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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 二章 豊穣の巫女と訳あり集団
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1ヶ月の概念



 夜だ。


 お気付きであろうが、僕が居なければこの店は三人だけで回そうという話だったのだ。


 無茶だろう。


「満席………それに外にも人が……」


 いやぁ、凄い。僕は譫言(うわごと)のように呟く。


「注文を取るの、エリシアさんだけじゃ無茶なんじゃ……?」


「だが、厨房を1人減らせばもっとたちゆかなくなる。頑張れ新人」


 皿を洗い続ける僕に対して幾つも平行して料理を作るアルマさんが返答する。


「………僕別にここで働くつもり無いんですが」


「まあ、そうか。まあそうだよな」


「というかいつの間にか僕まで厨房に回されているのはどう言うことですか……」


「出来るならいいじゃねぇか」


 ディエさんが言う。彼も平行で幾つも料理していた。


 手際の良さが半端ない。


 …それと、皿が運ばれてくる速度も。


「魔法使って一気にやろうとするなよ? 割りかねんからな。前にフーデラが……」


「無駄口は良いから働けディエ。それとアサギ君は皿を割らずにきれいにやるんだぞ」


「分かってま───あ。」


 手元から皿が上へとすっぽ抜ける。


 やばっ!!?


 僕は半ば無意識な、反射で魔力を放出する。


「あって何だ、あっ、て………おい」


「な、何も壊れてないですよね……?」


 すっぽ抜けた皿は中空で静止した。僕は魔力で皿を包み込んだのだ。


「大丈夫だろ、多分」


 アルマさんが一度振り返り、そう言うとまた料理を顔を戻す。


 ディエさんは微妙そうな表情を作りながらも、振り返るのをやめた。


「………それなら」


 魔力放出してても別に平気なら、と思った僕は皿を洗うために出していた水を魔力で操作して一枚一枚を水と魔力でやや強引に洗浄する。


 蛇口から出る水は、地下水。魔力でなんやかんや日本にいたときと大差ない感じで出てくる。


 魔法で水作れるらしいが、店長の意向? らしい。料理用でも使うからと。


「………何やってる…というかどうやってるんだそれ!?」


 ディエさんが驚くが特に文句もなかったので続行した。


 自分で水を出す事はせずに、水道水(地下水)を利用してるのは単純に適性がどうこうと言う話である。


「こう、なんと言うんですかね。説明しづらいですが」


「いや、やっぱり説明しなくて良い。どうせ俺には出来ないからな」


 ディエさんは、そう呟いた。






「これで………よし、と」


 エリシアさんが入り口の鍵を閉める。


 深夜。この『霜降り山亭』の業務時間が終了したのだ。


「お疲れ様でした」


「ああ、お疲れ。明日もよろしく」


 アルマさんがそう言う。


「はい。……と言うか、気になったんですけど、僕。何時になったら返済終わります?」


「ンなの、後1カ月は働いて貰うに決まってるだろ」


 ディエさんがそう言う。


「1カ月。」


「30日っていった方が分かりいいか?」


「いや、1カ月が30日というのは分かりますけど……」


 一年を四節に分けているというのに、さらに区分があることが疑問だった。


 名称が名称なだけに気にもなる。


「え? アサギさんは知ってたんだ……わたしは知らなかったよ」


 エリシアさんが意外そうに言う。


 あら、一般的ではないのだろうか?


 その疑問の答えはすぐにディエさんの口から出た。


「ま、エリシアが知らなかったのも無理からぬことだ。そもそも教会でのみ利用されていた区分だからな」


「……教会? なんかの宗教でもあるんですか」


 僕は少し間を置いて、問う。


 深くは考えていなかった。ただ少しだけボケッとしていたのだ。


「月の概念知ってて教会の事を知らねぇか」


「少しだけ耳に挟んだことはあるんですけど……実際何なのかは」


 ディエさんは面倒くさそうにしていたが、頭を掻きながらも説明してくれる。


「教会っつーのはな。所謂(いわゆる)平和を維持する為の組織だ。しかも『異世界の問題は胃世界の人で解決する』っていう教え? 理念? ……兎に角そう言うのをモトに活動してるんだ」


「あ! それは聞いたことあります! 愚者と勇者ですよね?」


 エリシアさんが何だかテンション高めにそう言った。


「あー。うん。そう言うことだな」


 そう言うと立ち続けることに疲れたのか、ディエさんは自分の分だけ椅子を出した。


「つまるところ勇者……異世界の人間を保護、監視し、治安保護に充てる為の組織だな」


「………教会っていうのは、ある意味蔑称みたいな物だったのだけど。確か、成立したのが『魔王』が消える前だか後だか。そんなものだ」


「そ、アルマの言うとおり、元々教会とは名乗ってなかったんだけど、勇者の狂信者じみた自己犠牲とかそう言うところから、変な教えで洗脳でもしてるんじゃないかと。それで呼ばれていたのが、今度は自称を始めたのさ。はっきり言って最近では異常性はなりを潜めたがな」


「そうなんですか……」


 僕はふむふむ、と反芻しながら頷いた。


「ま、どうでもいい豆知識だ。覚えている必要性はない。それよか今以上に働いて貰うぞ? アサギ」


「……はい」


 話は脱線していたが、詰まるところ僕は1カ月相当。


 この店で働くと言うことか………。

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