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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 三章 強烈姉妹と幽霊それから勇者
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彼女達の信頼



「今更なんだけどさ」


「なんだ?」


「襲撃者っぽい人」


「ぽい……じゃなくて、まんま襲撃者。暗殺者とかもいつだか来たな」


「リエルさんいなくても普通に問題なかったんじゃない?」


 その疑問にリエルさんが答える。


「大問題だ。私はこの可愛い妹が大好きだからな、私の見ているところでならともかく、指一本でも触れさせてたまるか」


「……お姉さま……」


 リエルさんがティアさんを自らの膝の上に乗せると、ちょうどリエルさんの頭の下にティアさんの頭が来る。


 リエルさんはティアさんの頭に頬ずりしながら、撫でていた。顔がへにゃあってなっていた。


 因みに、ティアさんも満更ではないようだ。というより、リエルさんそっくりな表情だ。


 危険な状況っぽいのに、なんだこのゆりふわした空気は……。あと指一本でも触れてましたよね、その子素手で殴り倒してますし……勇姿が見れればそれで良いと言うことだろうか…。


「そうだ、アサギ」


「何ですか……? 急に真面目な顔になって」


 そんな状態でもティアさんは気にせずリエルさんに頬ずりをし始める。いや、姉が話しようとしているなら少しくらい見たらどうだろうか。


 さて、そんな事されていても真面目な顔を崩そうとしな───崩れた。崩れたよこのシスコン!?


 語気も緩くなりながらも、リエルさんは言った。


「表出て適当に散歩して戻ってきてくれないかぁ? どうせ暇でしょう?」


 ……ええ暇ですよそうですが連れてきた本人がそれ言うのはおかしいと思うんですが。


 まあ、二人の時間を邪魔しても悪い。僕にも分かるくらいだから、僕よりも強い二人にとって目障りだろう。ティアさん盲目なので目障りと言うのはおかしいが兎に角、気が散るのかもしれないなどと僕は思ったわけだ。


「気をつけて散歩、してきますよ」


 この家の入り口は最早外れかけの戸が立て掛けるように引っかかっているだけ。それにふれないように外に出ようとした。


「あら、なんで詐欺師さんは外に行こうとしてるのですか?」


「暇なんだろ。きっと」


「お姉さま。あの少年がこの状況で外に出たらきっと」

「なんなら見てくるか?」


「……お姉さまは……なんでそれ程余裕なのですか? 全く強そうに見えませんよ? 彼は」


 見えるの? そんな盲目()で。


 そんな事は聞かなかった。


 盲目だと言った癖に、躓いたり、ぶつかったりする事はなかったのだ。その上襲撃されて無傷ですり抜けている辺りで、何らかの察知技術があってもおかしな事は何もない。


 そして、僕が出て行かずに、ティアさんとリエルさんを見ていることに気がついたリエルさんは口の端をニヤリと吊り上げて言った。


「まあ、ティアには、分からないかもしれないが、実際見ればそんな心配吹き飛ぶだろうよ」


 心配ねぇ。僕も出来れば出て行きたくないけど、居ても少し気まずいし、リエルさんに言われたなら仕方なしに行ってくるだけなんだよね。


 幸い先程のレベルなら多分問題なさそうだと、僕の感覚もそう感じ取っている。


「そう、ですか」


 自信満々なリエルさんを感じて、ティアさんは不満そうに。


「あと。お姉さま?」


「なんだ」


 不満そうに口をとがらせて。


「こんな野郎どうなろうと知ったことではありませんが、純粋に気になっただけです。心配などするはずが無いのです。お姉さまにだけは勘違いされると困るのです」


「アサギ本人にはいいのか」


「どうでもいいのです」


 心の底からどうでもいいと、そう思っている声色で言うので、僕は苦笑いしながら表へと出るのだった。






 って、雨かよ……。


 特に荷物は持ってないけど、風邪引くと店に迷惑かかっちゃうな。


「って言うわけで出て来て頂戴! 居るのはだいたい分かってるから!!」


 どうせどれだけ離れようがどれだけ近かろうが、あれほどの猛者だ。どうせ傷一つ付きやしないだろう。


 そんなリエルさんへの信頼から、オンボロ孤児院───この通りでは特別ぼろい訳じゃないが、表通りから比べれば所々からボロさを感じるくらいだ───の前で叫び上げる。


 単純に雨に濡れる時間が鬱陶しかったのもあるのかもしれない。


「おやおや、気付かれていたなら仕方ないですねー。」


 そして声を聞いた襲撃者が、姿を現す。


「…………うっわぁ……」


 一つ……二つ……三つ……四つ…!!


 まだ、まだいる!?


「隠れて、襲ってくるわけじゃないんだ?」


 ぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろ。


 まだ出てくる。


 一番最初に出て来た襲撃者は代表として僕と言葉を交わそうというのか手には何も持っていない。


「えぇ。まあ。偵察が先ほどの騒音で消されたのでしょう? 恐らく一人では勝てないでしょうし?」


「?」


 話している間も、建物の窓から隙間から道からぞろぞろぞろぞろと出て来る。


 襲撃者の代表は、ニヤニヤとした素の顔を晒しながら言った。


「のこのこと出て来た一人。対して私達全員です」


 ……探す手間が省けて良いよね?


 襲撃者の代表が言いたいのはそう言うことではないだろうが、僕にはそうとしか思えなかった。


 一人で及ばないなら二人で、二人で及ばないなら三人で。を有限に出来るだけ大きくしていったんだろうけど、物事には限界がある。


何人もいれば動きづらいだろうに、道を塞ぐ程の味方を連れてきた襲撃者は一体なにを考えているんだろうか。


「果たして私達か、あなた一人か。どちらが最後まで立っているんでしょうかね?」


 そう言えば、僕が無関係かどうか聞きすらしなかったな。どうせ襲撃者は一人残らず倒すけど、そこまでなりふり構わないのか。


 まあいいや、取り敢えず真っ直ぐ向かってきた───


「答えは私達だ!!」


「うるさいよっ! 近付けもしないのに騒がないで!!」


────襲撃者の代表みたいな奴を魔力で跳ね飛ばして、他もすべて凪ぎ払えばどうでも良くなるか。


 どうせ僕自身関係ないし、リエルさん達が気にしなければ僕もどうする気もないしね。

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