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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 一章 後編 栄華を極める富豪の街
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ニンジャですが隠れません(どやあ)


「しゅたっ」


 天井から音もなく着地する黒装束。自分で効果音を言わなければ無音で、誰も気づけないんじゃないかと思うレベルだ。


「私は、あなたを助けに来ました」


「………? どういうこと?」


「ちょっとお嬢様から言われまして」


 着地したときのしゃがんでいるような姿勢から直立姿勢になり、手を差し伸べてくる。


「なにを……言われたの?」


「友人を逃がしてほしい、と」


「へぇ……と、いうか、お嬢様って?」


 その問いに首を傾げる黒装束。


 ……顔まで黒い布で覆い隠していて、僕からは目と、後ろに括られている髪以外見えるところがない。


 まあそもそも薄暗い牢屋のようなここでは黒装束でなくともまともにその容貌を見ることは出来なかったかもしれない。


 戸惑ったような声音で、黒装束は言った。


「え、あの…分かってて一緒に行動していたんじゃ……」


「まさかお嬢様って、フィ……フィーナさんのことですか?」


 ネイシーさんが連呼してるせいで名前は覚えている。どうせフィと言ったとしても通じるとは限らない。と言うか前から思ってたがフィって言いづらい。


「……分かってるんじゃないですか」


「いや、本人は何も言いませんでしたし、ここでこういわれるまでは確信無かったですし! だからそんな部屋の角で小さくならなっ」


 フォローしようとあわあわしながら手をついて立ち上がろうとした。


「むぎゃっ」


 しかし腕、その他諸々に力が入らず顔面から床に倒れ込む。


─────あぁ、これはやばい


「……っと。これで脱出ルート確保……で、なんですか? 聞いてませんでした」


「…………なんか苛っとする」


 黒装束は部屋の角で何かの作業をしていただけのようで、フォローしようとした僕が自分で馬鹿らしく思えた。


「大丈夫ですか?」


「……駄目です…精神的にも肉体的にも」


 自覚した途端にこれだ。 


 腕だけじゃなく、上半身全体にも痛みが、激痛と言っても過言でないくらいの痛みが痛かった。痛かった。


「……大丈夫そうですね?」  


「大丈夫じゃないと言ってるじゃないですか」


 倒れてる人を見てそう言うのか。


 僕は少しばかり憤慨した。


「旦那様言ってました。筋肉痛ですよねー、捕まる前にどん動きしたんですか?」


「力を倍々にして棒を振り回した……………って。え? 旦那様?」


 何だろう。僕自身察しが悪い方だと思うけど、そんな察しが悪い僕だとしても嫌なことを察する。


「あっ」


「まさか、大変なことやらかしてるんじゃないの? それこそ大丈夫?」


 さっきの男も旦那様と呼ばれたのだ。旦那様が同一人物奈良この黒装束、とてもヤバいことしてるよね。してるよね!?


「バレなきゃ問題ないですよ。今ネイシーさんが旦那様を足止………話をしている最中ですから。」


 それでいいのか? と言うかネイシーさんが足止め……?


 何のつもりだろうか……そもそも黒装束の人とネイシーさんがどうつながってるのかが見えないけれど。


「それで、筋肉痛ですよね? だったらお任せください! 回復魔法は得意なんですよ! 浄化も支援も二つとも『A』ですから!」


 それは頼もしい。でも筋肉痛って魔法で治して良いのか? と言うか治るのか?


「《ヒール》」


 僕の体が仄かな光に包まれる。何だか暖かくて心地良い感覚に体も包まれる。


「どうです? 治りましたよね?」


 ………そう言われてみれば……。


「殆ど変わってないです。すごく痛い」


「うぇっ!? 何でですか!?」


「ヒールで治るものなんですか?」


「はぅぅ……本来ならば、大抵ヒールで何とかなるんですよ……筋肉痛対処はそもそもヒール以外無いんですよ?」


「……でも」


 現に治ってない。HPは全快したけれど。


「筋肉痛の深度ですかねぇ……私のMPそんな多くないですが、仕方ないですね」


 いや、多くないMPを使わせるわけにはいかない。わざわざ助けに来てくれたのだから。


 幸い足は問題なく動く。


 だから、黒装束が何か言う前に僕は言った。


「いいです。もう大丈夫ですから、早く行きましょう。」


「え、あの、いいんですか?」


「ええ、まぁ……軽くなりましたし」


 体が軽くなったのは嘘だ。筋肉痛がヤバいままだ。


 リュックを拾い上げてそう言う。


「あ、そうですか。ではネイシーさんが言ってたんですが、逃げるときはこれに着替えてください。似合うと思いますよ?」


 そういってその『着替え』を広げる黒装束。


 リュックを背負った後にそう言うことを…────────────え。


 ………………え。











「あら、フィ。今日は一段と変な格好をしているじゃない。またメイド服と間違えて……それはアレですか、異世界の『ニンジャ』の格好ですわね?」


 黒装束の人を見て真っ先にそう言う反応が出来るこの人は何者だろう。


 って、そんなことよりも。あっさりばれてるじゃないですか。


「あ、あわあわ……私はフィなどではないです。ニンジャですが」


「ニンジャなのは認めるのね…隠れる気、ゼロみたいだけど」


「隠れないニンジャだっているのですよ。しゅびっ、ばばばっ」


 跳んだり跳ねたりする黒装束さん。


「いや、忍ばないニンジャなんてきょうびニチアサにすらいませんわよ? ……それと、そんな間抜けなことを言い出す人はフィしか私は知りませんし?」


「ニチアサ……?」


「……な、何でも良いわよね、そんなことは。それよりも!」


 話題を転換するように、彼女は大きめの声で、ずびしっと黒装束の背後、背負われている僕を指す。


 ここは廊下だが大声は大丈夫なのかしら……っとと対話してる赤髪ウェーブメイドの口調が……。


「そんな紐で後ろに人が括り付けられてれば、誰だって目を疑いますわよ? フィアナなら、と納得されはするでしょうけれど」


「だから、私はニンジャです」


「何とでも言うがいいわ。どうせフィアナ以外有り得ないわよ。目立たないのが仕事なのに目立つ姿するアホなんてフィ以外にいるかしら?」


「むむぅ………」


 そうですか、有り得ないですか。確かにそうだ。


「それはそれとして、本当、その人は誰ですの?」


「私はニンジャですよ?」


「だぁあもうフィのことじゃありませんのあなたが背負っているその女の子のことを聞いているんですわ!!」


「なんと……そんなことを聞いていたんですね!?」


「……あなたと話していると段々とアホが移る気がしますわ……」


「いやぁ、それほどでもぉ? ありますけどぉ?」


「褒めてませんわ! ええ! 誉めてません! ……はぁ」


 照れたように頭を掻く黒装束に、対するメイドは地団太を踏む。


 何だろう、今僕は急いでるんじゃなかった?


「……あぁ~えっと、この子が誰か、ですよね?」


「えぇ…そうですわよ。早く言いなさいな…」


 疲れたように返すメイドさん。


 それを見てから黒装束は


「ニンジャですよ? 名乗ってどうするんですか、ばははーい」


 走って逃げ出した。え、ちょっ!?


「んなっ!? ちょっ、今の館で暴れないでくださるかしら! フィ──!!」


 とんでもねぇ娘だ………。


 僕は僕を背負う自称ニンジャ他称フィアナに対して、自分が会話していたわけでもないというのに苛立っていた。




 どうもこの自称ニンジャ、アホみたいだ。


 赤髪ウェーブメイドから走り去って逃げた後、館の出入り口に向かうのかと思いきや。


「げげっ…メイド長…」


「げげっ、て……あなた何してるのかしら」


 早速別のメイドに捕まっていた。


「え、えと。ニンジャ…」


「はあ?」


 凄むメイド長。


「……ごっこです。ちょっと楽しくなっちゃって……てへ?」


 頭をこつんと叩き頭を傾ける。


「てへ? じゃないです。あなたは常から思っていましたけど、真正のアホですかアホなんですか!」


「わたしはしんせいはしんせいでも、神聖なアホになりたいです」


「意味分かりません!!」


 誰が見ても真のアホだと思いますよ。メイド長さんの言うとおり。


「まあ、いいです。ですが、何ですかその女。街も最近騒がしいですから館の外の人間を連れて遊ぶのは止めなさい。特に今日は」


 ………僕を背負っていることへの注意、それだけなのか……。


 やはり少しおかしいと、僕は思った。


「…フィアナ? よく考えたら何故その女は私達と全く同じ服を着用しているのでしょうか?」


「……ニンジャは何も語らずっ!」


「あ! フィアナ! 今そっちに向かうと問答無用で叩き出されますよ!」


「………マジですか」


「何ですかその言葉遣いは」


「自分、ニンジャですから」


 肩をすくめて溜め息を吐くメイド長さん。ニンジャ云々は置いておいて話を続ける。


 一瞬メイド長がちらりと僕を見た気がする。


「そちら……何の部屋かは分かりませんが警備が厳重になっていて、誰であろうと寄り付く者を排除しろとのお達しです。旦那様の」


「お嬢様の部屋が、ですか」


「フィアナ!? 部外者がいるのに!」


 部外者とは僕のことだろう。メイド長さんは慌てた様子でフィアナの頭をひっぱたこうとして、やめた。


「…………フィアナ? やはりもう一度聞きましょうか。その女は誰です?」


「さっき言いましたよね」


「はぁ……答えになっていません。その女が誰かを聞いているんです。誰か分からないと」


 その言葉を聞いた瞬間に大きく飛びすさる黒装束。僕を背負っているというのにその動きはとても軽やかだ。


「いいいい言いますよ!! さっき足を怪我して動けなくなってるところを助けたんですよ!! んじゃ!」


 そしてメイド長さんに背を向けて逃げ出す黒装束。


「────分かりました。そんな同僚(めいど)はいません! フィアナ! 嘘はいけませんよ! 待ちなさい!!」


 恐ろしい寒気に振り返って見れば、メイド長は左手を前に緩くつきだしていた。


「《ダウン・スピード》」


「避けて!」「無理です!!」


 手を突き出す動作に嫌な予感を覚えていた僕は叫ぶが、一瞬置かずに返答された。諦めるの早い!!?


「やっばい……」


 メイド長の手から放たれる青の波動に反応して、黒装束が青く光る。


 するとどうだろう、がくりと速さが落ちる。


「逃げるのを諦めるのです、フィアナ!」


「嫌ですぅ! 捕まったらまた折檻されますぅ! それにニンジャごっこもまだ始めたばかりなんですぅ!!『来たれ万象普遍の姿』《ディスぺル》!!」


 黒装束を包む青い光が消え、黒装束が加速する。


「ちゃんと捕まっててくださいよ!! 《エンチャント・スピード》!!」


「待ちなさい! フィアナ! フィアナ!!」


 黒装束は魔法を使った途端にさらに加速する。


 僕は出来るだけ黒装束の邪魔にならないようにしがみつきながら、後ろを見る。


 メイド長を大きく突き放して、逃げることに成功していた。

すいません、話の途中から蒼節と言ってましたが、翠節でした。既に訂正してあります。すいません。

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