにはカイのこと信頼してるが、正直信じきれない。


「っと、それはおいといて」


 新事実に驚く僕の内心を察してか、カイは話題をブン投げた。


「お前、忠告無視すんなよ……って言いたかったが、寧ろ無視してたら生きてないもんな……この世界にも居ないし」


 カイは昔に『あの十字架を手放せ』と言っていた。


 しかしそれとその発言が結びつかない。


「とにかく、生きていたなら良いやってのが俺からの意見だ」


「う、うん」


「百年生きてんだ、含蓄ある言葉だろう?」


 ………?


「百年?」


「おう、百年だ」


 …………カイの外見は目つきが悪いだけの高校生。失踪直前から幾分か背が伸びたようには見えるものの……


「とても百歳には見えないんだけど……」


「正確には百十八歳だな」


「些細な差だよ!? うっそ!? 見えないんだけど!!」


「ま、こんな世界に能力一つで放り出されたけど、運が良かったんだ。それで体の老化を止めてんだ」


「へぇ、凄いね」


「反応薄いな……大変な能力だったんだぜ?」


「それは後で聞く」


「あらゆる『世界』を掌握する能力………って聞いてくんないの?」


「うん、興味ない。と言うかカイ、なんか柔らかくなってない? 雰囲気が」


「おう、百年あったし、変わるだろ。……と言うか興味ないのかー……」


「取り敢えず、リエルさんの所行こうよ、そこのでっかい人どうするか聞きたいし、なんか待たせちゃってるかもしれないし」


「待ってるって事はねぇと思うが、確かにそうだ。こいつは俺が引き……」


 掴んで固まった。あ、重いのか……この男筋肉の塊だし。


 そう思って持ち上げてみるとそうでもない。


「僕が持つよ」


「あぁ、頼む」


 軽々大男を持つ僕を見て、微妙な顔でカイは言ったのだった。




────時は遡り、アサギが逃げ出した直後。


 襲撃者達はアニキと呼ばれた大男以外にずば抜けて能力の高い人は居ない有象無象の集団である。


 かなりの速さで移動する彼らを後から追いかけるのでは、追いつくことが出来ないと理解していた。


「さて、どーしましょうかね」


「先回りする?」


「アニキ多分どこに追い込むか考えねえし、ある程度分かれて路地の出口でまってようぜ?」


 そういった会話の後に漸く方針がまとまった。


 そして動き出そう、そう言った段階になって─────


「全く、アサギくんは休みの度に問題に巻き込まれて、大変じゃないのかな」


 いつの間にか集団の真ん中にいた、空のバックを左肩に掛け、その手に傘をもった町娘がそこにいた。


「おいどうした嬢ちゃん? ここはアンタみたいなのがくるところじゃないぜ?」


 一人、腰のナイフに手を掛けながら、出来るだけ威圧しないように声をかける。


「あ、知ってます。知り合い追っかけてたらこんな所に……」


 同じ様に、少女は腰に差した剣の柄に手を掛けていた。


 その剣はこの少女に似合わないし、その手が触れるところからぼんやり障気が出ているように見えた所も。


 彼女に対して違和感を感じさせるには充分だった。


「怖くない……だいじょーぶ……怖くない、怖くない怖く────」


 繰り返すように呟いていた言葉は誰にも聞かれなかった。


「『さて、やるかのう……有象無象。その息の根、止めてしまっても構わんのだろう?』…って駄目だよっ!? 峰打ち峰打ち!」


 右手で腰の剣を抜いたり差したりしながら独り言を言う少女に周りは警戒よりも可哀想な子、みたいな感情が表に出ていた。


「『わかっておるわ』…分かってないでしょ、絶対に」


 独り言を呟き続ける少女に、周りは目配せしてから襲い掛かった。


 瞬間襲い掛かった一人、二人と壁まで吹き飛ばされる。他人を巻き添えにしていくように吹き飛んでいくので、壁に叩きつけられた人は勿論、巻き添えになった人達も1人残らず気絶していた。


 キンッ…と音を立てて納刀する。


「案外怖くないわね……これのお陰?」


 腰の剣を目だけで見て、リラックスした様子で呟いた。


「やっ、逃げっ──!!」


「逃がすと『思っているのかのう?』」


 逃げようとした無防備な背中に片刃の剣を叩きつけて


「『甘いのう……』」


 彼女の目から優しさが完全に消えた。


────そして数分もしないうちに立っている人は居なくなった。

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