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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
序章・夏の日
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狂信的なテロリスト達



 と言うことで、駅前の何でも揃っているショッピングモールに来ていた。


 義理の姉と来たら『ここでなら、切ってもいいわ』なんて言うから、わざわざ駅前まで来ていたのだ。もちろん一人で。


 何でも『物騒な世の中だけどここなら何か起きてもちゃんと対処してくれる』とからしく、義理の姉はかなりの信頼を寄せていた。


 ………そこまでする意味があるのかなぁ。と思うが、まぁあの事件が有れば仕方がない。


 その事件は連続して一つの教団が起こした多数の事件故にその教団の名前を取って『虚無天使教暴動事件』と呼ばれている。


 九州で起こった高校襲撃事件から始まり、段々と北上するように襲撃事件が起きた。その襲撃される側は決まって『門』に纏わる噂、展示を行っていたという。


 5月頃にこの僕らが住む地域の博物館も襲撃されている。


「まぁ、と言っても、ついこの間教団の一番偉い人が押さえられたらしいけど。」


 だから、正直過剰に反応する義理の姉を『心配性だなあ』なんて目で見ていたりする。


 実際言ってしまったことがあるがそのときは『当たるって有名な占いサイトで変な結果が出たの!!』と大真面目に返されてしまった。


 義理の姉が真面目な性格なのは分かっていたけど、その占いサイト……確か〖ブラックリバース〗って言ったかな。それが本当に当たると思い込んでいるような感じだった。


 義理の姉が思い込みで行動することなんてないと思うけど、どうしたんだろうか。


 そんな考え事をしながら、既に短く切られた髪を気にもせず、何やら雑貨が売っている所を彷徨(うろつ)いていたのだけれど。


「お?」


 一つの商品に目が向いた。


 ドッキリグッズのコーナーに置いてあった〔ナイフ〕である。


 所謂『刺さったと思った!? 残念玩具でしたー!!』って奴だ。刃が柄の中に簡単に入ってしまう奴だ。


 せっかくなので一つ一つ手に取り、一つ、やけにずっしりとした重量の物を買うことに決めた。


 何故買ったかって?


 義理の姉が占いにのめり込んで、最近笑わないから。ドッキリを仕掛けて笑わせてあげようと思ったからだよ。






 しっかり購入したので渡された時のビニール袋共々背負っていたリュックにしまい込んだ。


─────そして意気揚々と店を出ようとしたときに、事は起きた。



「おらぁ!! (ひざまず)け!」


 集団で出入り口から押し入ってきた、白い………ローブ? の集団はいきなり持っていたライフルを上に向けて引き金を引いた。


 一瞬、状況が分からずポカーンとしてしまう。


────あー、これがいわゆる《威嚇射撃》ってやつかー。


 現実逃避気味に考えていると、彼らはもう一度


「その場に跪け! 抵抗するんじゃねえぞ!!」


 とまた天井に向けてパパンと数発の弾丸を放った。


 そして漸く、状況を飲み込んだ人達が言われたとおりに地面に座り込む。だいたいの人が両手の平を白いローブの彼らに見せるように上げていた。


 しかし、状況を理解しながら、立場の分かっていない人も居た。


 それは遠くから聞こえた。


「──何よアンタら!! 自分達が何をしているかわかッ────」


 銃声。遠くで甲高い悲鳴が上がり、何が起きたかを察した。


 どうやら、他の出入り口すら封鎖されている上に、抵抗したら命は無い、みたいだ。


 冷や汗を垂らしながら、僕は地面に座り込んだ。




 白いローブの彼らは、どうも素性を隠すつもりが無いらしい。


 顔を隠さず、カメラを撃つこともしない。


 そして何より、状況が見えてこない。


 何がしたいんだこの人たちは。


「あの! 無いっすわ、隠してたナイフが一本!」


「何だとこの愚者が。我らが大いなる天使に捧げる供物の為の聖具を喪失など、天使様の元で贖罪するが良いわ!!」


「やっ、やめッ────!!」


 そう言って下っ端ローブが何言うも気にせずに銃を突き付けて何発も打ち込んだ。


 そこから先は見ていない。


 ただ僕達は手足縛られて纏めて広場のような所に置いておかれていた。縛っていた紐はビニール紐なのだがきつーく締められていて、取れない。


 幸い、リュックは背負ったままだ。


「はぁ、全く。……ああ、天使様……我が信仰をお受け取りください……。純粋な供物を、いち、にー、さーん………沢山。」


 よくしゃべる白ローブだ。一応他にも白ローブはいるのだが、無言である。


 周りを見ると、安物っぽい黄色い傘がたくさん売られているところがあった。何であそこだけ白ローブが居ないのかな。


 そう言えば、僕、何か重めのナイフ。買ってたな。


 もしかして、とリュックを音を立てないように人にあけてもらった。


「……ありがとうございます。」


 一応、小さな声で礼を言う。開けてくれたのは、やや頭が寂しそうな中年の小太りなおじさんであった。


「そこ!! 何をしている!!」


 ぎっくぅ!?


「ひぅ!?」


 しかし僕ではなく、小さな悲鳴を上げた少女がよく喋る白ローブの標的にされたようだ。


 少しほっとしたが、どうやら大変なことになったようだ。


 そう。あわあわとし出す、眼鏡を掛けた小柄な女子はつい、手を上げてしまったのだ。


────縛られていない両手を。


 どうやったかは疑問だけど、本来拘束されている手が拘束されていないのだ。


 それを見るや否や、よく喋る白ローブが激高し、軽挙に出ることは分かり切っていた。


「なぁぁんで縛られていないのかなぁぁ!!?」


 だから小さな声で、リュックを開けてくれたおじさんに頼む。


「中のナイフを取り出して、僕の両手両足の拘束を切れ!」


 おじさんは小さく頷くと、手早くドッキリグッズの封を開けて、拘束を切った。


 音が聞こえてしまったのだろう、黙するだけの白ローブ達が慌てる。


 ナイフはおじさんに持たせたまま、リュックを肩から外して、手に持って走り出す。


 動き出した僕を撃とうとしたのだろうが、慣れていない上に───


「あれ? 撃てねえナンデ!?」


 アホか?


 とにかく、さっき確認した至近の傘売り場に駆ける。


「おいおい!! 何逃げてるんだよ!!」


 どうやらよく喋る白ローブは少女から僕に標的を変えたようだ。


 僕の彼女によく似てた少女が殺されそうになっていた、それで自分の中の何かがが───切れた。


「ふっ!!」


 傘に手を掛ける。


「ヨシッじゃねぇんだよテメエは真っ先に捧げてやるゥ!!」


 ババババババ


 大量の発砲。しかし僕は既にそこには居ない。一本の傘を引き抜いて射線の横へと逃げていた。


 離脱する時、左手首を撃たれてしまったけれど、痛かろうが止まったら死ねる。


 独断行動で他の被害者を巻き込んでしまったら大変だ。


 右手に傘、左肩に引っかけるようにリュックを。そのまま、弧を描くような道でよく喋る白ローブへと走る。


「!?」


 逃げるとでも思っていたのだろうか、まるで予想外のことのように、目を見開くよく喋る白ローブ。


「その十字架はァッ!!」


 何故か発砲を止めたよく喋る白ローブ。幸運だ。


 至近距離まで接近して、やっと僕への敵意を向けなおしたよく喋る白ローブの顔面にほぼ空のリュックを投げつけ、余り動かない左手でリュックを押し付けるようにして。


 右手に持つ傘で叩いた。


「グッ」


 しかしさすが安物。バインと弾かれる、が、僕は走ってきた勢いのまま押し倒した。


 そして様子が分かってない混乱した相手の喉に傘を突き立てた。


──────僕にその時、善意も手加減もなかった。


 突き刺したのは三度、だった。それで動かなくなった奴を一度、胸を思い切り踏みつける。


 引き抜いた傘の先は赤黒く染まり、元々黄色かった傘は危険色のようだった。余り良い例えとは言えないけれど。


「おい、君! 危ない!!」


 え?


 ふと先程ナイフを預けた小太りのおじさんの声で我に返る。


 しかし、その一瞬後、胸元に熱い感覚を覚える。


 ふと己を見返してみると、胸元は赤く、染まっていた。


「くっ、このっ───」


 多数の悲鳴怒号が鳴り響く中僕は地面に力無く倒れ伏した。


 辺りは拘束の解けた人達が白ローブに殴りかかっているところだった。


 目の前に転がる、ずっと持っていた羽の生えた十字架のネックレスが仄かに光る。


 それだけ、見届けて、僕は────



──────息絶えた。

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