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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 二章 豊穣の巫女と訳あり集団
58/190

桁外れの



 思い切り魔力を放出したことで、【MP】が少しばかり減少する。その分は少し集中すれば数秒足らずで完全回復可能なほどで、僕からすれば大した量ではない。


 しかし、他の人からは違う。


「……何か、重いな?」


 相手はそう呟くと、魔力が届いているギリギリ圏内で立ち止まる。


 本来、空気中の魔力が見える人は少ない。


 例え〈戦場の死神〉と言えど、僕が放出した魔力が見えていないのだろう。


「まあ、気のせいか」


 鎌を担ぎ上げて、上空に跳ねる。


「っ!!」


 思い切り横に飛び、縦に回転して迫ってきた大鎌をすれすれのところで回避する。


 相手は着地。僕は空中。


「安心しろ、峰打ちだ」


「安心出来なっ!」


 相手は鎌の峰を向けて横薙ぎにした。空中では、本来魔法を使用しない限り回避は出来ない。


「!?」


────しかし僕は避けた。


 己が放出した魔力をある程度の濃さで固め、足場──というよりは発射台にして上空へ飛んだのだ。


 制御もへったくれもなく飛んでいく体は遂に天と地を逆さにする。


 続けて相手は横薙ぎにした鎌を体の後ろを通してからすくい上げるように振り上げる。


 いっそ、その勢いを利用して………っ!!


 《鬼剣》を発動し、頭上……下から迫る鎌を剣で受ける。


──────重っ。


 まるで強打者の打ったボールのように軽々と飛んでいく僕の体。


 余りに重い一撃に剣が折れる錯覚すら覚えたが


「無事……か……」


 空中で体勢を整えながら着地。その後に右手の剣を見れば、目に見えて傷が増えていることはなかった。


 もともと傷だらけのオンボロ剣であるため、安心できたものではないけども。


「……久し振りだ。このような厄介な相手は」


 相手たる〈戦場の死神〉は、どうやら着地まで待っててくれたようで、鎌を振り上げた位置で立っていた。


「その水中に居るかの如く体が重くなるのは貴公の能力かな?」


 何か問いかけてきているが、僕としてはもう心臓に悪い事はしたくないのだ。


 この場を離れる為、戦闘をやめてもらう為に口を開いた。


「あ、あの……」


「なんだ?」


「帰って良いでしょうか? 僕、本当は挑みに来たわけでは無いんです」


 この時、僕は無言で人垣の外へ逃げていれば良かったんだ。


 別に逃げるのに許可は要らないのだから。


 そして相手は、少し黙り込んでから。


「駄目だ。久し振りに楽しくなってきたのだからな!」


 良い笑顔でそう断言した。


「今度も私から行くぞ!」


 あ、これは駄目な奴だ─────っっ!!




───大鎌。


 長い柄の先に付いた曲がった鋭利な刃。その形状からして扱いづらそうなその武器を振り回し、踊るように斬りつける様は観客を魅了する。


 一切無駄のない鎌の軌跡は、辛うじて目に捉えられる速さで振られており、何とか相手できる。


「ふっ!」


───しかし繰り出される一撃は鎌だけではない。


 手首の動きだけで鎌をくるりと首を取りに来た。


 それを屈むことで頭上にやり過ごす。剣で受ければ容易に吹き飛んでしまうか、そうでなくとも体勢を崩すことは分かり切っていた。


 それ故に回避したが、それを読んでいた相手は鎌の回転の動きを利用して、鎌と自分の位置を反転。


 勢いを利用して凄まじい速さでの蹴りを放ってきた。


「がっっ!!」


 とっさに右手の剣を蹴りとの間に差し込んだが、それはもはや防御とは言えない。


 あっさり力負けして、剣は吹き飛び、僕の体も蹴り飛ばされた。


 僕には自分の体が数瞬宙に浮いた事を自覚することはなかった。


「かはっ…」


 地面に叩きつけられるように転がったことで、蹴られた直後の浮いていたであろう時間、ほんの少しの間気絶していたことを自覚した。


 身体から力が抜けてしまい、どうやっても力が入らない。


「あっ………やりすぎた?」


 〈戦場の死神〉は己の行動に呆けていた。


「『あっ』じゃないわ! クソボケ! あんなイイ蹴り実戦でも見たこと無いわ! わかるな? わかれ! 治すんだよ!」


「……っ、そうだな」


 男の人の罵声。それでようやく〈戦場の死神〉はこちらに歩いてくる。


「すまんな、《ヒール》」


 柔らかい光に包まれて、少しだけ痛みが和らぐ。何となくだが、前にしてもらった《ヒール》よりも光が弱い気がする。


「あ、ありがとうございます」


「いや、礼を言うのはこち─────」


──剣 閃 。


 言葉の途中とは言え、流石Sクラスの冒険者。Sクラスがどのくらいの強さか分からないけれども。


 易々横合いから放たれた一撃を回避してのける。


「…………久し振りに己の意志で抜いたな、エリシア」


 突然剣を振るった乱入者。それは独り言を呟いた。


「エリ…シア……さん……?」


「まあ、表に出たからには充分、贄をいただくとしやうぞ!! それが私、豊穣の巫女が頂く豊穣の対価ぞ!!」


 赤く妖しく目を光らせたエリシアさんは、突如禍々しい気の立ち上るようになった刃のつぶれているはずの刀を片手で構えて、そう叫んだ。


 左手に籠を持ったまま、堂々とした態度で。


 もう、何がなにやら……。

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