結局のところ
今までのあらすじ!
金がないなら、体で払って貰おうか!
何だか不穏な言葉を聞いて固まった僕は、その後場の流れに流されに流されて、結果。
「なんで、お店のウェイトレスやってるんだろう………しかも女子制服で………」
驚愕! 体で払えとは、店で働けと言うことだったらしい。
元々、店長が仕入れの為に遠出して行くところに何人かついていってしまい人手が足りなかったそうだ。
アルマさんは店長ではなく、店長代理だそうだ。
美味しいご飯を頂いた対価だ。正直、助けるのは当たり前というか大して苦労していないので、少しだけ気が重かったのだ。その重さは飯には勝てなかったけど。
わざわざ体を洗い、きれいにした後にこの店の制服を着る。
まあ、2ヶ月間体を洗えないときの方が多かったし、臭ってたのかもしれない。
「まぁまあ。似合ってるよ?」
エリシアさんがすれ違いざまにそう言った。
いや、男子な僕に似合ってること自体が問題なのですよ。もう、とっくに慣れてしまいましたが。
僕が任されたのはホール。飯運びと注文取りですね。
「おーい、変な髪の嬢ちゃーん、注文を取ってくれ」
「待て待て、こっちが先だっ」
「何だって? わたしが先よ!」
何故そんな事で口論になり掛けているのやら。酔ってるからかな?
「はいすぐ行きますから喧嘩しないでください!」
僕はすぐさま注文を取りに向かった。
「はぁ………」
僕は何をしてるんだろう………。
客が減り始めて余裕が出てきた頃、僕は食事が終わって帰った人の席を綺麗にしながら、ため息を吐いた。
何をすればいいんだろうか。と言うか、何のためにこんな所に居るんだっけ………。
この世界について右も左もわからない内に奴隷にされかけたり、街で大暴れしたり。挙げ句の果てには山でサバイバル、と。
あの頃は目の前にやるべきことが転がっていた。明確な目的がそこにあった。
じゃあ今は?
いや、店で食べた物のせいで働いている現状はまだ良い。働くだけだ。
でも、僕は一食分しか食べていない。多分、恐らくはそう長く働くわけでも無かろう。
これが終わったらどうするか。それが問題─────
「きゃっ!?」
声のした方を向くとエリシアさんが転んでいた。料理を運んでいたのだろう、床に転がる料理。
一番近くの男の客は足を中途半端に通路に出していた。引っかけたのか?
「何するんで………っ!?」
エリシアさんが文句を言おうとして固まる。
────僕は覚えてなかったが、昼間の彼らである。
大男と小柄な男の二人組。足を出したのは小柄な方である。因みに来たばかりなのか、テーブルには何もない。
「キャハハハ! 何もないところでずっこけてやんの!」
エリシアさんは転がったそれらを無言で片付ける。
………なーんか、ムカつくなあ。ああ言うの、やっぱり異世界でもこういう飲食店っぽいところには居るものなのかなぁ……。
僕は今掃除してるところが終わったので取り敢えず、コップをお客様のところへと持って行く。
エリシアさんに対して足を引っかけた奴らの所へ。
「どうも、お客様──」
「こいつらは客じゃない」
突然、後ろから現れたディエさん。
「何やるつもりかわからんが、そのオーラしまえ。お客様に迷惑だろう?」
「…………あれ、出てました?」
「見え見えだ。威圧感与えるから抑えろ」
僕の体外に漏れ出ていた魔力を抑える。
いやぁ、抑える意味がそもそも無かったから…つい。
「じゃあ、そいつらの対処任せた。エリシア、一回厨房に下がれ」
「は…はい………」
「大丈夫だ、怒ったりはしない」
そんな会話を尻目に僕は、店員に対して乱暴を働いた二人を見る。
何故か酷く怯えている?
「な、何なんだよ……早く飯持って来いよ……」
「………」
大男の方は特にそんなそぶりはなく、押し黙ったままである。
「………お客様、お出口はあちらです」
「ふ、ふざけんな…飯出せよ飯!」
「ですが……」
「……面倒なので力業で良いかな……」
「なっ……」
僕は小柄な男の方の胸ぐらを掴み、大きい男の方に言う。
「店から出て行ってください。迷惑です」
「なんだとっ、俺はお客様」「上司がお前等は客じゃないと言ったんだ、出て行って貰おうか」
それだけ言って手を放すと、彼は怯えたように慌てて店から出ていった。
「………」
大男の方は、じっと僕を見つめた後、のっそりとした足取りで店を後にした。
「………ふぅ」
危うく、小柄な男を全力で殴りそうになったのは言わないでおこう。
この後は特に問題も起こらずに、業務時間は終わった。
深夜零時以降まで営業してるとは思わなかったけど。




