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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
間章 α-1
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お疲れ義姉は怒りを隠さず



 そう、これは夢だ。


 もう幾日も会えていない彼に焦がれる思いがこの妄想じみた夢を見せているのかもしれない。


 ……たった一週間も経っていないというのにこんなになってしまっているのは私には予想もつかなかった、知らない一面だ。


 今日もまた、夢を見る。彼の夢を。




 今回は、どうやら町を散策しているようだ。


 きれいな町だ。空気は澄み渡り、街中を走る水路もまた、澄んでいる。道という道は石で舗装され、これはこれで風情に溢れている。


 町の家々は煉瓦で作られているようで、とても風景に合っていた。


 彼は、みずぼらしいボロ布を身に纏い、町を歩いていた。


 それを先導するのが、前の夢にも出てきた獣の人。しかし以前の獣らしさは無く、今の印象と言えば、白い髪の幼い娘。痩せているように見える外見だが、それでもかわいい部類に入ると思う。


 何だか抱えているものがありそう。物理的じゃない、心理的に。


 変な思考も、夢と理解することも出来る。明晰夢って、こんな感じなのだろうか。日に日に自由度が上がっている。


 店に入ると、気前の良さそうなおばさんが接客していた。


 服が沢山ある。


 彼は数着選び、少女も数着選び。しかし金を払うと少女はそそくさと出て行ってしまう。


 彼はその少女を追いかけて店を出て行ってしまった。


 これまで通りなら強引に引っ張られるように、と言うか、彼の近くに居させられていたというのに、今だけはそんな様子が無く、私は慌てた。


 別に居させられていたというのは嫌だという事ではないんだけどね。


『全く、帰ってきていたのかい……あのおてんばお嬢様は……』


────突然私の聴覚を刺激した音。


 無音だった私の夢は、この瞬間。確かに音が生まれたのだ。



 完全に混乱してしまった私は、発言を放置した。


「あー、いや、雪幸さんにこんな話するのはアレなんですけど。失踪しちゃってるんですよ、浅葱さんちの優君は」


「死んでるか生きているか、分からない状態だな。しかも、失踪した日が丁度………」


 思考は放棄していないが発言は放置した。


 高校に来てないのは、そもそも………ってことだね。


「…………そう! ショッピングモールのテロ事件の日だ。…ってなんか言ってよお嬢さん……」


 安川のおじさんが何かふざけている気がするが、たぶん必要ない情報だ。


「………だけどな? 俺、こう見えても一応警察の人間なんだ。調べることは容易い………と言うか、調べるまでもなく浅葱さんちの千由さんは知ってたんだけどな……」


「まぁ、前置き聞きながら浅葱家行きましょうか」


 柚里ちゃんに促されてゆっくりと歩くおじさんの横を歩く。


「いやぁな、死体が消えるー、なんて言う話があってだな………んで突然こっち向いてどうしたお嬢さん」


 死体が消える────なんて聞いた私は前に固定されていた視線を、おじさんを見るように変える。


 おじさんは特に気にした様子もなく聞いた。


「いいから続けてよ、おじさん」


 柚里ちゃんは、とても些細な事で話を切ったおじさんにむけて呆れたように言った。


「もうおじさん呼びじゃなくてもいいと思うんだが? ……まあいいか、どうでも」


 まるで普段ほかの呼び名で呼んでるかのように………って、そもそも柚里ちゃん、何処に住んでるんだろう。


「……まあ、話戻すが。テロ事件って言うと、5月にもあったろ?」


「……戻って無いじゃん…」


 柚里ちゃんが相も変わらずの呆れ顔でそう言う。確かに戻ってない。


「いいだろ、別に。テロ事件テロ事件って言うが5月のテロ事件の主犯も虚無天使教なんよ。これはまあ、(おおやけ)になってるよな」


「そうだっけ?」


「勉強不足は黙ってろ」


「へいへい」


 何だか仲がいいなこの二人。……別にそれがどうしたって話だけども。


「そん時、ちょいと撃たれた人が目を離した隙に消えとった…なんて話があってな」


「ほうほう…」


「話進まんから相槌打たないでくれるか?」


「相槌封印とかひどいっ! そう言う無駄な突っ込みが行数稼いで話の進みを遅らせてるんですよ!」


「何だと! ……ってそれもそうだな……」


「分かればよろしい」


 ……いいから話をしてください。


 私がそんな目で見ていると。


「そうそう、こう言うことから、事件を起こした虚無天使教が被害者を誘拐して殺しを隠蔽してるんじゃないか。警察の不手際を隠蔽してるんじゃないか。国家権力云々かんぬんとかネットに騒がしい噂話が流れていたりするんだよ」


「どれも同じ教団が起こした事故ですからねー。死者数ゼロなんて有り得ない程銃声が聞こえてるんですし?」


「バカヤロ、銃声だけじゃ被害者に死傷者が居るかどうかなんてわかりゃしねえよ、実際の所な」


「へーぇ?」


「なんだその疑わしそうな目は。当たり前だろ、発砲していちいち人に当てるか? 威嚇だなんだで、普通なら当てないさ……まあ、あの集団は普通じゃねえけどな」


「いつの時代も、狂信者は恐ろしいものです……」


 柚里ちゃんは、カッと目を見開き(白目)……ってそれなんか違わない?


 柚里ちゃん……恐ろしい子…!!


 ………やっぱりこういうときにするのは何か違うよね。


「ふざけてないで、そら、すぐ着くぞ」


 おじさんはチョップを柚里ちゃんの頭に当てる。


「あでっ……」


「ったく……俺が言いたいのは、警察の策でも教団の不手際でも何でもないって事だ。……全く、簡潔に話をまとめてやろうとしてるのに……」


「じゃあ三行でどうぞ」


 たたかれた頭をさすりながら柚里ちゃんは、むくれていた。


「はぁ!? …年上には敬語つかえ、敬語」


「誤魔化さないでください、さあ、三行で。簡潔にまとめてくださいよね? もとよりそのつもりだったんですよね?」


「あ? あぁ……しかたねえな……」


 私でも分かる。これは、そのつもり無かったよね。


「じゃあ、言うぞ」


「はい一行。残り二行」


「はぁ!? ふざっ……」


 それを聞いて柚里ちゃんは笑う。大笑いだ。


「ふふっ、はははっ! 別に良いですよ、簡潔に説明すれば何行でも」


 おじさんの反応を見て楽しんでたようだった。随分年が離れているようだが、おじさんはその事に半笑いで本気でキレてない所から、かなり仲がいい事が分かる。


 と言うか本当に仲がいいな。


「全く。じゃあ言われたとおり三行で纏めてやるから耳かっぽじって良く聞け」


「かっぽじって、は流石に汚いですよ。私達は女子なんですよ、乙女、おーとーめー!」


 突然抱きついてくる柚里ちゃん。


「あぁ? このお嬢さんは兎も角、お前の何処が乙女だオイ! こないだなんかふっつーに手加減間違えて焼き殺しかけてたじゃねえか!」


「え!? 何で師匠そんな事知って……」


「ああ? 弟子の不手際は師匠のモンだって苦情が来んだ、苦情が。後あのドラ助がなー」


「え、あ、あれはあの後死ななかったから良かったじゃないですか!! と言うかこの話関係ないですよね今ぁ!」


「あぁ関係ないよ!? だが関係ない!」


 とても物騒な事、言い合ってる間に……。


「人んちの前で五月蝿いわよ……犬か……あなた達は……」


「「…すいません」」


 先程踵を返し、立ち去った浅葱家に。戻ってきていた。


「全く、待ってたわよ………って何でその女戻ってきてるのよ………」


「え、あー、いやぁ……はっはっはっ…」


「安川さん…何か言うことはある?」


 笑って誤魔化そうとした安川のおじさん。しかし、睨み付ける優のお姉さん。とても眠そうだからか、とても怖い。


 因みに今のところ浅葱家から出て来たのは優のお姉さんだけで、妹さんはまだ見てない。


 自分で開いた扉に寄りかかるようにして、立っている優のお姉さん。


 おじさんは一度咳払いして、真面目な表情を作った。


「このお嬢さんがつい最近まで優君が羽付き十字架を持ってたという…」


「────知ってるわよ、私を何だと思ってるの? 実は馬鹿にしてるんで………はぁ…まさか調子に乗って変なこと話してないわよね……」


 ………………。


「………あの、優が…失踪したってどう言うことですか?」


「あぁ…その程度ね……そのまんまよ。ある日突然、消えたの」


 優のお姉さんが、とても眠そうに言うが。


「………虚無天使教とか、死体が消えるとか、聞きましたけど」


「あ、聞いてたのね、ちゃんと」


 おじさんは呟く。…聞こえてますよ。


「んなの……噂よ…噂。私の弟が本当にその日、髪切りに行ったかなんて分かるはず無いじゃない…」


「「「絶対嘘」」」


 この人は情報通とか、そういったレベルでは表せないほどの情報を持っている。


 話だと『中学の時、生徒会選挙の時、ライバルが問題起こして停学騒ぎ』なんて事があったらしいんだけど、その問題を発覚させたのが優の姉らしい。


 まあ、その問題の真偽は分からないし、発覚させたのが優の姉かなんて言うのは噂で発覚させた犯人が優の姉だという証拠は終ぞ出てこなかったようだが。


「あのねぇ……優の行動を全部知ってるなんて、ストーカーみたいじゃない? そんなのは流石に良く無いじゃない」


「あれ、違った?」


 これは、おじさんの発言である。


 私としては、流石にそこまでな印象を受けることはなかったんだけれど。


「溺愛具合が本当に姉弟? って思った時なんていくらでも───」


「その辺にして、すごい笑ってるから! 千由さんめっさ笑ってるからぁ!!」


 とても怖い笑顔ですよね、あれ。


「そもそも、全部とは言ってないような気がするんですがそれは自爆と言うことで」


「良くないわよ菊川柚里その気になれば瞬殺する事もなぶり殺しにすることも私には簡単に出来るということを知りなさい菊川柚里」


「ひぅっ!!」


 凄まれて、竦み上がる柚里ちゃん。


 今のは失言だしなあ。


「………あの、結局優はその……『消えた』んですか?」


「知らないと逃げたりしないですよね?」


 柚里ちゃん、その支援は有り難いけど。


「……」


「ですよねー……」


 また、蛇に睨まれた蛙みたいに柚里ちゃんが。


「……全く。何なの、帰れといったのに戻ってきて」


「優に何かあったなら、知りたいと思うのが彼女として普通」


 私は迷い無く断言する。


「一般人に事情を話したくないんだけど?」


 そう言って、家の中を見る優のお姉さん。


 家の中では、智と葵がただ立っていた。


「別に良くないですか? 雪だし」

「私達の中で一人だけ仲間外れというのも心苦しい物が」


「……それはあんたらの事情全開じゃないの…仕方無いわね……」


 改めてこちらをみる優のお姉さん。


(うち)に入って。話はそれからよ………ああ、あっつい…」


「!!」


 私は駆け足で家の中に駆け込んだ。


 柚里ちゃんたちは、ちょっとだけ笑いながら後から歩いて家へと入った。



浅葱千由「自己紹介どうぞ」


鍋川雪幸「…私は……間章α主人公……のはず。…優の彼女。…それと文芸部所属の高校三年生。趣味は読書、特技は本の速読」


茜屋智「まさかの自己紹介で雪がちゃんと彼女アピールを………あー、私は文芸部部長、それと雪幸のファンクラブの……ってそれは関係ないか。スリーサイズは上から90、40、50だよ! そうだよ、スリーサイズは適当だよ。他に……は……」


垣原葵「無いなら無理に言う必要はないですよ、智。……って私の番はもう来ていたのですね。垣原葵、高三、文芸部の副部長をやっています。優君が居ないので、智を抑えるのに苦労してます……」


菊川柚里「次は私ですかー。学年は高校一年ですけど、言いたいことは特にありません。謎の多い女って良くないですか? ……良くないですか。分かりました」


安川「何で一応とばかりに……言いたい事なんて職業警官だということと、おじさんと呼ぶなということくらいか」


浅葱早奈「ただいまー…って、何してるのリビングで人いっぱい集めて! ……自己紹介? やるの? じゃあ……浅葱家次女の浅葱早奈です! 年は優お兄ちゃんと一つ違いで、お姉ちゃんとお兄ちゃんは年が同じです! お兄ちゃんとは血はつながってません! お姉ちゃん同様に! ……これで良い?」


浅葱千由「良いわよ、私のもついでに言ってくれてありがとう。」


安川「これで良いのか……?」


浅葱千由「…良いのよ」

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