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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 二章 豊穣の巫女と訳あり集団
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船内隠遁



「…………マズいことになった……?」


 ()は今、船に乗っていた。


 ……何で乗っているのでしょうか?


 と言うか突然視点変えるな。と思うかも知れません。


「────おい! そっちにいたか!?」


「居たら言ってるっての!!」


「あの獣人何処行きやがった……」


 私フーデラは、今この沖に出た船という超閉鎖空間で追われていまして。


 何故かというと、そこそこ長くなりまして。


 少し振り返ってみますか──────






────────昼と言うには遅いが、かと言って夜と言うにも少し早い時間。


 丁度私の意識がはっきりし始める頃。


「フーデラ……店」


「んにゃー……?」


 ギーツに揺さぶられて漸く店にまで歩けていたことに気付く。


 なぁんだ……もう終わったのか……。


 名残惜しく今日を振り返ろうとしても、殆ど意識朦朧としていて覚えていない。


 わざわざ誘いを断らないギーツに度々外に連れ出してもらっているというのに一向に治る気配がしない。まぁ、治るものでもないので、そんなもの口実だけど。


「フーデラ、そろそろ起きる頃でしょ?」


「くぁぁー……」


 私は大きく伸びをしてから、はっきりと答える。


「フーデラさん完全起床よ! …床…無い…けど…にぇぁ…」


「いやまだ眠いよねそれ」


 ギーツの鋭い(?)突っ込みを聞き流して私は指を指した。


「ねぇギーツ」


「な、何?」


 あ、いけないいけない。


 向かい合ったギーツの方の向こうを真っ直ぐ腕を伸ばして指差したせいで、その指先が彼には見えてない。


「浮いてる…」


「何が?」


「エリシアが」


「んな、エリシアに浮遊なんて芸当……ん?」


 ここで振り返ったギーツは目を見開い───たかどうか、正直朦朧としてて覚えてなんて居ないんだけど。


「浮いてる」


「でそ」


 視線の先ではだらりと四肢を力無く下げたエリシアが私達から遠ざかっていっているように見えた。


「まっさか、エリシア如きに浮遊魔法なんて………いやフーデラ、アレ多分違う」


 あ、ギーツ、ボケるのやめたみたい。


 いや、このときの私に一片たりともボケるなんてつもりはなかったのだけど。


「《アイシクル・ニードル》」


 ギーツはエリシアに向けて氷の礫を………ってギーツ!?


 エリシアは余裕のある動きで右へと回避した。


「《アイスミスト》」


 続けてギーツは霧を出す。


 範囲内の生物を凍てつかせる魔法で、妨害の魔法と水の魔法の混合魔法である。


 凍てつく速さは本来早くない。本来であれば。


「何だこれはっ!?」


 誰かの驚く声が聞こえる。それもそのはず、私だって驚いてる。


───何もないところに氷の足が出現したのだから。


 氷の足が出来たと同時、エリシアは前へと飛んでいく。まるで馬車が急停止したときに車内で立っていた子供が車外に飛んでいくように。


「……抑えすぎたな……」


 ギーツはそんな事を呟いていた。


 それと、流石に私でも気付く。


「なぁ、透明人間さんよ、ソイツ、どうして連れて行こうとしたんだ?」


────そう! 小人さんが………ってあれ?


 ギーツが語りかけると、空間が歪み、人が現れる。背丈はギーツよりも大きく、体つきもしっかりしてるけど……女。すごい薄着で、服の上からでも彼女の筋肉質な肌の感じが分かる。


 そして彼女の足は、先程まで見えていた氷が張り付いている。


「はっ、そんな事より、こんなの街中で発動して。騒ぎになるぜ?」


「いや、それ。魔法ランクDだから、街中で撃っても平気な奴」


────街中では回復魔法でなければ魔法ランクD以下しか撃ってはいけない。というのがこの町の取り決めである。


 一応先程放たれた二つの水魔法ランクはDである。


 ギーツの魔法、異様なまでに威力出るから少し問題視されてるんだけどね……。


「んなわけあるか! おい、巫女の回収を!」


 足が氷づけになっている女が周りを見渡しながら大声で叫ぶ。


 すると、周りの建物の、文字通りの影から染み出すように人が何人も出て来る。


「黒っ!? 何アレ!?」


 驚いたのは私で、私はギーツの袖を掴み叫んだ。


「うっ………ちょっ、離れてなんかの魔法で影に隠れてたんでしょ、よく分からないけど!」


「二人は足止め! 他は巫女を!!」

「了解」


 影から出てきた人は五人。内二人は足を氷づけにされていた女の前に出てきて、一人は弱々しい炎を手元に出して女の足の氷を溶かしに、残りの二人がエリシアを抱えた。


「フーデラっ! 逃げるよ!!」


 ギーツ、行動早い! と言うかエリシア見捨てるの!!?


「え、あ」


 戸惑う私の手を掴み、ギーツは必死に私を説得した。


「フーデラも僕も、あいつら一人にすら勝てないんだよ! ただの素手装備だとしても!」


 説得した、と言うよりも。


「ああもう!」


 ギーツは私の耳元に口を寄せて


「ごめん《スリープ》」


────強引に寝かしただけである。






──で、どう逃げたか。それは分からないけど、目が覚めたら。


「………エリシアは?」


「船。どうする? 僕は乗らないけど」


「………いや……どういうことにゃ」


「アレ」


 ここは、港?


 ギーツが指を指したのは、大きな船。


 て、あれに乗ってるの?


 ギーツは半眼で頷いた。


「………みんな確かに面倒事抱えてはいるけど」


「言わなくて良いよ、フーデラ」


「店長とエリシアがトップクラスに面倒くさくないかにゃー?」


 私が聞いたのは、ギーツの呆れからの溜め息だった────






─────って、ギーツ。「店長と並べるには足りないと思うよ?」じゃないよ。


「へくちっ………うう…」


 急に寒くなってきたな。


 取り敢えず最後にまとめとして。


「私はエリシアの刀だけしか見つけられなくて、エリシア見つける前に私が見つかっちゃった、ってこと…か…」


「──おい! こっちから声したぞ!」

「はぁ!? 聞こえねえよてめえのこえしか!!」


 ……相変わらず、探しているようで「そろそろ俺らも寒くなってきた!」「わかった、お前は下を! 俺は上に行ってるからな!」「ふざっ!! 凍え死んでらでーすんだよ!!」「あっはは!! 呂律まやってねーでやんの!!」「おまえもな!」「「はっはっははははは!!」」


 ……ん?


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