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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
間章 α-1
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一人外れた帰り道



 少年はナイフを振るい、緑の異形に傷を付ける。


 緑の異形は外見通り、理性的な部分など一切無く、吠える。


 少年は、その異形に止めを刺すと、次の異形を見る。


 しかし、異形は少年を囲うように同時に攻撃を仕掛けた。


 少年は囲まれたことに戸惑い、手が止まる。


─────少年が殺されてしまう─!!


 そう思えども、言葉は出ない。


 まるで私にそこにいる権利などないと言われているようで悔しかった。


 しかしながら、彼が死ぬことは無かった。


 突然横から飛び出した獣のような人が少年を囲む異形を纏めて吹き飛ばしたのだ。只の一殴りで。


 少年の無事に安堵する私。


 怯えて腰を抜かしていたのか、獣のような人に手を差し伸べられ、少年は立ち上がる。


 ふと、彼はこちらを見る。


 一瞬。目すら合ってはいないだろう。


 けれど彼の顔ははっきりと見えた。


 だから私はこう思ったのだ。


─────夢にまで見るようになってしまったのか。





 ただ部員の家に突撃するだけ、それだけだというのに。


「ねえ何で先輩方、そんなみんな浮かない顔してるんですか!?」


 私達の前に立ってそう言った、この一つ下の学年の彼は、多嶋圭佑。


「前行ったとき、すごく迷惑かけちゃったからさ……葵が」


「え? 何の話ですか」


 とぼけているようにも見えるが、葵はいつだって真面目である。


 因みに迷惑、の内容は。


「いやいや、何でもない何でも。ははっ…」


 ………実は葵。料理が『作れない』のだ。自覚ないが。


 作れない? いや『創っちゃう』……なんて言い方も出来るかな。


 要するに、前回来訪したときにトンデモな料理を創り上げて、優を気絶させた………と言うことらしい。智から聞いたことなのだけどね。


「もう、変な智」


「あの、そう言うのいいんで、さっさと行きましょうよ?」


「へいへい」


「……いいから、行くよ」




 浅葱家の前まで来た。


 全く以て普通の家であり、平凡な一軒家。


 まあ、見た目については放置しておいて、早く用事を済ませようと智がインターホンに手を伸ばす。


 しかし、その手がインターホンに届く前に、家の扉が開く。


「…いらっしゃい? 何の用?」


「えっと、あの………」


 扉を開いた眠そうな目を擦る女性は、威圧的に言う。その女性は如何にも美人であるが、その目の下の隈が、心なしか少しばかり痩せこけた印象を与える。


 ……前見たときより、不健康そう。優のお姉さん。


「……部活の文集作成、優の分を持ってきました」


 私はおどおどしている葵の手から紙束を引ったくると、その女性に渡した。


「そ……渡せたら渡しておくわ……そうだ、赤い子と青い子は残って。他は帰って?」


「え………?」


 どう言うこと?


 そんな考えを持ったのは私だけのようで、智も葵も、圭佑君すらも言われたとおりに行動を始める。


「雪、先帰っててくれるかな?」


 智はそう言った。


「え? 何で……」


「ちょっと、色々あるのよ」


 葵はそう言った。



 浅葱家の玄関は閉じられた。


「………どうして…」


 私はその後、どうすることもなく帰るつもりだった。


 私は浅葱家に背を向けその家から歩いて去る。先に多嶋君は帰ってしまっていて、1人であった。


────疑問は解けないまま。その場で立ち尽くしていた時間がもう少し短かったら、きっと一生関わることが出来なかっただろう。


「あれ? こんなとこにいるなんて珍しいですね、雪幸さん」


「……ええと……」


 見覚えのある女子に声をかけられる。とても見覚えの有るのだが……しかし名前が出てこない。


「酷いですよ! 私は菊川 柚里(ゆずり)です!」


「………柚里、ちゃん」


「ちゃん付け……これでも私、高一ですよ…?」


 つい、幼いように見える外見からちゃん付けで呼んでしまったが、割と後悔はしていなかった。


「…大丈夫……私だって高三。」


「えっと……」


 目を逸らさないでよ柚里ちゃん…。


「おい柚里! 先行くなって行っただろ……って」


「別にいいじゃん! 麻華だって言ってたんだよ? 今日は急いで行動するが吉、って!!」


 後ろから悠々と歩いてきて柚里ちゃんを注意した、スーツ姿のおじさん。スーツが、シャツが皺だらけだからか、何だか冴えない印象を受ける。


「あーそうかい……んん? この子誰よ?」


 適当に柚里ちゃんの言うことを流すと、私をじっくりと、顔を近づけたりしてみてくる。


「何、おじさん。雪幸さん狙ってるの? 前キャバ嬢に振られといて、色が多いことで」


 演技じみた動作で、大仰に言う柚里ちゃん。


「うるさいやい。……そうじゃねえよ、何だ? アレが強く出てる気がするんだが?」


 おじさんが意味不明な事を言う。私は首を傾げた。


「あれま、じゃ、見間違えじゃないですか………巻き込み決定?」


「待てよ、持ってるかどうか。知ってるかどうかを確かめるべきだろ?」


「………あの、何の」


 思わず話に割り込んだ。しかし二人はこんな真夏の道直中だというのに真剣に話し合っていて、聞いていない。


「でも、この弱さじゃ精々所持者じゃないですよ。身近にいるとかそんな程度ですよ」


「ん……まぁ、そうだろうがなぁ。ちと聞くくらい良いじゃねえか?」


「いやぁ、下手すると下手するんで雪幸さんの場合は……」


 ちらとこちらを見る柚里ちゃん。


 やっと私に意識を向けた、と思い話しかける。


「……だから、何の話?」


「え、ええっと…これ見てください────」


 おい、とおじさんが柚里ちゃんの荷物に入れた手を掴み、荷物からポロリと何か金属の物が落ちる。


 私は二人がわちゃわちゃしているうちに、その金属を拾い上げる。


 二人を見ると、どう考えてもおじさんが柚里ちゃんを襲っているようにしか見えないのだけど、どうなんだろう。良くないと思うわ。


 そして私は拾ったものを天に掲げて、見た。


─────羽の生えた十字架。


 それは一対の羽の生えた白銀の十字架だった。そして、それには私は………。


「───見たこと、ある」


 掲げたせいで眩しかったのは言わないでおく。


「「え!?」」


「これ、今月の頭に優が………持ってた」


「おいおい、マジか! なあ!」


「証人発見ですよ! 早く報告!」


 な、何でそんなにテンション高いの……!?


「…これ、何なの……!?」


「そいつはですね! 虚無天使教のモチーフですよ」

「おいバカ何で言ったし!」

「はっ!」


「…………虚無天使教…」


 知ってる…。ほんのちょっと前に幾つもの騒動を起こした教団だ。


「何で……そんなものを持ってたの……?」


「いや、まぁ……知り合いに伝言頼んだんですけどね……危険だから捨ててって。なのに持ってたとすると捨てることを忘れていたのかな。有り得る」


「いや、入手経路……」


「そいつは、多嶋圭佑の兄からだろ。調べついてる」


「……何でそれを持ってると、柚里ちゃんは喜んでるの…?」


「「生きてるかもしれないから」」


 え?



 飛躍している話に、ついに私の頭はフリーズした。

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