無自覚
────夢?
気付けば、僕はよく見慣れた部屋に独り座っていた。西日が差し込み、部屋は赤く染まっていた。
教室だ………懐かしい。
もしかして帰れたのかな…!
しかし、そんな甘いわけがない。
「帰るには未だ早いですよ、アサギユウ」
分かっては、いた。が、もう少しだけ懐かしさに浸っていたかった僕としては教卓側の入り口から入ってきたその声の主に、反感を覚える。
目にして、1つ理由が増える。
「………天使…」
天から叩き落としてくれた天使そのものがそこにいた。
「あらあら、睨まないで下さい? 可愛らしいお顔が台無しですよ?」
「うるさい。なんで僕の夢の中に……天使が来るんだ」
目前の天使をなんと呼ぶか、僕の中で一通り考えた後、『天使』と呼ぶことにした。
「当たり前じゃないですかー! チートも渡せてなかったのにー!!」
─────え?
『 ─────だからあなた達………あなたにもあげます。所謂チートってやつです。 』
……思い出した、そうだ! 貰った記憶がない! 強いて言えばこの極めて多い【MP】の容量だけど………
「そんな単体で使い道の無いステータスをチート扱いしますか? 私はしませんよ」
考えていたそばから否定される。
「でも、ごめんなさい? あなたに渡す予定のチートは神器なの。この不定な空間では渡すことができないわ」
必要な………あれ? そう言えばこの天使、他にも何か言ってたぞ…?
「でも安心して、少しばかり待ってくれれば、すぐ会えるわ。その時に神器は渡す。約束するわ」
………何か思い出せそうなんだけど…。
「だからそれまでにいなくならないでね。お願いだから」
「思い出したぞ! おい天使僕を生き返らせてくれる話ってどうなってるんだよ!」
「えぇ? あぁ………?」
天使は露骨に嫌そうな顔をした。
『 ──私のお願いを叶えてくれれば、元の世界で生き返れるように取り計らいましょう 』
天使はあのとき確かに言ったのだ。
「そもそも会えば分かるってどういうことだ!? 〈悪者〉ってなんだ!? 愚者とかいう奴らのことか!?」
天使はお願いの内容を随分ぼかして言っていた。
あの時はもとの世界に戻れると言う考えに頭が支配されていて正常な判断ができなくなっていたから聞きはしなかったけども。
今も正常とは言えないが、この世界には世話になった人が居る。礼の一つもしないで消えるのは悪いと思う。多分今なら『もとの世界』なんて餌には釣られないだろう。
「ではヒント────すでにあなたの手で殺しています」
「じゃあ僕をもとの世界に返せ、条件は満たしただろう?」
「何人でも殺して下さい、あなたは殺せば殺すほどに帰りやすくなります」
無表情で告げる天使。
僕は窓の外を眺めて考える。嘘吐きめ、と。
─────そんな事よりも『殺す』と軽々しく言い放った天使や、それを受け流した浅葱優も、少しばかり───
見えていないところで天使は歪に口端をつりあげる。
「とにかく殺せばいいのか、会えば分かるんだ……よ……って! 一人手に掛けてるんなら会っても分かんなかったんだ………け、ど、天使もういない!!」
しかし振り返れど見渡せど天使の姿は羽一枚すら見当たらなかった。
と言うか殺したのは………バットの少年だけだったはず。
彼は結局何だったんだっけ…。深く考えずやむを得ず敵対していたのだけれど。
思い出してみれば、サイトーさんと敵対したときは───
『サイトーさん! 何で攻撃するんですか!!』『勇者のせいだ!』
───勇者。教会の構成員、異世界の問題を異世界人に解決させるという考えをもとに召喚された人達。
サイトーさんはそう確かに叫んだ。この言い方では、少年が脅しているようにも見える。
サイトーさんの言い方から少年が勇者であるように確かに捉えることはできる………しかし僕にはどうしてもあの壊れた少年が勇者には見えなかったのだ。
そしてその時の少年はサイトーさんを殺して、逃走した。
『あははははっ!! 僕の仕事は終わりだ!! じゃあな愚者共!!』
これは………いや、まさか。
天使は僕に『勇者を殺せ』と言って………いや、いやいや。まさか。
でもこれだと僕が愚─────────
「───あがっ!?」
「あでっ!」
額に鈍い痛みがはしる。
「いたたー………」
目の前で額を押さえて上を向いているのはエリシアさんだ。間違いなく。
その目は、どう見ても赤くも青くもなく、光っているはずなんてなかった。
「って………これは」
僕はまるで頭突きをしたかのような痛みではっきりと覚醒し、それでようやっと気付いたが柔らかい枕のようなものに頭をおいているようで。それにそっと触れる。
「ひゅわっ!?」
ふれた瞬間跳ね上がり、
「ぐべぁっ」
少しの高さから、転がってうつ伏せに落下した。
「と、ととと突然どこ触って!」
エリシアさんはやけに慌てた様子で早口で僕から数歩分下がった。
「いたたた………」
僕は混乱したままで立ち上がり、どうやらここが広場的な場所だということを見渡して理解する。
立ち上がった側には、ベンチのような…というかまんまベンチがあった。
「あっ、ごめんなさい大丈夫アサギさっ」
僕がどういうことか分からぬまま打ち付けた頭をさすりながら立ち上がったのを見たエリシアさんは慌ててベンチを避けながら駆け寄ろうとして。
「んっっ!?」
「なっ、それどんな───」
その直後に足元にわざとらしく地面から出ている石に避けた足が思い切り突っかかり体全体が前のめりに─────
「───ドジっ!?」
─────なってしまったエリシアさんの前、転倒しかけた彼女を受け止めるべく手を前に出した。
ちゃんと僕の両手は彼女を受け止めた。とっさに出したのでどこを掴んで止めたのか分からない。ここは肩ではな
「…………危ないなぁ」
受け止めた…の…って…これ…。
「────────っ?」
「わわわわごごごめんなさいっ!」
エリシアさんを支えていた手を離し跳び下がりながら土下座をした。
少し体重が掛かっていた僕の手が無くなったことで少しよろけたエリシアさん。
彼女は今僕が触っていた場所をポンポンとその手のひらで叩き。
「アサギさんはそういうことしないと思ってたのに!」
一瞬で顔を真っ赤に染めて涙目でそう叫ぶとどこかに走り去ってしまった。
その様を僕は1人、ポカーンと眺めていた。




