妖精の棲む森
落ちていく体。抵抗なんて出来ない。
眼下の、大陸群は海は、上空の雲はきれいだなぁ………!!! というか何あの浮いてる4方向にある四本の柱、全部色違いだけどあれ。ファンタジー感あるなぁ……!!
きっとこのまま、最強の加速度に殺されるんだ。諦めよう、と半ば悟りの境地に達していた。が。
突然落下する僕の隣に水の球が現れる。それは僕の目の前で止まっていた。
───いや違う、これ同じ速度で落ちてるんだ。
気付くが早いか、水の球は何やら触手のような物を僕に巻き付け、その水の中に引きずり込む。
「なっ、何ガボガボボボ………」
おっ、溺れ!!!?
しかし、気付いた。少しずつ、水は落下速度を落としていっていることに。
呼吸は出来ないので溺れそうだけど。
そうか、安心していいのだ。もう、落下で地面に殺される心配はないのだ。
今度は溺死しそうだけど。
しかし、速度は着実に落ちているが、今一減速が足りていない気がする。
良く目を凝らしてみれば、落下地点は湖だった。
水中で目を凝らしたせいで目が痛いんですけど。
あー、これ。溺死確定です──────ッ!!
そして意識はまた、闇に囚われた。
目を覚ますと、全身に痛みを感じた。それに辺りは真っ暗だった。
魂だったら痛みなんて無くて良いのに。
そんな詰まらないことは口に出さない。無痛っていうのは危険らしいからね。
痛みの原因は、今、寝ているところにあった。
────河原だ、ここ。
「あれ? めざめた?」
よく見ると僕は全裸だった。聞こえた声は幼い感じの、女の子の声。
とっさに自分の大事なところを隠そうとする。
しかし、相手はどこにも居ない。声だけが響く。
「あはははっ! ふくならもうかわいてるよ! きみょうなふくだね!」
辺りを見渡せば、確かに木の枝で、物干し竿の用な物が組んであって、そこに身に着けていた衣服が干されていた。
靴を履いていないので足が痛いが、干された衣服に駆け足で近寄り、さっさと服を着た。
辺りは夜であるにも関わらずそこそこ暖かかったけれど、全裸は良くないと思ったからだ。
「おどろいたよ! そらからふってきてね!」
それは、普通驚くだろう。
「だからおちてしなないようにまもってあげたの!!」
「あの水は君のおかげだったのか。ありがとう」
どこにいるかわからない何かに礼を言う。
アレがなければ死んでいた。………まあ溺死しかけたけれど、生きていれば問題はない。
「だけど、めがさめたならもういいや。でてってよ」
「………? 出て行く? 森から?」
突然冷淡な口調になる声に、ほんの少し寒気を感じた。
そう言えばここはどこなんだ?
見渡せば、すぐそこに湖があり、少なくない本数の木々が湖を囲うように生えていた。
「そう。わたしたちのそういだよ」
「………どうやったら、出ていけるの? 森……だよねそこ。というかここは」
「うん。この湖からかわがでているから、それをつたっていけばきっとひとざとにたどりつけるよ!!」
「えっ…と。ありがとう。」
奇妙な声は楽しそうに告げる。
「ぐれんのもりにひとはきちゃいけないんだよ。はやくでてって」
出てけ出てけとはやし立てる多数の声。
どういうことなのか理解できず不満と疑念とが混じったような気持ちで湖の周りを探索し始めた。
一応、リュックとナイフは一緒に干されていた。ナイフの切れ味は抜群だった。
それとおかしな点があった。
僕の髪が長いのだ。死ぬ前に切ったはずなのに。
しかし答えは簡単にわかった。
天使が言っていた、魂云々の話だろう。髪が長い時期なんて親が再婚してからの約三年間ずっとだったのだ。切った後の髪型にも違和感が少しあったくらいなのだから、魂が何なのかはよくわからないけれど、影響があったのだろう。
「まぁ、切らないでおくか。」
向こうの世界ではずっとこの髪型だったのだ。向こうを思い出すこの長い髪を取っておきたい。
「へんなかみがたー? きらないのー?」
奇妙な声はまだ着いてきていた。因みに濡れたせいか心なしか髪はぼさぼさになっていた。
「……川まで行かないで外に出れるような道案内してくれないかなぁ。早く出て行きたいのは僕だって同じだし。」
そんな文句を言う。と、突然目の前に小さな羽の生えた光る球が発生した。大きさはテニスボールとかその位。
「ばぁ!! あはははっ!」
笑う声。どうやら声の主はこの光球の、ようだ。
─────異世界感凄い!!
「お、おお!! なんかすごい!!」
驚きの余り、抽象的な発言になってしまった。なにこの光球! 異世界凄い!
「なにすがたみせてるの!」「うらぎりー」「うらぎりー」
「へっへん。」
姿を未だに見せていない声が姿を見せた光球に非難の声を上げる。
姿を見せた光球は、何故か胸を張っている気がする。
「君たちは………何なの?」
「………………。」
「何で黙るの……。」
質問したとたんに、無音になる。どういうことだ。
「…………よーせー」「あっ」「おいぃ!」
よーせー? ……ようせい……陽性……要請……妖精?
「妖精?」
「あー」「やっちゃったー」「ついほー」
「ばれちゃったらしかたない。そうよ! ようせいよ!」
ヒュンヒュン飛び回りながらそういった羽の生えた光の球。
「しかたない、しかたないから。だまっててよ。ここであったことは。」
「え………うん。わかった。」
「………ふふん? ようせいにうそはつうようしないの? ほんとうにだまっててくれるの?」
…黙っていろというなら黙っていよう。
僕がそう考えていると
「そうね、ひとつ、ちから、あげるわ。これでどう?」
「良いんじゃない?」
はっきり言ってよく分からないけど。
「けーやく」「けーやく」「せーりつ!」
騒がしい声がいくつも響いた。