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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 三章 強烈姉妹と幽霊それから勇者
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死神の気紛れ



 一段と強くなったようだって!?


 それはおかしいよ!?


 〈戦場の死神〉は手に持った武器を、僕との距離を詰めて振り下ろす。


「それ、どうした。避けているだけでは私は()めたりしないぞ」


 彼女の持つ武器は、刃渡り30cm程の鉈のような物である。


 どう言うわけか平たい切っ先だけが鎌のように尖っていた。流石に鎌というにはその尖っている部位は短すぎたが。


 その武器は一部にしか刃が付いていないが故に突きに向いていない。片刃の武器は振り回す事にのみ特化していた。


 縦横無尽に振るわれる鉈を、後退しながら屈んだり跳んだりして回避する。


「止めて下さい!」


「断る」


 即答である。


 道端が狭すぎて、避ける為には下がるしかない。


 多少手加減しているようだが、このままではいずれ……。


 首筋に横向きに迫る鉈をのけぞって避け、しかしそのまま反転して放たれた回し蹴りを避けきれずに腹に受ける。


 体が浮き上がり10m以上も地面に着かずに吹き飛ぶ。地面に着弾してからも転がり、壁面に到達する。


 背中からぶつかり、咽せる。


「がほっ………」


「……勘違いか?」


 はぁはぁ、と息が抜ける音しか僕は発する事が出来なかった。


 〈戦場の死神〉は転がった僕に失望の眼差しを向ける。


「……悪……かったね、武器持ってないし、失望させるような実力で」


 僕はふらふらと、手に持つ物を杖にして立ち上がる。


 口元を拭い、目だけでも〈戦場の死神〉に向ける。


 ?


「ぷっ……はははっ! 冗談だったのか! これは笑えるくくくっ!」


 何の脈絡もなく、笑い出す〈戦場の死神〉。


「え? ん?」


 理解できず、ポカンとする。


「その杖代わりにしている物!! それが武器じゃなくてなんだって言うんだ!!」


 〈戦場の死神〉は大口開けて、大声で、腹を抱えて笑う。抱腹絶倒とはこういう事か? いや、倒れてはいないけど、そんな勢いだ。


 その笑顔は、こんな状況だというのに一瞬みとれる程だった。まあ彼女の顔立ちは整っている方だ、みとれるのも無理のない話かもしれない。


─────ってそうじゃない!?


 慌てて、手元を見るとそこには。



「────………………」


「どうした。戦闘中に呆けるなど」


「いや、うん。分からない。何で? 今まで何も持っていなかったし持ってきていないし、こんな物見覚えが……」


 手に持っていたのは、一振りの剣。


 刃渡りよりも柄が長く、刃渡りよりも少々短い程度に鍔が長くなっている。


 見る者によっては短い槍ともとれただろうが、僕には剣に見えた。


 半透明の、十字架。


 僕はその剣を掲げると、形状からその印象を受けた。


「あれ、何処に消えたと思ったら………」


 そう、これは。跡形もなく消えたので夢だと思っていたが、この間夜中に目を覚ましたとき見た剣である。


「これで……」


 これで、この剣だけでどうにか出来てしまいそうなほどの感覚に陥る。


 僕は担ぐように両手で剣を構え、真っ直ぐ〈戦場の死神〉を見る。……道幅は広くないので常に視界に入るのだが、気持ち真っ直ぐ見つめた。


「用意は良いか?」


「…………」


 目を逸らさないことで、是とする。


 多分、突然意味も分からずに激強冒険者が攻撃してくる展開に動揺していたこと。手に持った武器のせいで気が大きくなっていたのかもしれない。


────〈戦場の死神〉の目が光る。


「っ!?」


 瞬間に〈戦場の死神〉の体がぶれた。


 僕は、剣を真っ直ぐ投げ飛ばし、真上に跳躍すると、すぐさま間近の壁面を蹴飛ばした。


────〈戦場の死神〉の目の輝いた事に異常に怯えた事で自ら打って出る勇気というか、気力。そのものが霧散してしまったのだ。


 しかし、それは間違っていなかった。


「ひっ!?」


 足下が爆ぜる。鉈を振るう事で残る黒い旋風を見下ろして、肝が冷えた。


 一瞬だけ見たが、体がその瞬間言うことを聞かなくなっていた。壁を蹴ったことで反対の壁面に跳んでいた僕はその壁に無様にぶつかるまで。


「ほう?」


 〈戦場の死神〉が、笑う。心底楽しそうに笑う。笑ってこっちを見る。


 焦った。


 僕はようやく魔力を放出するという発想にいたり擬似的に坂を造り上げ、駆け上がって。


 あれ─────?


 あっさり魔力制御を誤り、足を踏み外した。そうして、地面に真っ逆様。


 まさかこんな凡ミスで死ぬの……?


 魔力の展開は間に合わない。ステータスを伸ばすにも発声によって発動を今までしてきたので発動が間に合わない。


 そして為す術もなく地面に激突──しない。


「…………慌てすぎだ。萎えた」


 落下する僕を楽々といった様子で抱える〈戦場の死神〉。彼女は抱えた後、雑にブン投げた。


「ま、いいか。どうせ」


「……結局何で襲いかかってきたんですか……?」


「あー、ここの先にな…………見てもらった方が早いか?」


 鉈を肩に担ぎ、軽く言うので。


「…………何だろ……とんでもなくどうでも良い理由じゃ無いよね……」


 事の次第を、図りかねていた。

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