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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
間章 α-1
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覚悟を


──────まただ。


 私の気が付くなり少年は叫んだ。


 まるで認めてはいけない行いを目にした私の親のような怒りように、少し戸惑う。


 風景は、酷いものだった。


 床板は、下から不自然な力を加えられたかのように隆起し、中央に亀裂が。天井は一部剥がれていた。


 窓は割れてはおらず、破壊の後は上下にしか無い。とは言え、私に酷いという印象を与えるには充分だ。


 それはともかく、彼だ。


 彼は手を振り下ろし、何かを飛ばす。


 手がブレたと思ったら男が棒を握っていた。


 全く見えなかった。


 夢だというのに……。


『これが夢だと思う?』


 唐突に頭の中に響く声。主観であり、頭、なんて概念が今あるのかとても疑問であるが、そう表現するのが一番近い。


 しかし、誰の声にも似ていない。


『これは夢なの?』


 見ている世界は黒に染まり、私にはその声だけが聞こえる。


『これは非現実なの?』


 ただ、響く。


『いやこれは間違いなく─────』


───……そこで私の意識は完全な闇に飲まれる。


 それから私は『夢』を見ていない。


「そもそも、今から話す内容は突拍子も無い現実味の欠けたものだし…聞いたら今のままでは居られない、つまりは後戻りできないけど……聞く覚悟はある?」


 重々しく語り出した千由さん。もしかしたら、ただ眠たいだけなんて可能性も存在するのだけど。


「…あります」


「ならば良し。…どうせ聞きたい事は優の事だけだよね。結局のところ、必要ないし」


「いや、必要でしょうよ、何で仲間外れにされてたかとかほら」


 安川さんが言う。


「この女は 一 応 優の彼女。聞きたいに決まってるでしょ」


 どことなく棘を感じさせる言い方。早奈さんはともかく、千由さんは認めてないようだ。私のことを。


「あぁ、そりゃ……そうだろうけどよ…」


「………早奈。私眠いから寝る。説明しておいて……」


「おい」


 突然ソファで横になった千由さんはそう言って目を閉じた。


 穏やかな呼吸。眠るの早い……。


 これには安川さん。大人故か、少しキレそうだ。


「まぁまあ、安川さん。お姉ちゃんはこれでも殆ど」


「分かってる。けどね、少しくらい気を使ってもいいんじゃねえかなと」


 早奈さんに宥められ、少しばかり気まずそうにぶつぶつと言う。


「師匠話進まないから黙ってください」


 いや、柚里ちゃんは余計な一言を言わないといけないのかな?


 これに対して、安川さんは何かを言うと思ったのだが。


「……………むぅ」


 特に何も言わなかった。


 ひとまずの静寂。私はそれを感じると口を開いた。


「……まず優が置かれている状況を教えて」


「え、そうくる!? てっきり何で仲間外れか聞くかと……本当にどうでも良いと思ってたんだ…」


 いえ、思ってないですよ優先度ですよ?


 でもきっと今じゃなくても私は無表情の仮面を付けているように思えてくるくらい表情に出ない。思いが伝わるなんて思えない。


 だけど、何か言うつもりもない。


「あー、えっと。優は虚無天使教の諸々に巻き込まれたというか……まあ、十字架持ってたおかげと言うか……」


「煮え切らないのは辞めようか、早奈ちゃん」


 智が言った。


「つまり、優は今」


 ごくり……。



「─────異世界にいます」


 ………え? い、異世界?


 突然、現実味の無い話が飛び出してきた。前置きから、変なことを言うのかもしれないとは思っていたけど、空想的な事を言うとは思っては居なかった。


 もっとなんか……普通に誘拐とかと思ってました。


「…正確には異世界に居る可能性が低からずあると言うだけだけど。絶対じゃないし」


 早奈さんの表情を見ても、至って真面目。嘘の匂いなんて無かった。


「何でかって言うと……菊川さん、持ってる?」


「はいよっ…と」


 荷物からあの十字架を取り出して早奈さんに投げる。


 緩い放物線を描いて飛んでいったそれを早奈さんはキャッチして私に見せる。


「これ、見たよね? 知ってるよね」


 その問いに、私は頷く。


「これ、虚無天使教とかいう教団が配ってるネックレスの一部なんだけど……これに近くの死者を異世界に送る能力が備わってるらしいの。一つ一つに」


「まあ、同じ製造場所に限りますけど、いわゆる信仰力が転送のエネルギーとして使われてるんです」


 早奈さんの説明を柚里ちゃんが補足する。


 なるほど。分からん。


「異世界の存在自体は、元々確認されてたんだけど、教団は異世界への移動をできる方法を世界で初めて開発したの。何処よりも早く」


 早奈さんは続けてそんなことを言う。


「……いや、あの……異世界が元から存在…? そうだ、異世界に行こう?」


「雪、混乱しすぎですよ」


 葵が落ち着くように私に言う。


「ほら、やっぱ混乱したじゃねえか」


「だから師匠は黙っててよ」


「んだよ…ったく」


 早奈さんは少し騒がしくなった皆を一度見渡し、言う。


「…まあ、取り敢えず説明続けるよ?」



「優は異世界にいるかもしれない。異世界には生き方が分からない。少なくともこの十字架を使えば、行けないこともないけど、行けるという確証がない」


「……異世界は確定なのね…」


「うん。この十字架は死んだ人をどこかに飛ばす、と言うことが分かってるから。あと、異世界は色んな技術で観測できてるから、それの応用で異世界に飛ばされたが確認できたみたいよ」


「……現実味ない話ね……」


「仕方無いよ、だってこの世界には雪幸さんの知らない物がいくつもあるからね。そう言うの、知ってれば超常現象の大体を説明できちゃうし」


「幽霊とか、UFOとかですね」


 葵が補足してくれる。


 いや、分からないんだけど、分からないって言うのは何かを知らないから……ってことを言ってるのかな。


 何だろう。


「そうです、そう言うの。さっき言った異世界を発見した技術と言いましたがそれも今から言う概念に含まれています」


 そして早奈さんはみんなに目配せする。


 皆呼応したように頷く。


 そして全員が手のひらを上に向ける。


「それがこの────魔法という概念ですよ。雪幸さん」


 皆の手のひらから突如小さな炎が現れ、揺らめいていた。


 も、燃え!? 熱っ!?


「熱くないぞ、雪ー」


 手のひらの炎を押し付けてくる智に、半ば反射で後退りする。尚、落ち着いてみれば、その炎は思いの外熱くない。慌てていた故の反射で熱いなんて言いかけてしまったのだけれど…。


「ほらほらー」


「遊んでるんじゃないの!」


「あでっ!?」


 葵が智に拳骨をかましたら、智は痛がる様子を見せておとなしくなった。


 その姿を笑って見ていると、皆炎を握り潰した。


「出せるのは火だけじゃないんですけど………みんな打ち合わせしてないのに見事に火だけでしたね」


「「簡単だから」」


 即答したのは智と柚里ちゃん。


「火が多数派ぽかったからな」


 と、安川さん。


「右に同じです」


 続けて葵もそう言う。


「分かったかな? 言葉だと分かりづらいから、実演したんだけど。魔法は確かに存在するの!」


「……という夢を見たのね…」


 可哀想に……。


 私がそんな事を言うと、早奈さんは半ばムキになって反発する。


「違いますよ! ……一般には秘匿されてるんですから、雪幸さんが知らないことも、信用できないことも分からなくはないんですけど」


「雪がボケるなんて珍しい」


「……智が珍しく大人しかったから…」


「……いや、ふざけちゃ駄目でしょ今」


 他でもない智にそんなことを言われる。


「とにかく、魔法で異世界の存在を感知して、この十字架で異世界にいけることが分かったの」


「……ん」


「で、優は多分死んで異世界に飛んで行ったのよ。多分」


 優が死んだことを明言した割に早奈さんに暗さがない。


「魔法使いの集合した団体『協会』が異世界行きの研究を密かにしているのよ。魔法の存在自体が密かなのにさらに秘密だって。お姉ちゃんがその事を調べているけど、やっぱりあまり良いことじゃ無さそうなの」


「日本に協会は3つ在って、どれもお互いに競い合ってるが故に情報交換は出来てないの。半ば敵対してる位に考えていいよ」


 智がそう補足した。


「じゃあ異世界は……優は大丈夫なの?」


「多分ねー、異世界で死ななければ、また会えるよ…でも異世界で優が生き残れるかは私達にはどうにも出来ない話なのよね」


「じゃあ、話はこれで終わり?」



「それがそうじゃないのよ………」



 ソファで寝ていた千由さんがのっそりと上体を起こし、呟いた。


「異世界移動の研究は三つある協会の内『星』が(おこな)っているけど…移動が出来るようになったらとんでもないことをやらかそうとしてるのよ…」


 まだ眠いようだが、千由さんは自分が言うべきだろうと判断したのだ。


 きっと調べた本人だから。


「………何を、しようと?」


 私は聞く。


 事実を知らないのは私だけ。いや、柚里ちゃん達は優が異世界移動してるか、生きてるかと言うのは知らなかったのかも。


「鍋川雪幸を巻き込む意味が本当にない……さっきまでの事を知った位じゃどうとでもなるけど、ここから先の話は別。最初に聞いたと思うけど、異世界の為に……いや、優の為に命を懸けれる?」


 千由さんは真っ直ぐ私の目を見てくる。再三に渡り覚悟を問う彼女は私を、『魔法を知らなかった一般人』程度の私を巻き込む事に迷い……いや、否定的だった。


 それでもここまで話し聞いてくるのは、ほんの少しでも悪いと思ってしまったからでは無いだろうか。


「……覚悟。あるの? ないの?」


 目を細めて、問い掛ける千由さんは少し怒って居るようにも見えた。


「ある。」


 私には迷いはない。彼のためならば。


「さいで。……丁度、夏休みよね」


「そうですけど……まさか」


 それに反応したのは智だ。


 智は何を察したか引きつったような笑みを浮かべる。


「夏休み利用して魔法を叩き込みなさい。何としてでも、その女を死なせたくなければ」


 葵も、それにはぎこちない笑いを浮かべるしかなかった。


「鍋川雪幸。あんたの覚悟がどれくらいかは知らないけど、発言の責任は自分で取りなさいよ。取れなければ死ぬだけ」


────死ぬ。


 …なんて現実味の無い概念。テレビの向こう、文字の羅列……そんな次元の話であるような事に下手すれば私自身がなってしまうと言われ、ほんの少しだけ奥歯を噛む力が強くなる。


 しかし、千由さんは私のことなどどうでも良いと考えているのか。気にすることもなく言葉を続ける。


「『星』の協会は、異世界を征服する事で世界中の他の協会にその力を示すつもりみたい。私は無駄に優を危険にさらしたくはない。だから突入を阻みつつ優をこの世界に引き戻すつもりよ」


 ゆっくりと告げられた言葉の重さは『魔法を知らない一般人だった』私には分からない。


 しかしどうやら千由さんは『星』の協会とやらに喧嘩を売るつもりなのだ。


 その事だけは分かった気がする。


 私はその後、二人と一緒に駅まで帰り、それから一人で電車を利用して帰った。


「ただいま」


「お帰り」


 伊達眼鏡を掛けた妹は、何やらパソコンを立ち上げてディスプレイと睨めっこしていた。


 ……伊達眼鏡じゃなくてブルーライトカット出来る眼鏡かも知れないけれど私には見分けが付かない。


「何してるの」


「最近有名な占いサイト」


 ディスプレイを覗き込むとそこには白黒チェック柄の文字で『ブラック★リバース』という、恐らくサイト名だろうロゴが圧倒的存在感を放っていた。


 それもそうだろう。それ以外には占うための『ユーザー名』『占って欲しいこと』『メールアドレス※無記入可』を入力できるところしかなかったのだから。


 それも手の込んでおらず、サイト名よりも圧倒的に小さい。


「で、何を?」


 私は問いながら、どこかで聞いたサイトだなとディスプレイを眺めていた。


「テロ事件。私を庇った人に会いたい。礼を言いたいけどどうすればいいのか」


 端的に答えていく妹。


「もうしたよ、送信は」


 続けて、そうも言った。


「そうなの?」


 占いとは、そう言うことを聞いて答えてくれるものかは分からない。


「あ、来た」


 ディスプレイをじっと見ていた妹は呟くとキーボードをカタカタと叩き始める。


 とてもタイピングに慣れていた。妹はパソコンを普段から使っているのだ。


「えっと『運命があなたを導く。行動を自発的に起こさずとも会えるだろう。☆あとお姉さんに対して仲良くすることもお勧め! 秘密の共有なんて仲良くなるためにお勧めしまーす☆』……はあ?」


 私はディスプレイに映る返信を変な顔して見ている妹を尻目に自分の部屋に向かった。






─────あれ、また。


 今度は木々草木数多生い茂る森。足元が僅かに傾いでいるから、山かもしれない。


 でも、周りを見渡せども彼はいない。


 草が揺れる音は、明らかに風が原因。不自然さは存在しない。


 珍しい。


 私はそんな想いに駆られつつも、その場に座り込んだ。


 そもそもこれは何なのだろうか。


 夢? 続き物の夢と言うのは稀にあるから否定は出来ない。


 途方もない自然。これが夢で作られているようには思えない。…思えないことこそ夢なのかもしれないがそれを考えても意味がない。


『待ってたよ』


 前回と同じ声が響く。頭がじわり熱くなる。


『これは夢じゃない。潜在意識が引き起こす一種の法。魔法さ』


 何かを、実体無き声だけが伝えてくる。しかし熱くなった頭が、聞き届けたはずの音を処理できない。


『やっぱりまだボクの出番は来ないみたいだね…逸ったかーボクとしたことが』


 姿勢を維持できず膝から崩れ落ちる。


『ボクが居なければまだもう少し彼の姿を見ていられるのだろうけどね? それはボクが不用意に出てきてしまって、良くない。だから彼とはしばらくお別れ』


 意識が朦朧として、四肢から力が抜ける。


『でも大丈夫。君の知る人達がもう一度彼を─────』


 ぷっつりと私の意識は途絶えてしまう。何を言ってるか結局処理出来ず終い。理解は出来なかった。


 でも、これは夢ではないと、どうしてか確信するほどに強く思った






「お姉ちゃん……起きてー」


「んぅ……?」


「夕ご飯、出来てるから……」


 気付いたら自分の部屋。勉強机に突っ伏して寝ていたようだ。


 ……多分、色々話されて気づかぬ内に疲れてたのかも。


 疲れていた自覚はないが、そう言うことにしておいた。


「お姉ちゃん、それと明後日、暇?」


「明後日…?」


「もう夏休み入るでしょ? その日から」


「……部活休めば……」


「そう? なら宜しくねー」


「分かったけど、何するの?」


 妹はしっかり私を見て言うのだ。


「それは当日のお楽しみってね」


  ──間章α──続く──

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