赤く揺らめく
「───アサギ!!」
声が聞こえた。
海を走る僕は波がおかしい所に段々と近づいていた。
違和感のある波は、ゆっくりと逃げる為にどうしても時間がかかってしまう。
そして、声が聞こえた。
前から、声が聞こえた。
この、声は確か………あれ? 誰とも結びつかないぞ?
「アサギ! こっち! ここ!! 助けて!!」
とにかく、足下に向けていた視線を頭上見上げるように変えると、そこには必死そうに船の縁を走り回り跳ね回るフーデラさんがいた。
────見上げて、フーデラさんを見つけた瞬間船が現れた。
その手にはエリシアさんが持っていた刀が握られている。
………。
「ちょっ、何でフーデラさん居るんですかその刀何ですかあと直ぐには行けません!!」
走る高さを変えて、どんどん海面から離れていく。
でも、なかなか近付けない。
「ちょ、やめっ、当たったら痛いな!!」
フーデラさんは船の上を駆け回り人の手から逃げ回っていた。
空気の刃が彼女に迫るが走り回って逃げ切っている。
「アサギは………遅い!! 只でさえここ寒いのに!!」
「文句言わないで下さいよ!! と言うか風暖かいくらいですよ!?」
フーデラさんの動きは、良いと思うんだけど、本人の表情は浮かない。苛立ちが見える。
「やっぱり船の中だけなのにゃ……」
…と言うかこのままでは追い付けない。
「MPバー……」
しかし、フーデラさんの方が先に動いていた。
「あーもう! 面倒くさい!! アサギ、コレ受け取れ!! にゃーーー!!!」
えっ、ちょ!?
フーデラさんは思い切り、船から跳びながら、その手の刀を僕に向けてブン投げようとした。
─────しかし、フーデラさんは投げることに不慣れだったのだろうか。
刀は手から放れた瞬間クルクルと回転しながら大してして前に飛ばず、フーデラさんと一緒に入水───っ!!
「ちょっ、フーデラさぁぁん!!?」
僕は1も2もなくダイビングする事となった。
フーデラさんは、泳げたようで水面に顔を出す。
刀は、沈んだ。
「ほら、アサギ、回収するにゃー……」
「刀が、海に沈んだら錆びると思うんだけど……」
「うるさいにゃ…早く回収するにゃ……」
フーデラさんは眠そうに目を擦り平泳ぎしながらどこかに泳いで………そっち陸じゃない。
「フーデラさん!」
「何にゃ?」
「陸どこだか分かりますか!?」
「分かる」
彼女はサムズアップで応える。
心配しかない。
「フーデラさんフーデラさん」
「何にゃ、私は陸に戻るんだよ」
「船、奪いましょ? そうすればもっと簡単に」
「いやにゃ。船寒い」
「暖めます」
「本当!!?」
「ええ。ちょっと待って下さいねっ!」
僕は潜る。
──────実を言うと僕の記憶は水中を鉄だというのに完全に沈むことなく漂う半分ほど鞘から刀身が出ていた刀を見つけ、手にしようとした瞬間からしばらく飛んでいる。
だからここからは、フーデラさんに聞いたことだ。
「何にゃー………っ!?」
突如として海に穴があく。
しかし、穴に吸い込まれるように海流が動いたりすることはなく、ただ、そこに何かがあるようだった。
その何かはフーデラには感じ取れはしなかった。
「…………」
穴の底から、空中を蹴って、駆け上がってくる一つの影。
それは海面よりも高く、さらに高くまで駆け上がると持っていた刀を抜こうとした。
「あれは……エリシアの」
じゃあ、あれはアサギなのか……?
フーデラは疑問に思った。彼女から見たその人物は暗くても、見えた。
色、姿形まではっきりと。
だから、だからこそ疑問に思ったのだ。
「赤い……髪…?」
その人は、赤い髪をなびかせて、視覚化出来るほど強い『火属性』の気を纏っていたのだから。
火属性。当然のように赤色、そのオーラを彼は周囲に放っていたせいで全身がやや赤く補正されていた。
燃えるような赤をした彼を、フーデラがアサギと直ぐには認識できなかったのも、仕方のないことかも知れない。
空にいたアサギは、宙で停止してから約三十秒程でようやく刀を完全に抜き放つ。
フーデラは確認した。
刀身もまた、煌々と神秘的な赤を放っていた事を────。




