魔導士の力
私は手を握ったり開いたりして、体の感覚を確かめた。
………少なくとも感覚が早くなってる感じはないなぁ。
勿論、遅くなっていることも無い。
「雪って、どういうこと?」
「……こういう、こと」
右手を振るうと、空気中の水分が冷やされて、昇華する。
「涼しい……けどそれだけじゃない?」
「……?」
魔法ってやっぱりすごいなー、って思っていたのだけれど、村上さんからすればこの程度大したこと無いのだろうか?
「と言うか雪、雪の魔法って言うと氷よりも効率悪いし、シャレで言ってるなら面白くないから撤回した方が良いよー?」
智は黙ってて。
二人とも、何だかこの魔法を舐めてないですか?
私は少しだけムキになっていたのだろう。私の唯一で初めての魔法と言うことで少し感情移入がすぎたのかもしれない。
自分ではこの魔法の性能が一瞬で理解できていたのだ。後から考えても。
しかし、二人が私の魔法の評価をかなり下に見ていた事で少し、いつもとは違うことをしてしまった。
「……………!!」
集中して手を天に向ける。
「何してるんですか? 雪」
ここで葵がようやくこっちに来た。
「魔法、見せようと思って」
「え、ちょっと。これは………」
智は空を見て引きつった声をみせる。
見る見る内に辺りが暗く………──────
「天候魔法とかいきなり認識阻害もなしに使うんじゃないわよっっ!!!」
!?
びっくりして、集中を切らす。しかし雪雲は出来上がった後である、もう制御できないだけ酷いことになるのではと自分でもおかしなくらい怯えてしまった。
そして、叫んだのは村上さん。
彼女は何時の間にか着替えたのか、巫女服だった。そして、天に向けて矢を放たんと弓を構えていた。
そして、撃った。
「流石、太陽協会トップクラスの魔導士」
棒読みの台詞を智は言う。
「どうよっ!」
放たれた矢は、天の雲に到達する前に幾本にも分離し、雲を貫く。
そして矢は、その無数にある矢の一本一本が雲に大穴開ける結果を残した。
……………あぁ、大変だ。
「……あの、雪? どんな魔法を使ったん……で……しょうか……?」
きっと空を見ているのだろう。だから俯いている私と違って見ているのだろう。
だから、答えても意味がない。しかし答えねばいけない。
「絶対零度を使って生み出した雪の玉が降り注ぐ魔法」
「智っ!!」
「分かってるよぉ!! 《焔火炎華》ぁぁぁあ!!!!」
見れば、智の両手には炎が現れていた。
智は頭の後ろで両手をあわせ縦に振るう。すると手の炎がその直線上に伸びていき、天から降り注ぐ雪の玉を防がんとドーム状に頭上数メートルのところに広がった。
「ねぇ、葵? 炎を消すにはどうしたらいいか覚えてる?」
「空気に触れないようにするか、急激に冷や……す………!? 智! どっか飛ばされないようにしがみつきなさい!!」
どうやら魔法の炎とて、絶対零度に勝てないようだ。
「はぁ!? いや、防げて────ない!?」
証拠に、雪の玉は炎の壁を突き抜けてきている。
「葵! 任せた!」
「え、ちょっとどうなって」
「鎧巫女もその辺飛ばされないようにしがみついとけ! 吸い込まれれば死ぬからな!」
「なっ──!!? ああもう、分かったわよ!!」
地面についたら弾ける仕様になってるから、みんな危険だよね、そう言えば。
制御手放した私が悪いけどさ。
「っし! 葵もう良いぞ!!」
雪の玉は炎を突き抜けたあたりでゆっくりとした動きになっていた。推進力を削るだけ削ったのだ、あの炎は。
「雪!」
私は葵の脇に抱えられる。いくら私が小柄な体格とは言ったって、そんな軽々と抱えられるのねー……はぁ。
「よし、危なそうだから詠唱付きでいきますよ! 『光すら飲み込む空間の歪みよ、我の前にある驚異総てを吸い込み砕き空間の果てへ』《擬似重力・転移門》!」
詠唱……詠唱ってことは魔法なんだろうなってすぐに分かる。
葵が詠唱し、現れたのは黒い点。
それは渦を巻くように辺りの色を吸い込み、黒が拡大する。
確かに、あれは黒に見えるが、あの場所だけ暗闇と化しているのだろう。
「うっ、吸い込まれっ!!」
そして雪の玉も、人も、ありとあらゆるものを黒いそれは吸い込んだ。
その吸引力は風を起こし、葵に抱えられている私は吸い込まれていた。
冷静に周りを見渡せば、村上さんも智も物にしがみついて耐えていた。
そして特に何も反応はない遠くの二人には特に影響はないだろう、と思うことにした。
「葵! もう良い! 雪玉消えた!」
「ふっ!」
葵の一息で黒い渦は消えた。
彼女は涼しい顔で私を地面に下ろす。
「全く、とんでもないことしてくれたわね……見た目普通の雪玉だけど、なんだったの? とても危険な感じを見ただけで感じたけど」
「すごい冷たい雪玉だったよね」
「…………」
と言うか、これももしかして、葵来なかったらヤバかったのではないかと言うのを私は感じていた。
「ほんと、何やったんです? 雪は」
しかし、黙っているわけにもいかない。仕方なしに正直に答える。
「……雪雲を温度変化で作り出して、温度を絶対零度まで落とした雪玉を降らせた」
「「うわ」」
村上さんと智の声が重なる。
自分でもこれは反省してます……。当たったら凍死する、しかも即死級だと思うよね……雪玉は一つ一つの半径は人二人分位を想定したし、しかも地面に当たれば無差別に冷気をまき散らすし……。
「……ごめんなさい」
「仕方ないですね」
苦笑いして葵はすぐに許してくれた。
「ねえ赤髪?」
「何?」
「鍋川さんに甘くない?」
「日頃の行いだよ、良い子だし」
「……智? どうせあなたが雪の魔法を低く見たとかで雪がムキになったんでしょう? だから雪はあんまり悪くないですよね」
「多少当たってる感じするけどさ………」
「やっぱり甘くない?」
村上さんの中では、葵は私に特別甘い。と言う評価に落ち着いたようです。
「整理すると」
────一つ。雪の魔法。これは人名ではなく、天候名の雪。
────二つ。温度を変化させる事が出来る。上ではなく、下に。それも絶対零度たる-273℃まで。
────三つ。あくまで氷を呼び出す魔法ではない。温度変化で出現するのはすべて雪であり、氷とするには少し違う。無論さらにひと工夫すれば、氷になるけれど。
────四つ。雪は最低限の水分で出来てるからふわっふわ。
「と言う感じ?」
智に聞かれて、コクリと頷く。
自前で水を用意できる魔法ではないけど、水を用意するだけなら他の魔術でも出来ると村上さん他数名も言っていた。
「にしても、効率悪い感じするけどね、雪に変化って」
村上さんはそう言った。確かに、分からなくもない。
けれど、智の言葉によれば『一番適正のある魔法』だ。名前にも雪ってあるし、実際ぴったりなのかも。
因みに、天候の雪と雪幸の雪は発音違うからね? ややこしいからユキにした方がいいだろうか?
「ま、効率云々は気にしない方が良いでしょ。それより制御と………そう言えば、魔力消費はどんな感じ?」
魔力の消費量………? うーん………。
「気にならない、かな」
「すっごい抽象的ね、青髪の方」
「なんですか?」
「確か魔力消費の具合知る術持ってたわよね?」
「………何で知ってるんですか」
「割と私も情報を持ってたりするのよ、割と」
村上さんはどや顔でそう言ってる。
「ま、隠してた訳じゃないですし、やるのもやぶさかじゃないですし」
そう言って私に近づくと、葵は私の両肩の上に両手を置いた。
「丁度いい高さですねー…」
むー……?
私がむくれたのを見て葵は口ごもる。顔を逸らす。
「あっ、えっと……えいっ」
…………?
しかしなにも起こらなかった。
「……とんでもない容量なのは分かりました。でも回復出来てないです。消耗は微々たるものですが」
「そう…。鍋川さんに魔力の回復のやり方とか教えてあげれば、どの程度回復できるか分かるでしょ。と言うわけで」
「…分かった」
─────後々になって分かったが、私は魔力の回復がとんでもなく遅い。
しかし、このときの私はそんなことは全く考えずに魔導士としての特訓に取り組むのだった。
次回はまた書き溜めが貯まってからにします、具体的に言うと三章終わりまで書き終わってから、位ですかね




