開店前の霜降り山亭
霜降り山亭の朝は早い。
「起きて、アサギさん」
「…………んぅ? …今何時なの?」
「五時よ」
朝早く起きなければ早朝、依頼をこなしに街を出る冒険者を狙った営業が出来ないからだ。
「はい早く掃除をしろよ新人2人」
「はい!」
「オイ! 返事はどうした!」
「僕は臨時じゃあ無いんですか……?」
僕自身が僕のことを臨時で入ったのだからと、新人というのに僕が含まれているとは考えておらず、間の抜けた返答をしてしまう。
少し考えれば分かるものだ。動き一つを見てもアルマさんもディエさんも慣れているように見えるのだし。
「俺は返事はと聞いてるんだ! ぐだ言う暇があれば早く動かせ手足を!」
結果として、ディエさんは少しばかり怒った。
「ディエも動け!」
アルマさんが思い切りディエさんの頭を後ろからをひっぱたく。
「あだっ!? ……ちっ、しゃあねえ……」
叩かれた頭をさすりながらディエさんは厨房へ消えた。
そしていつの間にかエリシアさんがモップを2つ持って、後ろに立っていた。
「アサギさんは床よろしくね、このモップで出入り口側半分。わたしは厨房側から半分やるから」
「分かりました」
僕はモップを受け取って、言われたとおり掃除を始める。
店の入り口側。採光のためか、単純に見えるようにするためか。壁の窓は大きい。立地上、大きな窓は入り口側の一面にしか見当たらない。一応換気用に存在はしている。
窓から見える外はもうすでに明るい。故に今までちゃんと見てこなかった街並みが、ゆっくり観察できる。
見てみた感想だが。近くに森があるからか、木造建築が多い。かく言うこの店も殆ど木造である。
店の前の道は舗装されていたりはしないが、踏みならされていてガタガタしている様子はない。思い出してみれば、舗装されているところの方が珍しいくらいだったように思える。
他には……
「手、止まってるぞ」
「っ…すいません、アルマさん」
声を掛けられて、ぼんやりしていた僕は跳ね上がる。
そうだ、掃除しないと店の開店が遅くなってしまう。明言されてないけど、そうに違いない。
「………それと、さん付けしなくて良い。アルマで、店の皆はそう呼んでいるからな」
いや……ずいぶん年上なのに呼び捨てにしろというのは少し……というかかなり失礼に思えるんですけど。呼びづらいのですけど。
「……駄目か?」
僕は掃除する手を休めないようにして、返事を捻出した。
「……アルマさん、僕よりも年上ですよね、アルマさんに対する敬意というか………呼び捨てって、失礼じゃないですか?」
「年は………まあ、気にするな。敬意と言うのなら、別に良い」
そう言われたので今後も、僕はアルマさんをさん付けで呼ぼう。
年について聞いたとき、チラリとアルマさんの耳が見えた。長い。
そう言えばディエさんも、長かった。エルフというのはそこかしこに居るものだろうか? オルカリエには1人しか居なかったというのに。
「が、女性に年齢を聞くのは止めておけ? つい、答えそうになったがな」
アルマさんがそう言って凄惨な笑みを浮かべたので、僕は見なかったことにして、掃除に戻った。




