再会の足音は近く
「うーあー、やめてくれー」
「うるさいです、静かにして下さいと何度言ったら」
リンはネイシーの襟首を掴んで強引に引きずって行く。
何処にって? 領主の館だよ。
「ねぇねぇ……あの人、ネイシーさんだよね」
「そうそう、何で引きずられているんだろうね」
「助けなくていいのかね?」
「「それは大丈夫でしょ、ネイシーさんだよ?」」
「そうよね、なんの意味もないことを意味ありげに話すし、またなんか………」
全く、引きずって居るのに特に悪目立ちする様子もないとか、これで良いのか? オルカリエ。
道行く人はちらちらこちらを見てはいるものの、スルーする方向性のようである。
「あれ、ネイシーさんじゃないですかー!」
その声をした方を見るとメイド服の女性がいた。
正真正銘メイド服。これをメイド服と言わずして何がメイド服か、と。
ま、それはいいんだ。
灰髪のメイド服の女性はアホっぽい表情で────いやまて、アホっぽい表情ってなんだ。口が半開きとかそう言うところからか?
とにかく、歩み寄ってきたのだ。
「な、何? フィアナ」
「何でこんなところで遊んでるんですか、早く行きますよ!」
ネイシーの手を掴んだ、フィアナと呼ばれたメイド服の女性は、その手を強引に引っ張るが。
「ぐうっ!? ぐるじ……」
リンがまだ襟首掴んだままだったのである。
因みにリンは首の後ろ辺りを掴んでいた。
「………えっと…なんですか?」
「いや、そっちこそ、何なのかな?」
俺には嫌な予感がした。ネイシーも同様に感じたようである。
「リン、離してやれ」
「嫌です、ネイシーが逃げちゃいます」
「ちょっ、逃げないよ!? だってフィアナは───」
「渡さないつもりですね!? 私財布忘れたんでネイシーさんに財布になってもらおうと思ってるんですから!」
うわひっでぇ。
そう思ってネイシーを見ると
「だからこれは私が」「ダメ。逃げるから」
─────苦しそうにもがいていた。
そりゃ、首締まるよな……。
見かねた俺が、ネイシーを掴む二人の隙をついて手を離させた。
「あれ?」
「むー……」
フィアナは理解できず、リンは不満そうに頬を膨らました。
「取り敢えず、フィアナとか言ったか?」
「え、はい」
「お前の用事終わったらコイツ借りるぞ」
「えぇ………?」
「借 り る ぞ」
と、言うわけで。
フィアナとかいうメイド服の女と、買い物をすることになった。
「いやぁー…人多いと運ぶのが楽ですねぇ……!!」
「何でこんな事してるんでしょう……」
全員の手が塞がるほどに買い物をしたフィアナ。
いくら何でも一気に買いすぎだろ…俺もやるときはあるが、こう言うときは台車かなんかを持って行くぞ……。
特にネイシーの持たされ具合がおかしい。
………コイツこの街で何してんだろうか…。
そう考えている内に、フィアナが立ち止まる。
「よし、着きました! ありがとうございます! ちょっと館の中まではこないでもらえると……」
「なぁ、リン」
「うん、分かる」
「「目的地到着。」」
「さっきからそう言っていますよ?」
フィアナはそう言っていつの間にやら現れたメイド服の女性の持ってきた台車に荷物を置く。
手が空いた俺はネイシーをチラと見ると、だから言ったじゃん……。みたいな顔をされたので。
「がふぇ!?」
腹を蹴っておいた。
「おえっ……けほっ……何で蹴るのさ」
「イラついた。最初から言えよ」
それは理不尽だとも言えようが、俺は気にしない。
「遅い、フィアナ。何して………って、この人達誰だ?」
駆けつけたのは、高そうな服を身に着けた白髪娘。
その衣類に派手さは無いが、高級感は見ただけで分かるほどだ。
「…………お客さんだよ、フィーナ」
ネイシーは俺に睨まれて、そっぽ向いて呟いた。
「はぁ? 客? 暫くは誰も来ないんじゃ無かったのか?」
「事情が違うよ。だってこの人達、領主としてのフィーナに会いに来たんじゃないからね」
「……個人的にってことか? 尚更おかしいだろ?」
「領主交代の時に関わっていた女について聞きたい」
領主……フィーナはキョトンとした表情を作った後に腹を抱えて笑う。
「ぷっ…くく、ははははははは!!」
「何がおかしい?」
俺としてはちょっとばかし不愉快だ。
「領主騒動に関わった女なんて、私とそこのふくくっ……げほっけほっ……はぁ、笑いすぎた………そこの二人だけだぞ?」
「はぁ? ふざけんな、こっちはいるって聞いてるぞ、髪が三色に分かれている女だ。覚えないか?」
詰め寄って、出来るだけ丁寧な言葉遣いを心掛けて言う。
「おー、こわ。知らねえもんは知らねえよ、髪が三色に分かれた女だと? そんなの……っとと」
…………?
やけに『女』と言うところを強く言ったな……。
「はぁ、全くもう。教会はまた……。カイ…?」
「おいおい、何しようと────」
俺は手のひらを、この態度だけはデカい娘の額に乗せる。
「俺にその世界を見せろ」
「────っ!?」
フィーナは口をぱくぱくさせる。瞳孔が開き、苦しそうだ。
その様子を見たフィアナが体当たりを仕様としているのが読めたので、手をフィーナから放し、飛び退いた。
「大丈夫!?」
「……っ。何をした?」
フィアナが肩を揺すって無事を確認していた所で、フィーナは思い切り睨みつけてくる。
何をしたも何も、記憶を覗いただけだ。
魔法じゃないから、詠唱も魔力もいらない。というか、ステータスシステムは俺には関係ない。
────というか、笑えてきた。
痙攣するように笑う俺を見て、リンは不審に思う。彼女は何をしたか理解はしてるだろうが、何を見たかは知る由もないのだ。
「そうか、くくっ。こっち来ちまってたか!! ああ……懐かしいなぁ……」
────もう、会えることはないと思ってたが……そうか…来ていたのか……。
「な、泣いてる…? どういう……」
フィーナが戸惑うように言って、そこで漸く俺は頬が濡れていることに気付く。
仕方ないことだ。ぐしぐしと目元を拭い、俺は一言聞いた。
「浅葱優。そいつが何処にいるか、答えてもらおうか────」




