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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
間章 α-2
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雪幸と魔法



「どうしてこうなった……!?」


「………それは私が知りたいわよ……」


 二人揃ってそんな事を言う。


「すいません、お二方仲が悪かったんですね…」


 妹が頭を深く下げて、謝る。


「いや、単純に所属が違うだけだから。ね、鬼巫女」

「………依頼は数回一緒にこなした仲ではあるけど……良くはないし、悪くもないと言えるわね」


「あはは………」


 葵が半笑い。


「兎に角、雪幸の魔導師としての性能をある程度まで上げてよ、でないと同行は許可できないから」


 浅葱千由さんが、突き放したように言う。


 ここは、村上咲────鎧巫女とか鬼巫女と呼ばれていた黒髪の女性である─────彼女に頼み込んだ結果、 、なんと彼女の実家で魔法を教わることになったのだ。魔法じゃなくて、魔術……だっけ?


 柚里ちゃんによって説明はされているので、ここに来る人は理由知りである。


 …………まあ、村上さんの実家。たとえ随分広い敷地面積を持った神社だとは言え、ホイホイ来てしまって平気だったのだろうか……。


「問題ないわ。場所なんて分からないでしょ?」


 それもそうだ。ここにはなんと転移してきたのだから。


 ……光る穴がわーっと現れて、それをくぐるとあら不思議。神社に着いていました。


 としか表現できないし、それ故にここが日本のどこか、分かりもしないのだ。


 ……もしかしたら日本ですらないのかもしれないけどね。


「…………?」


「そう言えば、人、思った以上にいますよね」


 思ったことはすぐさま葵が代弁するように発言した。


 今居る人は────


「あー、華と鐘本君は向こうで斬り合っててね」


 そうやって村上さんが言えば、女性一人と男性一人、端の方に歩いてく。


 女性の名前は宮原 華。切りそろえられた前髪が特徴的。ただ、彼女は片手で軽々と自分の背より大きく、自分の体重よりも重そうな大剣を持っていた。


 最初見たときは目を疑ったけど、周りの人はほとんど気にしていない。仕方ないので出来るだけ思考の外においておくべく、目を逸らした。


 男の方は、鐘本 秋。あき、ではなく、しゅう、と読むようだ。左手に日本刀を持って、宮原さんと斬り合いをしている。


 右腕は偽物らしく、先程から右手で攻撃を防いでは吹き飛ばされていた。傷ついた様子がないところから、精巧に出来た義腕だということがはっきり分かる。


「…私は……?」


「んと、取り敢えず魔力が感じ取れるように………魔力だとか魔術の説明必要?」


 必要です、と答えようとした私よりも先に横槍を入れられた。


「余り細かいことはいい。簡単にやってくれ、時間が勿体ない」


 浅葱千由だ。


 彼女の言葉は決してどうでもいいと言うところから言われたのではない。単純な焦りからである。


 魔力操作を覚えることですら、随分時間がかかるらしい。


 それを知るのは少し後だが、そう言った理由も突き放した言い方の一因となっていた。


「……いいの?」


「いい。理論より実技だ」


 知らないでも魔術が使えるなら問題ないのだけど。


 村上さんは言われて説明し始める。


「魔力……普通の人の目に見えないけど体内に確かにあるエネルギーの事で、これを使えば魔術を発動出来るの。イメージだけで行うのは魔法と言うけど効率が悪いし、魔術とは違った才能が要求されるから今は除外。魔術は詠唱すればある程度形になるから、それを教えます」


「ほぅ」


「ま。まずは魔力を感じ取って貰おうじゃないかって事よ。ね、赤髪」


 私に触れようとしていた手を止めて智に話し掛ける村上さん。智は村上さんが自分を見たことに驚いていた。


 ちなみに智は私に触れようとした村上さんの手を弾こうとしたのか、妙に構えていた。


「手、出して」


「?」


「えい」


 プスッ


「………ぇ……なに、それ」


 気付いたら智が持っていた注射器のようなもので私の手のひらを刺さしてきた。


 ………痛くはないけど、突然何を。


 いつの間にか注射器を取り出したのか、全く分からない。それと、注射器の中身を押し込んで注入してくる。



─────熱い………っ!!?



 手のひらが焼けるような熱さに襲われる。原因はもちろん注射器から注入された何かだろう。


 その熱さは手から腕へと伝染し、全身へと広がる。


「………っ……はっ……」


 耐えきれず私は倒れてしまう。


「え、えちょ、何何何何!? 赤髪何かこの子の様子おかしいんじゃない!?」


「……多少反作用が有るみたいな話聞いたけど多少じゃないよね……これ」


 熱い………熱い、息が、苦しい……。


 慌てた様子が見られない智。実は彼女自身も一回体験しており、死ぬわけがないと確信しているのだ。


 因みに、魔力を直接流し込む方法で魔力を認知させようとすると最悪頭がパーになったり、心臓が止まったりするらしく、智からすればこちらの方が安全だと認識していた。


「っても………これはおかしい。と言うか雪、熱い」


 と言っても、流石に親友が倒れ込んだ上に、息苦しそうにしているのを見て心配しないほどの人ではないが。


 倒れる時は智が支えてくれた。そしてゆっくり地面に横たえた。


「ぅ…………」


 燃えているのではないか、焼かれているのではないか。それ程までに熱を感じる。


 この熱さはどうにかしなくてはいけない。


 このままでは死んでしまう……?


「…………や……だ……」


 意識せず呟いた。


 視界は白黒になり、その上明滅する。


 その視界に何かが映った。


─────雪の、結晶……?


 見間違いかもしれない。とてもじゃないがまともにものが見えるような視界じゃない。加えて見えたのもほんの一瞬。


 でも、焼け死ぬような痛みを感じ続ける位なら、藁だろうと蜘蛛の糸だろうと掴んでみる。


 そう考えを決めると、ふと注射器を刺された手が一層熱くなる。


「ちょっと!? この子手を押さえて痙攣してるけど!?」


「…………多分もう大丈夫……じゃなかったらマズいかなぁ」


 手首を握り締め、注射器を刺された手に意識を集中する。


 身を焼く灼熱を確かに感じながら。


 視界の先に、一度見えた『雪の結晶』がもう一度見えた気がした。


「あぁ………あぁぁ!!」


 ピキピキと音を立てながら冷気が降りる。


「おぅっ!? 寒ぇ!」


 今の季節は夏。空気は湿り、気温も高い。


 結果から言うと、私が無我夢中で起こした現象は空気を冷やしたのだ。


 そして冷やされた空気。よって空気中の水分が一瞬で凍る。所謂、ダイヤモンドダストと言う奴だろうか、私の体の熱さがだんだんと抜けていく中、ぼんやり仰向けになって空を見上げた。


「…………綺麗ね、これ」


 見上げた空は雲一つ見えず。空の蒼さは清々しい。……随分綺麗だ。


「どうよ、雪。魔法を使った気分は」


 私の視界を上から下へと遮った智の頭。


 私は少しばかりの感情を込めて、返答した。


「最っ…悪……!」






「ま、体験してもらったこれ」


 智の指先でペン回しのようにくるくると回る空の注射器。


 指で弾いて宙に放ってから掴み取る。


「才能のある人なら反応する物でね」


 智は握り締めたその注射器を懐にしまう。


「一つ魔法を使えるようにするんだよ」


「魔法? 魔術じゃないの?」


「術式覚えるのも悪くないけど、優のお姉さんが求めてるのは即戦力なん。適正の有無を調べるのと、魔力の扱いを覚えるのも一気に出来るこれは最高でしょ?」


「最悪。」


「…反作用はその魔法の強弱によって変わるんだけど……相当強い反作用だったし、期待できるよ?」


 それでも私の考えは変わらないのだけど。


「で、雪。体の調子は?」


「悪くない」


 私は手のひらに意識を集中させる。


 すると、手の周りの空気がピキピキと音を立てて輝く。同時に手の周りの空気の温度が急に低下する。


「……これが、私の?」


「そう言うことになるね。氷?」


 智は何となく、この魔法の本質が分からないので、当てずっぽうで言ったのだろうが、私にははっきりと断言できる。


「雪」




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