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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 二章 豊穣の巫女と訳あり集団
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赤と青と炎と重力



─────その瞬間に、今までの思い出が頭の中を駆け巡ったのだ。とフーデラは後で言っていた。


「あっ───」


 銀閃が走る。


「────っぶないにゃぁ!!!」


 フーデラはとっさに頭を反らして、手を船から放し足だけで船を駆け上がる。


 刀は先程まで頭があった所を斬り裂き、通過する。


 しかし、先程の動き───壁面走りながらの後方宙返り───のおかげで、辛うじて……回避できたよね、胸当たってないよね!?


 見れば、剣先が掠めていたのか少し布地が裂けていた…。


 駆け上がる勢いから自由になってしまう足。落ちてしまわないよう、落下する勢いで船の縁に左膝を引っ掛ける。


「容赦な───にゃぁ!!?」


 今のアサギは文句も許さない。


 次は振り下ろし。


 フーデラは振り下ろされる刀に向けて白刃取りを敢行する。


 そしてそれは成功しフーデラは誇った顔で───


「どうにゃ────あっつううっ!?」


 赤く光り出す刀。相当な熱である。


 どうやらアサギ、腕力では勝てない───アサギ、一応男だったと思うんだけど────と見限ったのか、刀を熱したのだ。


 一瞬だけアサギの頭を見れば、先ほどと同じく赤かった。


 フーデラは赤熱した刀から手を離し右足で船の縁を捉えると、全身を思い切りひねり左足でアサギを蹴りつけた。


 アサギは手を離した瞬間に後ろに飛び退いていたので、その蹴りは空を切るだけだ。


 振り回す足を水平に回し、全身で遠心力を生み出すように右足を軸に反転。後に縁から遠心力を利用して跳ね、船に降り立つ。


「わあ容赦ない」


 フーデラはたまらず文句を言う。


 しかしアサギがその言葉に応えはしないし、フーデラもまた期待していなかった。


 と言うか半ば気付いていた。


────あの刀が原因だとすれば悪いの私じゃん。


「おい! やれ!」


 船上にはまだ何人も残っていた。


 何人かは船の外に投げ出されたのだろうか、フーデラの耳は数回何かが水面に飛び込む音を泳いでるときに聞いていた。


 さて、その船の上に乗っている人達は手を、杖を前に突きだし、魔法を雨霰のように放ってきた。


 質より量、といった具合に。


「まどろっこしいわ」


 ……うわぁ、熱い。


 数多の魔法はアサギの放つ赤に阻まれ、消えていく。


「無駄」


 アサギは呟いた。


 フーデラはアサギには攻撃されたが、だからといって何を優先するかを変えるつもりはなかった。


────エリシアの救出を優先。


 様子のおかしいアサギだが。それは放置だ。


 フーデラはアサギから目を反らして、船内に向かう扉を目指して低い姿勢で走り出す。


 大丈夫、夜目はきくから───


「ボウガンならどうだ!!」


「どうだ……とは、無駄だと言って…ほう」


 怒号。風を切る何か。


 私の視界からほんの少しの明るさ、暖かさが消える。


 背後で起こる何かを無視して船内に続く扉に手を掛ければ、自分の体が強く右肩に引き寄せられるような感覚がフーデラを襲う。


「え────」


 フーデラはそのことに疑問を持つと同時に右肩を見るとそこから数本の木の棒が突き出ていた。



 肩から、木の棒。


 木の棒の先には金属の鏃が付いていて、凶悪な返しまでその鏃には付いていた。


 それが、何本だ………?


 扉に掛けていた手の力が意志と関係なく抜ける。


 右肩の激痛はそこでやっと────


「───────────ッ!!」


 声にならない。


 右肩に感じる痛みは刺さったものだけでなるようなものではない。肩を貫通している地点でそんな事気にする余裕はないはずだが、きっと獣化の影響だろう。


 裂傷とか、そう言ったものではない。砕けている。


 歯を食いしばり、振り返れば。


「ふん………」


 するとどうだろう。


 自慢気な顔のアサギと、総じて呆けている船員が瞳に映る。


 アサギの髪色は青………なのか?


 明るさが消えたのはそういうことか。赤の方が明るいし。


「《擬似重力塊》」


 アサギは謎の言葉を呟いた。


 そして私は思い切り地面に叩きつけられた。空気が襲いかかるでもなく、地面に吸い寄せられるように叩きつけられて呼吸が覚束なくなってしまったが、しかし辛うじて右肩を上にして倒れ込めた。


 フーデラは目を白黒させてアサギを見た。


 倒れ込んだ床板は多少陥没。そしてフーデラにはなにが起こったか分からなかったのだ。


「お………おい! ちゃんと狙えよ!」


「狙いましたよ!」


「じゃあ何で! あの小娘に命中させられないのだ!」


 キレた船員の一人が叫ぶ。


「何故だと聞かれれば答えるのもやぶさかではない」


 アサギは退屈そうに青く染まった前髪を弄くるその手先を見ながら言った。


 持っていた刀を前に向ける。


「こういうことじゃよ、《擬似重力塊》」


 技能名をつぶやくとともに刀の先に黒い球体が現れる。


 何故、技能名なのかわかるの? と言うと『何か違う』という違和感からである。少なくともフーデラはそうだった。


「なっ!?」


 球体は吸引を始める。


 ものすごい吸引力に、フーデラは辛うじて左手を、床板が軽く陥没したことで出来た隙間にねじ込んで抵抗する。


 船員たちも物に掴まることで耐えていた。中には床に穴が開くことも厭わずに剣を立てている者も居た。


 しかし、全員が全員そう直ぐに判断できるわけもない。


「うわぁぁあ!!」


 一人、抵抗する術無く吸引される人が居た。


 まるで水平方向に『落ちる』ような速さでアサギに向かって突進するその人に向けて、アサギはわざわざ峰で船の外に払いのけるように吹き飛ばした。


「ちっ、邪魔するでない」


 アサギはその直後呟いた。フーデラには、理解できない。


 しかしとて、吸引が終わったわけではない。


 二度、三度と黒い球体に引き寄せられては弾き返されたその人はアサギの手によって


「解除」


 黒い球体が消え去るまでには気絶していた。


「とまぁ、こんな感じじゃな。分かったら大人しくあの小娘のもとへ案内するんじゃな」


 フーデラはようやく、アサギがおかしくなっていてもエリシアを───


「これほどの肉体が手に入れば、あの程度の小娘用済みだからのぅ」


─────訂正、明言した以上、とっちめなくてはならなくなった。


 ふらり、とフーデラは立ち上がった。


 無論、右肩から先の感覚はない。矢も抜いていない。


 思った以上に血は流れていないが決して少ないとは言えない。


 加えて言えば、先程無理矢理吸引に逆らうために左手を使ったが、左手がズタボロ。擦り傷や、無理矢理にしたため内出血もしているだろう。


 ステータスは見ない。異常も、終わりは認めなければ来ない。


 フーデラは心内でそう自分に告げると共に。


─────目の前に黒い球体が現れた。

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