親切で下世話な。
目覚めると、ベットで寝ていた。
何でだろう、と私は考えたが、そう言えばとネイシーに強制的に眠らされたことを思い出し布団を引っ剥がす。
…………ネイシー、何やってくれてるの……!!
憤るままに起きあがろうとした。
しかし起き上がり横を見れば────
「き………」
アサギが居た。
「……きゃぁぁぁぁぁあ!!!」
我ながら、朝からよく声が出るな、と動揺しながら変に冷静に思っていた。
彼を蹴飛ばし自分はベットから飛び退こうとして背中を壁に強打する。
ベットは壁に接していて、私は壁側で寝ていたようだ。
「ぐぎゅっ」
掛け布団を巻き込んで彼は床に落ちる。
それから扉が開く音が聞こえる。きっとネイシーだ。
「あら? 昨日はお楽しみでしたね?」
─────その後のことは誰も覚えていない。
目が覚めたら、肩を上下させるほど荒い息づかいのフィと。
「……………」
倒れて痙攣しているネイシーさん。
「あれ、何で床で寝てるのへぶぁ!?」
フィが冷たい目で見下ろし、思い切り蹴飛ばしてきた。
「何で蹴るのさ殺す気!?」
「あぁ!? じゃあ何!? どうやって乙女の寝床に入り込んできたと言う事の贖罪するのかなぁ!?」
「言いながら蹴らないで!!?」
「何で寝てたか言え! 言ってよ」
「え……っ…痛っ!!? 痛い痛い!!」
フィの顔を真っ赤にしての癇癪は一時間くらい続いた。
「別に、何かしたわけでもするつもりもないんだから良いじゃん……」
「しなかったの? 勿体ない」
「また殴られたいと見えるな2人とも」
二人揃って土下座する。
「と言うかもう昼前じゃないか。勿体ない時間の使い方をしたな」
ネイシーさんの頭を一度思い切り踏みつけてからそう言うと、フィは店外へ歩いていく。
「大丈夫ですか? ネイシーさん」
「問題ない問題ない問題ない問題ない問題ない。」
僕とネイシーさんは立ち上がる。
するとネイシーさんは
「そうそう、君、確かナイフ持ってたよね? 今の武器に不満ある?」
「突然なんですか?」
武器………? ナイフじゃ、攻撃力はあってもちょっとリーチ的に扱いづらいというか怖いというかそう言うのはある。
「まぁ、短いですから、少し怖いんですよね。」
そうやって思ったことをそのまま言うとネイシーさんは手をたたき
「そう! ならちょっと待っててねー!」
奥へと行ってしまった。
「え、ちょっと!! まさかまた何かくれるんですか!? 止めてくださいこれ以上は!!」
僕はそう言って留めようとした。場に流されていたが、すでに本やら髪留め用の布やら貰っているこれ以上貰うわけには………!!
それから戻ってきたネイシーさんが持ってきたのは只の棒だった。しかも二本。
「これあげるよ! ちょっとした恩人がずいぶん昔にくれたやつなんだけどね!」
「え、そんなものもらえませんよ!!」
その棒は丸くその断面の大体半径が3cmくらいで、長さは短い一本が長い一本の三分の二位の長さだった。
形は円柱で変に曲がっていることもない。真っ直ぐな棒だった。
「いやぁ、元々一本の棒だったんだけどさ、私にくれる頃にはもう折れてたんだよ。それでいらないからって貰った後に改造してたら」
そう言って二本を繋げ、それから捻る。
片手でそれをブンブンと振り回した。
「こうなったんだけど、魔力流してないと」
そう言うと振り回した遠心力により、突然接合が外れてすっ飛んでいく手で持っていない方の棒。
壁にめり込んで止まる。
「《ウェーブ》っと」
魔法の影響か、カタカタと振動して棒は壁から落ちる。
「外れるの。しっかし硬いからある程度雑に扱っても折れる心配はないからねぇ」
「…………」
「何その目。別にいいのよ、いらないなら捨てるから。」
「はぁ……」
「燃費悪くはないわよ? 自然回復がその早さで行われる君なら無いも同然よ。」
仕方なしに受け取る。
ギリギリリュックには入った。長さ的に本当にギリギリ。
「……ありがとうございます。何かいろいろ貰っちゃって…すいません」
「いいのいいの、そんなのでフィーナを守ってくれるなら安いもんよ!」
「フィを守るとは一言も言ってないし、あの子の方が僕よりも強いと思うんですが」
「………そのうち分かるわ。そのうち」
その言葉には不思議と納得できる何かが存在した。
「これからどうするの?」
「どうしようかなぁ………あー。生きてれば何とかなると思うんだけど、何がどうなればいいのやら全く見えないんだよな」
「まぁ、確かに。」
また細い路地を歩きながら、僕達は話していた。
この街は広さからかこういった路地が、無数に存在している。
そこは、綺麗だったり汚かったりと様々だ。
「………と言うかそれは?」
「さっきネイシーさんがくれた棒」
────【力】65(40+25)
ナイフよりは上昇値が低い。このくらいがふつうなのかもしれない。
ただ、魔力を通す具合で少しだけ上昇値が下がるようで、恐らく接合部の固定具合に少し影響を受けているのだろう。
「ふーん………」
特に興味もないと言った様子でフィは先を歩く。
「そうそう」
「なに?」
「この街は、どう?」
「どうって………突然どうしたの?」
「割と来たがってたよな?」
「うん、まぁ」
「それで、実際来て見て、どうよ? 気に入ったか?」
「永住するつもり無いから」
「いや、単純に感想を求めただけだぞ? 私だって街に住むつもりは無いからな」
「……で、感想? いい街じゃないか? 水は豊富で綺麗。大通りは賑わっていて、道はしっかりと手入れされてて……それと」
「だろ?」
「疑問なんだけどさ、イフェルが陥落したって言うのに、この街の落ち着きようってなんだ?」
昨日の夜、ギルドで見た記事の一つを思い出して、違和感を覚えた。
その疑問をフィに対して口にする。
「そうそう…イフェルが……っ!?」
フィは僕の両肩をひっつかんで前後に揺する。
「何でそれを早く言わない!!」
「ええええそれはぁぁああ言うタイミングがあぁぁ」
「だとしたらルーズリア領内にいるのは安全じゃない!! 早く逃げるぞ!!」
そう言いきってから僕を突き飛ばす。
「面倒な色恋で始まった戦争とは言え、戦争だからな」
「うええ……」
ちらとこちらを見てフィは言った。
「今回の戦争の原因って知ってるか?」
「突然何よ………」
「隣の領主がルーズリア領主に告白して断ったから、だってよ」
「………ひでぇ」
「ま、それはともかく、この国から出ないとな。ほら、目的が出来た」
「確かにそうだけど」
「幸い国境には近い。しかも有名な亡命のルートにも近い。ここは絶好の街だ」
「亡命のルート?」
「蒼の方角に見えるだろ? あの山を越えれば、隣の国さ」
「へぇぇ………うへぇ……」
僕は納得したけれど、山の標高の高さに辟易していた。
「まぁ、取り敢えず街から出ようか」
「いいのか? もう。やり残したことは無いのか?」
「あー、食糧ねえな……ま、どうにでもなるさ。気にするな、あのゲロ飯を信じろ」
………とても信じたくないんですが。
僕達はそんな風に談笑しながら街の出入り口たる門に繋がる大通りに出た。




