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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 二章 豊穣の巫女と訳あり集団
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長すぎる。長すぎるよその名前



「いや。待って。そう、まず落ち着け」


 そうだまず落ち着くのだ浅葱優。僕は今までにないくらいに脳をフル回転させて考え始めた。


 怒って走り去ったエリシアさん。


 なぜ怒ったかはハッキリ分かる。


『僕が転びそうなエリシアさんの胸を触るように支えた』からだ。間違いなく原因はそれだ。


 まあハッキリ言って僕にはその感覚は分かんなかったんだけど。いやエリシアさんの胸がないとかそういうことを言ってるんじゃないしそもそもエリシアさんの胸はない訳じゃない。そこそこはあると男子の目からしても思うわけですよいやそう言う事じゃなくて単純に急なことなので味わう感触の時間がから足りなかったですけど違ったそういうことを言いたいんじゃなくて結局エリシアさんがこのまま怒ったままだと僕の寝床と仕事場の空気何よりもエリシアさんには誤解だと伝えなきゃいけない。


 ちょっとまて誤解ってなんだ?


 そういうことをする人だとは思わなかった? そう言えば目覚めてすぐ叩き落とされたけど、あれベンチとエリシアさんの後ずさる足跡的に膝枕して貰ってたんじゃないのか元の世界に戻れたら雪幸にやって貰いたいな。


 いやだから今は取り敢えずエリシアさんを追いかけないといけな──────


「こんにちは、どこに行こうとしてますか?」


「エリシアさんを追いかけに行くの!」


 後ろからの男の声に、半ばキレて振り返ると、金髪の獣人が立っていた。


 獣人と判断した理由は頭の上の耳と細くて長いその尻尾からである。


「ってどなたですか?」


 勿論面識など無く、一瞬で正気に戻った。


「いやはは、名乗る名なんて在りませんよ? 本当に」


「そうですか……。 ? 」


 そこで少し開けた空間の広場に疑問を持った。誰1人ここにはいない。


 ま、〈戦場の死神〉の凱旋云々だろう。


───…ってあれ。何か忘れてる気がする。


「そそ。本当に名乗る名なんて在りませんよ」


 瞬間獣人の瞳孔が縦に開く。


 僕はその瞬間変わった獣人の気配に、一歩飛び退く。


「だからあんたは悪者の天使に祈ってな!!」


───────唸る空気と獣人の蹴りは、僕が飛び退く用意をしていなければ、確実に僕に突き刺さって居ただろう。


「とっ!! 突然なにすんですかぁーっ!!」


 避けた後にさらにもっと下がりながら叫ぶ。


「はっ! そんなこと!」


 獣人の男は己の胸をドンと叩く。


「自分の胸に聞いてみな!!」


「いや、訳わかんないですよ!?」


 相手の獣人はあまり体つきは良い方ではなく、ただ身長は僕よりも高い。


 僕の身長が低いんだけど。それを除いても高い方であろう。


 ただ痩せていると言うわけではなく鍛えているのだろう、動きの鋭さが普段から見ている人達────例えばギーツさんとか───とは全く違う。


「…え? ホントにわかんない?」


 獣人の男は、まるで予想外のことのように、アホみたいに間の抜けた声を上げる。


「えぇ…はい…。まさか理由もなく攻撃してきたんじゃ…衛兵呼びますよ?」


「いやこの町で衛兵なんて呼んでも来ないことはザラなんだが………」


 あらそうなのかしら。


「……自覚無しの奴に会ったときのマニュアルってと……」


 男は服の下から本を取りだし、バラバラと捲る。


 いや、どこから出してるんだ。そんな物を。


「おっ、あったあった。………何々…刺激しないで名刺交換? つまり……あー、はいはい。そういうことー」


「いや、どういうことですか……」


「いやはは、自己紹介がまだだったね」


 って、そうだ、エリシアさんを追いかけないと。


「俺の名は………っておい! ここで逃げるの!?」


 僕はソイツから背を向けて走り出す。ちゃんとベンチに置いてあった剣とリュックを回収しながら。


「逃げるんじゃないです! 人捜しですよ、早く見つけないと仲直りできなくなっちゃいそうなんです!!」


 一応、走り去りながら言い訳をしておいた。




「と言うか本当にどこ行っちゃったんだろ……」


 僕は一通り走った後、また同じ広場に戻ってきていた。単純に道が分からないのと、がむしゃらに走っていたら気付いたら戻ってきていたのだ。


「おや、戻ってきてたのか」


「さっきの金髪の獣人さんか。まだ居たの?」


 ジト目でそう言えば、彼はドヤ顔で


「ふふん、今来たところさ」


「そうなのか」


 ドヤ顔の意味が分からないが、どうでも良いことだろう。


「………ってそうだ、えっと……」


 少し言葉に詰まれば、獣人は何か察したようである。


「お、自己紹介がまだだったな。俺の名前はエルディリエテシルオビーケだ」


「える………なんだって…?」


 長すぎる。長すぎるよその名前。


「ん? 普通よ普通。こんな長さよりもどこかの芸術家の名前の方が訳分かんないさ」


 やれやれと肩をすくめてみせる獣人。


 や、確かに何かすごい名前の長い偉人いたけども!? 言われてみれば長くなく思えてくるのが不思議だけど!!


 何だかムカつくなぁ……。


「とにかく! エルデリエテシルオバーケさんは「エルディリエテシルオビーケだ」…………エールは「エルディリエテシルオビーケだ」…………お前は「遂に名前で呼ぼうという気すら失せたか!」うるさい! 亜麻色の髪の女の子見なかったかなあ!」


 ……………。


「背はどのくらい?」


「…………僕とほとんど同じな……150ちょいくらいかな」


「そうか。胸は?」


「えっとそれは………っ!!」


「なぜ剣を振り上げてくるやめろ何か変な事言ったか!?」


「ご、ごめんなさい。……えっと…大きくは……ないと「貧乳か、分かった」そこまでない訳じゃない! と思います……」


「つか、何よ。その子探す理由は?」


「怒って走り去ったから」


「はぁっ。そんな理由で? そんな必死に? 様子見るに惚れてんの?」


「違う。只の死活問題だ」


「怒られたって、何やらかしたの?」


「それは全部不可抗力」


「内容を聞いているんだけども?」


「それは───って何で見ず知らずのエル如きに解説しなきゃ行けない訳なの?」


 すらすらと問答して、言い辛い所がきてやっとそれに気付く。


 いや、話題の転換に利用したのではなく。本当違うよ?


「ははっ、まあ良いじゃあないか」


「良くないですよ」


「あぁ、こう見えても教会の一構成員だからな! 事細やかに、胸のサイズとか言ってくれれば大捜索だ」


 組織の力を使うのかー。って教会?


「教会って、勇者だけじゃないんですか?」


「ん? 何処でそんな勘違いしたんだ?」


「………さあ?」


「まぁ、いいや。教会の名を出してビビりすらしないなら、観察案件だし」


「何の話で?」


「何でもないやい。……話戻すと…普通に会員はこの世界の人の方が多いぜ。勇者はこの世界の人間に殆ど干渉できないから、酷いことする輩はいない。一般人の仕事は一般人でってね」


「例えば?」


「冒険者とかのギルドとか、衛兵とかとはまた違ったグループで同じ仕事をだな、するわけだ」


「仕事の斡旋と、悪人取り締まり?」


「そゆことー。ま、二分化してると問題とか起こるけど、教会に所属しているだけで滅茶苦茶特権在るんだぜ」


「へえぇ、職権乱用」


「ぐぎっ……ソンナコトスルワケナイダロー?」


「(あからさまな動きだ……。)」


 って、そんな事よりもエリシアさんを!


 なんかこの人と話してると感覚がおかしくなるな……。


「と、冗談は置いておいて」


 真面目な表情を作り上げ、この獣人は一言。確信のあるようよな感じで一言。


「家帰ったんじゃない? その子」












「なんだ死活問題って、迷子だったのか」


 このエル何たらオバーカさん。大爆笑である。


「仕方ないじゃないですか、一緒に居た人といろいろ見て回ってて、気付いたら地面に激突してるんですよ? 何処だここってなりますよね?」


「ふはっ…地面に激突っ? 何があったんだよ」


「それが、覚えてないんですよねー…多分寝てたんですけど、いつ寝たのか全く覚えてないんですよ。全く」


「んで、そもそも帰れねぇって……く……はぁ……落ち着いたわ、やっと」


 笑いすぎだエル何たらオバーケ。


 長すぎるのは名前だけにして下さい。


「で、その女? 同居してんの? マジかよ、百合かよ」


「…………百合?」


「いやいや、こっちの話」


 ……僕は女じゃないんだが。散々からかわれたワードだから何を意味するか位知っているが、迂闊に知っているなんて思われると………って何でこんな警戒してるんだろうか。


 …気にする必要はないか。


「で、怒らせちゃったから、最悪の場合寝床が無い。故に死活問題だと」


「そう」


「で、お前は何でか、あの有名な『霜降り山亭』で働いてると?」


「借金だね」


「なるほどなるほど、せっかくだから一杯奢れ」


「残念だね」


「何でだ………まさか」


「定休日だし」


「マジかよ、じゃあ後日行くからそのとき奢れよ?」


 嫌だよ……と言いたいところだが。


「許してもらえたらね」


「おっしゃ!」


 そう言っている間に見えてきた。


 霜降り山亭だ。

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