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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 一章 後編 栄華を極める富豪の街
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狂気孕む野球少年



「そんなに楽しそうにして、どこへ行くんだい?」


 ニコニコと、そんなことを聞いてきた少年に現実はそう甘くないことを理解した。


「《獣化・狼種》!!」


 大通りに出るなり、そう問いかけてきた少年は、あのバットみたいな棍を装備した少年。


 この少年が敵であることはすでに疑うつもりは無い。何で攻撃してくるか、正しいことは分からないけれど。


「いいのかなぁ!? 街中でそんなことすれば!! 君が領主の娘だってバレちゃうよ!!」


 いや、お前がバラしてんじゃねえか。


 心の中でそう僕は毒づいた。


 フィは何らかの技能を使用して、その外見を獣じみたものに変える。


 とは言っても、髪の毛が三角に隆起して、瞳孔が縦に開き、爪が鋭く伸びる位だが。


「よっと! ホームラァーン♪」


 素早い動きで飛びかかったフィを思い切りのいいスイングで対岸の店に架けてある看板にまで吹き飛ばした。


 この大通りの中間には水路が走っていて、その水路はこの街の外縁部まで繋がっているらしい。


「ふふん、やっぱりバットは木製より金属だね」


 フィは看板をくの字にするようにめり込んだあと、看板と一緒に地面に落ちた。


 看板を下敷きにして。


「さ、次はメインディッシュだお前ださあ!!」


 バットを振り下ろしてくる少年。


 僕は繋げた棒を頭の上に掲げるように───したら死ぬ。


 横に大きく跳ねて、回避する。


「なーんだーつまんないの、力比べはー?」


 ふざけるな昨日のレベルまで腕力を上げるとなるとMPが6000必要なんだよ!! 三分間しか出来ないというのにこの消費はバカだろ!!


 《三倍撃》は重ね掛け出来ないし、能力値じゃなくてダメージを増やす技だし!!


「《《ダブル》盗塁(すてぃーる)》!! ソォレ!!」


「のわぁ!!?」


 前にいたと思ったら後ろに移動していた。


 僕は前に転がるように飛び退く。


「なんだ、今のは……」


「言ったよねぇ! 目を逸らしたらいけないよってねェ!!」


 振り下ろされるバットをまた横に転がって避ける。


「っとと」


 そうしたら水路に落ちかけ、ギリギリのところで踏ん張った。


「《MPバースト【敏捷】》!」


「何をする気かなぁ!!」


 しかし落ちそうになったところは変わりない。若干賭けではあるが、水路の対岸に跳躍した。


「うおおおおお!!!」


 届け!


「ソォレ!! 打球だよ!!」


 そうして例の如く放たれた炎の打球は僕の背中に突き刺さる。


「がっっ!?」


─────そのおかげでギリギリ届かなかった対岸まで到達した。


 当たったことで錐揉み回転しながら対岸にダイナミック着陸した僕は素早く片手でステータス窓を開く。


【HP】13/44


 ………一発でここまで削られた。


「…………結局僕が弱いのか、あれが強いのか……そもそも僕もアイツも弱いだけで実際もっと強い奴が普通なのか……」


「何ゴチャゴチャ言ってんだ!! アアまだ生きてるならブッコロス! 《盗塁(スティール)》!」


 というか、盗塁って野球用語だよな。


 確か一塁から二塁に、打球以外で……て、正確な定義は知らないけれどね。


 あれを正面にしたら一塁は………


「《三倍撃》!」


「なっ!?」


─────左だよな?


「何でオレに攻撃を当ててんだよ!!」


 僕は棒を思い切り体の左側に向けて振り回した。


 するとどうだろう。見事に棒は少年に当たり、小さくはあるだろうがダメージを与えた。


「つかなんだこれヤケに体力が減ってやがる!?」


 棒立ちで恐らくステータスを見ているのだろうが、そんな姿勢で文句を言っているなんて


「《三倍撃》だ、よいしょっ!」


 格好の的じゃあ、ないか。


 棒を思い切り振り回して顔面に当てる。


「…………痛いなぁ…」


 しかし、棒立ちのまま、一切仰け反ることもなくこちらを見る少年。


「全く、ステータス差ってモンをなめて貰っちゃ、困るん───」


「がぁぁ!!!」


 しゃべっている間に少年の背後からの急襲。


 風を切り、唸りをあげて飛来するは投げられた看板の破片。


「よっと!」


 って、こっちに当たる!!?


「危なっ!?」


 少年が軽々よけた破片は僕の方へと飛来し、僕は肝を冷やした。


 辛うじて避けたけれど、当たったらたぶん死んでた。


 そのことを文句の一つでも言おうかとも思った。


「今の内に逃げろよボゲ!!」


「うるさい死ぬとこだったろ!?」


「どうせ避けると思ったからな!」


 投げた本人、フィは悪びれること無くそんな事を。行動が僕のためとかいいつつ、殺そうとしてませんでしたか?


「あのさぁ………邪魔すんなよ……せっかくオレのみの実力でさぁ……ちゃんと殺せると思ったのによ……」


 肩を震わせ、フィの方に体を向ける。


「………殺せると、思ったのに……」


 まさか………泣いてる?


 そんな訳ないと思いながらも、僕からじゃ顔が見えない。


 ついでに言うと、泣いてなかった。


「殺せると思ったのにぃぃぃぃぃぃ!!!!!」


 吠える。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 跳んだ。


「えっ─────」


 フィに向かって、バットを振り上げながら飛びかかる少年。


 まずい、あれを食らえば──────


 フィは、少年の吠える様に怖じ気づいたのか、少年が飛びかかってくる事に対して何の対応もしていない。出来ていない。


「シネェェェェ!!!」


 その光景を見て、僕は───────

 

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