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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 二章 豊穣の巫女と訳あり集団
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数百年の呪い

更新遅れてすいません! 呆けてました!



「そいつはとんでもないことになったかも知れないな」


「………所で、ほうじょうのみこ? って何なの?」


 僕はそれを知らない。まずはそれを知らなければいけない気がする。


 とてつもなく、嫌な予感がするのだ。


 こんな感覚、前に感じた時は確か直後にベアーの巣に投げ込まれたっけ………。


「豊穣の巫女って言うのは、とんでもない妖刀の一種さ──────」


 そう言って、エルは語り出した──────







 そこはこの大きな島とは別にある大陸。


 その大陸のうち、科学の進んでいない田舎の国のこと。


 その国では、古くから………新旧魔法歴間の空白の時代に、一本の刀を用い、豊穣を祈っていた。


 その国は昔から土地は痩せ、日照り続き。まともに作物は育たず、飢餓に苦しむ人々で溢れていた。


 その国は刀を用い、豊穣を祈る儀式を行う。すると、すぐに日照りは止み、雨が降り注ぎ、儀式を行った年は豊作であったという。


 儀式の内容は『贄となる人の体の一部を刀で貫く』ことだった。───最初の頃は人死にを出すつもりも、事もなかったのだが。


 儀式の開始当初は魔法が無く、数回事故のように人の死はあった。


 しかし、そのような事故は百年ほど前、新魔法歴に入って以降の儀式からすれば生易しいものである。


「今日から私が豊穣を司る意志有る祭具────じゃ! 贄を! 依代として若き処女を寄越すのじゃ!!」


 儀式を執り行うために刀を持った娘は、突然豹変してそのような台詞を吐いたという。


 変容は言動だけに留まらず、その者の瞳の色を輝く赤へと変容させた。


 長年儀式を行い続けた結果、刀に意志が宿ったのだ。そう言った事例は新魔法歴に入った頃の混乱期によく見られた─────。






「ちょっと待って……知らない単語がわんさか…」


「ん? 良いとこなんだから割り込まないでくれよ。聞きたいことはどうせ魔法歴について、だろ?」


 僕らは歩きながら話していた。僕は知らなかったが、僕らの行き先はこの町の教会だったという。


「魔法歴ってのは、年号だ。魔法があったという古の時代を『旧魔法歴』。旧魔法歴からおよそ九百年を経て魔法が復活した後の今の時代を『新魔法歴』で数えてるってことらしい。ま、今が新魔法歴98年と言うのは、一応言っておくぞーっと」


 エルはそう適当に言うと歩くペースを上げる。


 僕もあわせて、速度を上げる。


「じゃ、続きだな…確か────」






 豊穣を祈る祭具は意志を持ち、確かに贄と若い娘を要求した。しかも処女である。


 従わなければ、豊穣も訪れず、国が崩壊してしまうだろう───と考えた国のお偉方は生贄を選び、依代を選んだ。


 差し出された依代に文句もなく祭具は移譲され、そのまま贄の首を祭具(かたな)で叩き斬った。


 確かな意志を感じさせる儀式の犠牲者は、これが最初であり────以降、贄はこのような様を迎える事しか無くなった。


 残虐。周りからの声を娘は、依代故に祭具の意志ではあるが、赤い目を爛々とさせてこう告げた。


「不満があるか? ならば次の贄は騒ぐ貴様等よ。まだ足りんから丁度良いわ!」


 民衆は黙し、儀式は不作が起こる度に行われた。






「と、言うことで、その刀の祭具を持つ人は取り憑かれたように己を『豊穣の巫女』と名乗ることから、依代の若い女の子を〈ヨリシロノミコ〉なんて呼んでたりするんだ」


「とんでもない話だな……」


「しかし、豊穣の引き換えに人死にが出る事を許容できず、武器を壊さんとする輩も出てきた。………ま、ヨリシロノミコの能力が増強されるせいか、今までああやって完全型で残って……」


「ああやって?」


「昼間のことを思い出したんだよ、分かれ」


 少し強引だが、納得した。


 うだうだ言うよりも、話を聞こう。


「教会には独自の連絡方法があってなあ。そんで色々知れるんだ」


 間を置いて、彼は言う。


「そ、ここ。教会でな?」


「ほえー………ってここが?」


 普通に大きな建物だけど………。


「もっと……十字架とか、キリスト的建物と思ってたよ」


「十字架なんてもん教会が掲げるかよバカヤロ。とにかく中に行くぞ」


 そう言われるがまま。明るい、建物の中に入っていく。






「!!」


 燃え盛る街。わたしは一本の刀を抱えて、そんな熱で死にそうな町の真っ直中に突っ立っていた。


「………やだ……なんで……」


 刀の意志に流されて三年ほどだろうか。この国は文字通り蹂躙されていた。


 わたしが豊穣の巫女となってからは一時もしまわれることの無かった刀。


─────しまえば意識が戻ってしまうから。


 しかし、それは確かに鞘に納められていた。


 息が苦しい………。


─────私にとって親元を離れた頃が最後の記憶。人を殺めた記憶もなければ、どうしてこんなところに居るのかもわからない。


 ただ、大変だという意識で、ひたすら歩き回る。


 ふらふらで記憶も曖昧な中。歩き回る内に、鎧を着た大人の集団に捉えられてしまった事は覚えている。


 捉えられたら後は……思い出したくない。


 とにかく詳細を省くと、捕虜として船で海を渡る事になり、すんでのところで船が大破してくれた。


 そう言うわけで、この島にわたしは流れ着いたのだった。






「分かった。ありがとなー」


 エルが情報を仕入れているようだ。


 対して僕はこの教会に足を踏み入れたときから敵意という敵意に突き刺され、針のむしろ状態だった。


 怖じ気づいて入り口付近の椅子に座り込んでいた。


「なんでこんな睨んでくるの……」


「おーう、只今」


「おかえり、どうだった?」


 まあ、自分のことよりエリシアさんのこと。気持ちを即座に切り替えて話を切り出す。


「面倒なことになったぞ、やっぱりだ」


 えー……。


 そう言ったエルの様子は、大変だという事を如実に示していた。





─────…………ひどい夢を見た。


 昔の事なんて、思い出したくもない。


 今のわたしにとって、霜降り山亭。あの店が、全てだ。


 鬱な気分で目を開ける。


 すると、虚ろな目をした少女が目の前にいた。


────違う、これは……わたし…か。


 壁の一面が鏡になっていて、それがわたしを映していたのだ。


 壁にもたれ掛かり、天井を見る。


 鏡のお陰で自分の状況を客観的に理解できた。


 通りで吐き気を催すような空間だ。


「アサギさんに、悪いことしちゃったかな……」


 出入り口の見あたらないこの部屋は、わたしを閉じこめるためのもの。


 申し訳程度に灯りがあるのは少しの安心感と、理解をもたらした。


 つまるところ、わたしは。


──────誘拐された、のだろう。

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