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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 二章 豊穣の巫女と訳あり集団
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〈戦場の死神〉



「中に入ると、外から見ていたのよりも凄いですね。………エリシアさん?」


「………普段こんなに居ないんだけどどうしたんだろう」


 商店街。そう言う通り、商店が軒を連ねている一本道である。


 道幅は広く、人混みは凄い。少し離れたくらいなら見つけることは可能だけど、出来るなら離れたくない。なんて思うくらいには密度が高い。


 エリシアさんは田舎という事を否定していなかったと思うけど、これだけの人混みが生み出せるならそれは田舎と言うに相応しいか田舎。違う、否か。


 まあ、田舎の意味に過疎地とか含まれてないから、おかしい事じゃないのですがね。


「……エリシアさん、お昼どこで食べます?」


「うーん、外の人達が居るのかな………だとすると何か行事みたいなのがあるのかなぁ……」


 声を掛けても、深く考え込んでいるのか、反応しない。


「エリシアさん?」


「………まっ、いっか! 何? アサギさん」


「やっと反応してくれた…」


「ん? あれ、話しかけてた? ごめんなさいね? 今日どうするかちょっと考えてたの」


「そうなんですか………ってノープランだったんですか」 


「そうだよ? まあ、良いでしょう?」


「悪くはないですけど……と言うことはどこで食べるか決まりました? お昼ご飯」


 エリシアさんは一度僕から顔を背けて考え込む素振(そぶ)りをする。


 五秒程で笑顔を僕に向けて


「もっ……はひぃ……舌噛んだ……」


「……ははは…」


「もうっ……ついてきてよ?」


 そしてまた、歩き出す。




 予想が出来ては居た。


「混んでますね………どこも」


「そうですね……」


 どこの店も混んでいて、入る隙間がない。横入りなんて以ての外だ。


「……一回店戻って、何か作りましょうか?」


「…………そうしましょうか」


 僕等は引き返すべく後ろを向いた。



「ああっ! やっと来たわ! 〈戦場の死神〉様よ!!」



 ………戦場の死神? 


 凄まじい黄色い声に通りが湧く。物騒な名前に反応して。


「あぁ……そう言えばそんなことお客さんが言っていたね…」


 やけにハッキリ聞こえた声に疑問を持ち、しかしエリシアさんの呟きも耳に捉えたが。


 爆発的に通りの人達が騒ぎ出し、通りがまるで津波のように動き出す。


「あっ…」


「アサギさんっ!?」


 少しばかり油断していた僕は、その人の大波に飲まれ、押し流されてしまったのだった。






「あー……アサギくんと離れちゃって、それでここにきたのかにゃー…?」


「はい……お昼あの混み具合では食べられないんで戻ろうと言う話をした直後にはぐれちゃったんです」


「なんでか混んでたから仕方ないにゃー…何でかにゃー」


 アサギさんとはぐれた私は一度霜降り山亭に戻って、そこに居合わせたフーデラさんに事情を説明しました。


 彼女は普段通り眠たげな表情のままでは分かりづらいが真剣に聞いてくれた。


「………〈戦場の死神〉の凱旋がどうとか言ってたの、聞いてなかったのか?」


「ギーツさん、何か知ってるんですか?」


「っ!? ……あ、う、うん? 勿論しっ、知ってる。よ?」


 ギーツさんが挙動不審なのは今に始まった事ではないのでスルーした。


「ちょっとした小競り合いあったにゃ。勝ったにゃ。英雄の凱旋にゃん」


「…フーデラ知ってんじゃん」


「……あぁ。そんな話ありましたね……」


 一応侵略者の体を取って、進軍してきた海の外の国の軍。


 その国の要求は『王子との結婚』。


 私も、初めて聞いたときは「何でそんなことで……」とも思ったけれど、冗談などではない。真実にして事実である。


 その侵略軍は何だかんだ降伏を受け入れながら進軍し、完全に勝利したようだった。


「英雄って言うと……戦闘能力評価Sランクですか!? 凄いですね……」


「言うには冒険者だって。それもランクSだと聞いたよ」


「ギーツ、居たのかにゃ」


「…………居たよ。どう見ても居たでしょ」


「かげうすいからにゃー……」


「たまに本当に見失いますよね」


「君達僕の扱い酷くない………?」


 っと…〈戦場の死神〉の話は置いておいて。


「アサギなら、下手するとここに戻る話を放置して〈戦場の死神〉とか言うの、見に行くかも知れないな」


「ギーツ………」


「………なん…だよ?」


「それ、ある」


「そうかよ…!?」


 確かにあり得る話ですよね……。


 アサギさんは私と違って、人の波に完全に飲まれてましたから、そちらの方に近づけたでしょうし……。


「よっし、ちょっと行って来ます」


「ん? エリシア、どこ行くの?」


 珍しくギーツさんが挙動不審ではないが、机に突っ伏し私の方を見ていないのは少し気分が悪………くもないですね、大したことはないです。


「アサギさんを探しに行くんです」


「おとなしく待ってれば来ると思うんだけど。何なのアサギばっか構って。惚れた?」


「…一応臨時でも初めて出来た後輩ですよ? 気にしない方が無理です。では、行って────」


「エリシアー。これ、アサギくんに届けてー。サンドイッチ入ってるからにゃ? 二人で食べると良いにゃ」


「ありがとうございます」


「礼は要らぬ、行ってくるにゃ」


「はい、では。」


 私はフーデラさんからバスケットを受け取って、店から出る。


「いってきます!」


「代金あとで請求するからにゃー!」


「分かりましたー!」


 ひとまず、アサギさんを探しに!!

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