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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 三章 強烈姉妹と幽霊それから勇者
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妹思いの姉



「きょ、脅迫ぅっ!?」


「うるさい」


 〈戦場の死神〉は手のひらを僕に向けてきた。黙れ、と。


 しかし、先程話を聞いて気になったことを問いかける。無論声を抑えて。


「えっと……妹さん? こっちの方に住んでるの?」


「あぁ。実家を確認してきた。元気だったよ」


 どうやらこの奥にある実家に居るそうだ。


「私がここにいるのがバレると面倒だ。人が殺到すれば人に紛れて誰が居ようと見抜けない」


 いや、まずこんな人が寄り付きたくないような汚いところに突撃する物好きなんて居ませんよ。


 しかし、そんなことは口に出さない。というか、出せない。じゃあ何でお前居るの? みたいな話だし。


「お忍びって、そう言う」


「ま、休養しているところを抜け出してきているからな。表は騒ぎになっているかもしれないな」


 …………………おい。


「ま、そんな騒ぎよりも妹だ。見るか?」


「え?」


「どう考えてもお前が犯人とかそれに準ずる者とは思えないんだ」


 漸く鉈を仕舞い込む〈戦場の死神〉は薄く微笑むと言葉を続ける。


「まず私に挑むのには実力が足りん。圧倒的に」


「ぐっ……」 


 分かっているし、いや、そもそもあなたと比べるとそりゃ。という考えが頭の中に居座るがやはり口に出さない。


 代わって、口から出て来たのは。


「そもそも実力不足が理由にはならないですよ? 脅迫するのに妹を利用してるなんて。実力不足を公言してるものじゃないですか」


「素直に信頼を得ていることを喜べばいいというのに。まあ、言っていることは尤もだ」


 そもそも脅迫は『妹を殺されたくなければ云々』という事らしい。


 ありふれた物だな、と実際見たことがないので驚き半分に聞いたのだった。


 云々というが、その部分はまともに話してくれなかった。知る必要はないし、知ってたらおかしいので、言わない必要があるのだろう。この手のカマかけは何度見たか、小説で。


「まあ、その気ならその場で容赦なく切り捨てればいい。容易だろ?」


「そーですね〈戦場の死神〉様」


「その肩書きは好きじゃない、がまあいいや」


「いいんですか……」


 とりあえず〈戦場の死神〉の先導の元、彼女の実家に案内されることになった。


 相変わらず、空は濁っている。




 しばらくして、表に出た。


「何で裏路地なんかに入ってたんですか……!!」


「近道」


「……あんな異臭漂う汚い所通らなくても」


 そう言ったのが聞こえていたのか、〈戦場の死神〉はやれやれと首を振るだけだった。


「お前が騒がしいと私の存在まで気取られるだろうが、静かにしてろ」


「はいはい……わかりましたよー」


 裏路地から出てきたというのに人一人として反応することはない。不審には思ったが、人混みの中に紛れ込んで行く〈戦場の死神〉の後を見失わぬように追いかけるのだった。


 しばしの無言。


「えっと、妹さんって結局どんな人なんですか?」


 並んで歩いているのに、その重苦しさに耐えられなかった僕は、少し気になっていた話題をあげた。


「…………天使だ」


「へ?」


 天使? 天使というと……?


 真っ先に思い浮かぶのは僕がこの世界に落とされる直前に出会ったあの女性。翼が生えていて、西洋人的な佇まいな感じのイメージ。次に昔のアニメで見たような裸の赤子。ラッパとか吹いてそうな。


 ……そう言えば、言われたことやってないな。


 連鎖的に思い出したが、〈戦場の死神〉の言う天使とはそう言う実物的表現では無かったらしい。そもそも彼女が天使を目にしたことがあるかどうかが怪しいところだ。


「あの子の愛らしさを表現するには、それしかない」


 ふざけているのか、と目をのぞき込む。


 否。それだけは読み取れた。目がマジだった。


「そ、そうなの……?」


「ああ。そうだ」


 常の表情とは異なるうっとりとした表情に、僕は妹さんについてどんな人なのかという想像を膨らませていった。


「……惚れるなよ?」


「?」


 この人シスコンじゃないかという疑惑はあまり語られなくても色濃くなっていくのだった。

そういえばこの世界で言うと天使はかの愚者の親玉として一部で知られていますけど。

まあ、別にすべての天使が悪印象と言うわけではなく、他にも天使はいると言うことでよろしくお願いします。

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