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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 一章 後編 栄華を極める富豪の街
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領主の本能本領



───【MP】3594/7594 ───


「どうした、この私如きが恐ろしいか!!」


 その男は、堂々とした態度で僕を真っ直ぐ睨む。


 その表情には、苛立ちが。


「そんなわけないだ、ろ!!」


 右手のナイフを大きく振りかぶり投げる。


 真っ直ぐ飛んだナイフは、男が平然とした表情で払われた鞭によって、上に弾かれる。


 今の僕にはその鞭の軌跡が見えなかった。


 天井に突き刺さるナイフ。


「その程度か!」


 己の鞭で弾いた男が、天井に刺さったナイフを見てから僕を見る。


 僕はその間に二本の棒を一体化させる。


「《地割り跳ね穿つ昇竜》」


 男は鞭を床に埋める勢いで腕を振り下ろす。


「《MPバースト【敏捷】【敏捷】》!!」


 鞭は床を叩き、跳ね返ることなく床に埋まる。


 その早さは見えるものではなかった。MPバーストで敏捷をのばしてもギリギリ残像が見える位だ。


 男の腕がブレたと思った瞬間に上がった敏捷任せで横に飛ぶ。


「がっっ!?」


 先まで己の身があった位置。床板が跳ね上がり、さらにそこを不可思議な力が通り抜ける。


 横に飛ぶことで直撃をなんとか免れたが、その力の余波までは避けることが出来なかった。


 思い切り壁に叩きつけられる。


「げほっ………」


 すでにMPバーストを何度も使用し、MPの残りが心許ない。だからこの敏捷の上昇している三分間で決めなくてはいけない。


 一つだけ、超短期戦を脱する方法が無いこともないが……。


「あっさり死んでくれるなよ……」


 男の方を見る。既にメイド達の大半が退避していて、残っているのは一部。


 この廊下に、立ち上がることが出来ているのは男ただ一人だった。


「……っ!」


 僕は棒を杖のようにして、ふらりふらりと立ち上がる。


「はっ、もう限界のようではないか。哀れな。いっそ、一撃で葬ってやるべきか」


「……うるさい」


 僕は棒を腰の高さに水平に構え、目を閉じる。


 一つのことに集中する。


「なんだ? まさか神にでも祈ってるのか! そんな構えで? はっはっは。愚者らしいな。信奉者らしいな。神も女神も天使も悪魔も、居るはずはないのにねぇ!!」


 大きく深くゆっくり息を吐く。


 息を吸う。息を吐く。外気から吸収する。循環させる。


「……どうした、反論は無いのか」


 目を瞑り《瞑想》する。


 集中すれば、出来るはずだ。


「詰まらぬ。抵抗すら出来ずに死なれるというのは、私が詰まらない。」


 心を無にする。出来ているかはどうでも良い。瞑想が発動さえしていれば。



「だが、娘に手を出したその罪は贖ってもらおう!! さあ来るがいい」


 数秒もの沈黙の後、男が大きく動いた。鞭を自在に振り回し、挑発するように叫ぶ。


 僕は目を開き、棒を分解して両手に一本ずつ持つ。


「はぁ……何を思えばそこまで逆上できるのかなぁ…」


 呆れた僕は、小さくつぶやいた。


「なんだ! 怖じ気づいたか!」


 俯いて呟いたせいか、そう捉えられたのだろう。


 でも、流石に、もう。


「ったく────うるさい! 黙れ! このドS! 父親失格! お前にフィーの何が分かるって!!」


 言ってしまった瞬間、あの男の顔が真っ赤に染まる。


 こうなりゃ言いたいことを言わせてもらおうじゃないか!!


「大体なんなのその武器! 鞭? 今時そんなので戦う奴なんていないよ! 非殺傷武器じゃん本来!!」


「何を言う!! 立派な武器ではないか! そこまで言うのなら見せてやろう!!!」


 いや、そこまでって!? 僕大したこと言ってないよね!?


 しかし、あの男は鞭を持つ手を勢いよく引いた。


「これが、鞭だ───《風裂く(あぎと)》」


 素早く引いた手を前に払うことで、横から前に伸びる鞭。


───実際にその鞭の長さが伸びて、ぼくの所まで到達しそうだ。


 上昇した敏捷のお陰でそのことを読み切った僕は、体を伏せてやり過ごそうとする。


 棒で弾くなんて論外だ。鞭は柔軟だから。


 それに、力負けしたら洒落にならない。


「避けたか」


 男は一度鞭を持つ手を後ろに引く。跳ねるように鞭は一歩遅れて引き下がっていく。


 その間に生まれた少しの隙を使い、男との距離をつめる。


「面白い!」


 たった一瞬でその長い鞭の射程ギリギリ圏外までつめることに成功した。


 男は笑い、一歩前に出て鞭を振り下ろす。


「わっ!」


 僕は間一髪、避けることが出来た。


 鞭はいとも容易く床板をぶち抜き、綺麗な線を床に残す。


 そして、その隙を狙って攻撃を─────っ!!


「ふはははは!! やはり鞭より(こちら)の方が良いかクソガキ!」


 僕が長い方の──右手に持つ棒を突く動きに合わせて体を横に反らし、拳を僕の腹に当ててくる。


 対応できない。


 どこぞの格闘ゲームの対空コマンドみたいなジャンプアッパー攻撃である。そらをとぶ をしていてもダメージくらいそう。


「っっっ!!」


 アッパーカットに振り上げられて浮いた僕の体は天井にぶつかる。


 メリメリメリッ!


 天井すら破壊してめり込んだ体は無様に床に落ちる。


 僕がめり込んだ周りの天井の板やら何やらも、ともに落下する。


「立て。まだ貴様への制裁は始まったばかりだぞ」


 目の前がチカチカして頭が働かず、さらに全く痛くないのに体にも力が入らない。


 力が入らない。そんな中常に開いていたステータスを何とか見て、動かない頭なりに違和感を覚える。


 まず見たのは状態の欄。特に増えていることはなかった。減っていることもなかった。


「…………やはりその程度か。また地下牢にでも入れておくか」


 そう言って男は腕を掴んで強引にに引きずり始める。


 僕には抵抗する余裕が残っておらずなされるがままだった。


 ステータスを眺め、違和感を覚えた所を探すも、働かない頭では何も見つけることは出来なかった。




「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」




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