容赦がない盲目少女
「改めて、自己紹介だ」
促されて、僕はもう一度になる自己紹介をする。
「アサギです」
もう面倒だし、名前は既にこの二人に認識されている。
────正しくなくとも、正すことは難しいので諦めていた。
僕の自己紹介は終わったと二人をみる。
「私はリエル」
そう言った後三秒ほどの空白。どうやらこれ以上何も言うつもりないらしい。
「では、私もしましょうか」
「お願いします」
「私の名前は、ティア。この孤児院の唯一の住人です」
「ま、孤児院だった空き家なんだがな」
「お姉さまと共にここで住んでいたのですが、お姉さまふらふらと消えてしまって……私寂しかったんですよ……? 知らない人が何度も訪ねてきますし……」
ティアさんは椅子ごと すすすっ とリエルさん(暫定)に近付く。
「……一節おきくらいに帰ってきてるだろ」
どうやら、それでは不満だったらしい。リエルさん(仮)が弱く呟いた一言を聞いてティアさんは目の色を変える。瞼開いていないけれど。
「それでもですっ!」
ティアさんが所々板の隙間から床が見えるようなボロい机を叩く。
バキャァァ!!
すると机はティアさんが叩いた点を中心に陥没し崩壊する。
……ボロいといっても塗装が剥げてるとか、その程度ですよ?
素手で、それも何の技能も使わずに机を砕くなんて。僕だったら魔力を使えば出来るかもだが、一切そう言った動きはなかった。
因みに僕らには一切の被害がなかった。
「あー、分かった分かったから、物に当たるな。また壊して……」
「私に冷たくするなんて。お姉さま、まさか男とかつくってきたりしてないですよね。近頃は全く帰って来ませんでしたし…………もしやそこの自称お姉さまの友人は!!」
自称してないんですけど!?
「んなわきゃねえだろ!! コイツ何だかんだで私の名前すら知らなかったらしいしな」
「んなっ、なんて失礼な!! お姉さまを! お姉さまをなんだと思ってるんですか! お姉さまの前ではあなた達有象無象は平伏するべきなのです!」
んー……ちょっと何言ってるか分からないなー。
「そう! たとえばそこの───」
ティアさんは天井を指差す。
そして。
「!?」
天井にヒビが入り一瞬で崩落してくる。
ちょうど机の残骸がそのままあった位置に崩落してくるバラバラになった天井の中紛れて降りてきた人間が着地する。
ティアさんはその人の鳩尾に右拳を叩き込んで、気絶させた。
「そう。それでいいのです。お姉さまの前ですよ?」
「……うっわぁ」
手際良く襲撃者らしき人を処理したティアさんに対しても、天井に穴を開けた襲撃者らしき人に対しても、呆れてしまった。
「あー、また直さないとですね……」
唐突に、リエルさんが薄々僕にも分かっていて信じたくなかったことを言ってきた。
「ティア。こんなに可憐に容赦なく叩き潰してるけど、本当に目が見えないんだぜ?」
「もう! お姉さま! 私が盲目なのは見たら分かるじゃないですか!」
ティアさんはまたもや、ぷんぷんっ と口に出して言う。
─────やはりティアさんは盲目らしかった。




