規格外
「うわ!? 津波!?」
エルの目の先には大きな大きな水柱が突き立ち、その水柱から遅れてくる波はその水柱の高さと遜色ない高さを以て無差別に猛威を振るう。
ついで、エルは思い至る。
───あ、あそこの船、アサギが乗り込んだな。
ということを。
「あのバカやろう!! 流石に町に被害を出したら許せねえぞ!!」
口走った言葉は誰も聞かれず、エルは乗った船から全力で退避した。
────やばっ!! 溺れるっ!?
まず僕が水につっこんで思ったことはそれだ。
憤怒の攻撃判定はどうやら海水にもあるようで、ペナルティーが下ったのだ。
全身の虚脱感から、僕は一瞬息を吸い込んでしまった。…海水も飲み込んでしまって、咽せそうになったのが水中。悪循環だ。
息が出来ない、ともがく内に色々とあって………─────
「げほっ…あれ?」
────海水が僕を避けた。
意味が分からない。いや、ほんとに。
「あー……あ…」
海中だと言うのに息が出来て、混乱を押し退けながらも落ち着いたので、海水を押し退けたまま海面にエレベーターのように浮上した。
多分、予想が間違ってなければ放出した魔力が海水を押し退けたとかそんなんだろうけど、流石にそれはないと…………思いたい。
でも、そうだとしたら色々合点が行くんだよねぇ………。
…………って。
そしてようやく水面から頭だけを出した僕は周りを見た。
「やりすぎ?」
「やりすぎどころじゃないわ!! あっぶないとこだったろ!!」
港から叫ぶエル。傍らにはひとりだけ人が立っている。
「お前が人力で起こした津波は紙一重防いだけどな、そう言う一般人に向かうような攻撃するなら庇うに庇えないぞ!!」
「庇うって……まるで僕が教会の庇護下じゃないか」
小さくつぶやいたので聞こえてないだろう。
取り敢えず、船が一つも転覆していない。ちくしょう。
そう思ったと同時に、一隻沖に居るのを僕は見つけた。
「………魔力って怖いな…」
僕は水面に立った。
最近よくやっていたからか、魔力を足場にする動きは少し慣れた。そのおかげかな。
こうなってみると、さっき海水を退けたのは、僕の魔力だと言うことを認めざるを得ない…。
「行くか!」
気がついたら船は消えていたが、迷わずその方向に向けて走り出す。
「おい! 待てよ! どこ行く気だ!!」
「ちょっと沖までね!!」
叫んで、走り出す。
「…………一度気にし出すと不快だなぁ…」
海面を走りながら、呟いた。
海水に濡れた衣服は重く、肌にはりついて不快感を与えてくる。
自分の長い髪も邪魔だったが、ズボンのポケットに偶然入っていた白布。それを用いて高い位置で髪をくくる。
…それでも邪魔だけれど。
と言うか、僕が一番気になったのは
「多分こっちの方だよね」
走り出した原因。消えた船影である。
……魔法がある世界だ。あの見えた船影は幻覚だったとか、超速度で退散したのかも知れないし、そもそも見間違いかもしれないけれど、どうしてかとても気になってしまって仕方がなかった。
今のステータスに表記されている装備は、実質あのオンボロ剣だけだ。
他はステータスに影響がないからね。衣類とか。
「ん…………?」
僕は走りながら、視界の違和感を感じた。
波の動きが、少しおかしい。
「取り敢えず、行くか」
既に僕は沖、簡単に陸に戻れるような位置ではない。
ステータスをちらりと見る。特に消耗もしていない。
迷いは無く、進むしか僕の頭にはなかった。
【アサギ ユウ】
【Lv】27
切れ味の悪い直剣(+30)
身体能力値…一般成人男性を50とする
【HP】 71 【MP】 10406
【力】 69 【魔力】22
【体力】62 【技量】75
【敏捷】108 【運】 135
【癒力】23
【技能】
《女装》
《演技》
《憤怒》
《MPバースト》
《三倍撃》
《魔力操作》己の魔力を操作する者が入手できる技能。操作性が向上する。
《鬼剣》術者の魔力を圧縮し対外へと出し、剣に纏わせることで剣の性能を向上させる。
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