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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 一章 後編 栄華を極める富豪の街
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技能の有効活用



 既に日が落ち掛けている。


 魔法書店を後にして、念の為とギルドに寄るべく進む。


「…………ちっ」


 舌打ち。フィは細い路地から丁度見える冒険者ギルドを見て、苦虫を噛み潰したような表情になる。


「どうしたもんかなぁ。私だけで見てくるからここで待ってろ、と言ったらお前は待つか?」


「何かあったの?」


「居るんだよ、毛達磨。」


「……………へぇ。」


「待っては、くれないんだろ?」


「と言うか、バレなきゃいいんだよね………考えがあるんだけど」


「はあ? お前の髪じゃ、バレないほうがおかしいだろ?」


「いやいや、何とかするさ。要は髪さえ何とかしてしまえば……あとはすっとぼけておけばいい」


 僕はニヤリと笑ってそう言った。


 それに対してフィから帰ってきた答えは、呆れから来る溜め息だった。






「これは、自分の意志というよりも、仕方ないからやるんだ。」


 僕は髪を強引に縛り上げて上で纏め、元々着ていたボロ布を三角にして頭に巻く。


 服は着替えていない。まあ、何とかなるだろ。


「《女装》《演技》………やるか。僕」


 常時発動しているであろう技能を呟き、ギルドに入る。


 演技って、騙すものじゃない気がする。


 今更何を考えているのやら。


 取り敢えず、ギルドの掲示板を眺める。


 掲示板の紙に魔力を通す。


『イフェル陥落!』


 大きな見出しで、そう書いてある。もうじきこの国も終わりとか書きつつも、国外亡命をする貴族を叩く動きがあるみたいだ。国と一緒に沈めと。


『指名手配!』


 小さな見出しで、艶やかな銀髪・年は13歳ほどの女子を探しているようだ。名前は…………


「へぇ、魔力通せば読めるんか」


 考えてみれば、冒険者ほど成ることが簡単なら識字出来ない人は居るだろう。


 その配慮であることはわかるけど、何で僕、魔力流したんだろう。




「ねぇ、君?」


「なんですか?」


 僕は少しだけ声を高めにして、振り向く。


 その先の光景を瞬間僕の全身が凍りついた気がする。


 外面は保てたと思いたい。


「そこの、指名手配の子、知らないかなぁ?」


 問うて来たのは毛達磨だった。


 開いた口がなかなか動かない。


「どうしたのかな?」


「………え、と、し、しり、知りません」


 あ、あっち行け、はよ!!


「そう、ならきれいな黒髪をしてて、しかも青とか赤とか奇妙なのに綺麗なグラデーションの女の子は知らない? かなぁ? この街に来ているのは知っている」


「は、はは………知りません。知りませんよ」


 僕はずずいと詰め寄る毛達磨から目を逸らし、そう言った。


 言動怪しっ!? これもうバレたでしょ!!?


 心臓が痛いくらいに鳴るが、じっと僕を見てくる毛達磨がそれを看破したら大変なことになる。


「………そうか。悪かったねぇ」


 そう言って肩を叩いて去ろうとする毛達磨に安堵して肩の力が抜ける。


 そして毛達磨の横を通り抜けて立ち去ろうとする。


「わ!?」


 見事にギルドの外に出たことで安心したせいか、人とぶつかってしまう。


 僕の頭のボロ布がほどけて落ちて、ぶつかってきた相手が叫ぶ。


「あぁーー!! お前はッ!!」


 ぶつかってきた相手、バットのような棍を持つ少年が、叫んだ。


 その声で、毛達磨はこちらを見てきた。


───ああ、バレた。


「《MPバースト【敏捷】》ぉぉ!!!」


 【敏捷】値は73。消費MPは730!!


 倍加した敏捷に、ものを言わせて全力で逃げ出した。


「…………ッ!! 待てよォッ!!」


 ぽかんとしていた少年は、しかしすぐに正気を取り戻し、追いかけてきた。


 いやだ! 捕まったら死ぬ!!


 フィには悪いけど、全力で逃げよう。合流できなくなるかもしれないけど、それよりも殴殺されることの方が危険だ。











「まちやがれ!!」


 炎の球が時折、僕を掠めるように飛んでいく。


 多分、あの少年は僕を消す気だろう。理由は分からな………いや、逃がしたから、とか割と詰まらないプライドからの理由かもしれない。


 ………逃げたのあの餓鬼の方だけど。


 餓鬼……というか、まるで聞き分けのない子供というか。


 あの少年の考察はしないでおくけれど、今日の少年が持っている棍は金属製だった。


 黒く塗られた金属製のバット。なんかの企業のロゴっぽいのが書いてある様にも見えた。


「前ン時よりも速えな……何やってやがる!」


 少年が追いかけてきながら質問してくるけれど勿論答える余裕なんて無い。


 というか、まだ少年はつかず離れずな距離を保っている。息が荒れている様子もない。


 僕自身はと言えば、息が少しずつ荒れ始めていた。


「《MPバースト【敏捷】【体力】》……!!」


 これだったらすべての能力値が何に関係あるかをフィに聞いておくんだった。


 僕は一度目の《MPバースト》が切れる丁度のタイミングで《MPバースト》を再度発動させた。


 対象能力値は【敏捷】【体力】だ。


 【体力】は41なので消費は410。


 合計で1140。


 三分の間にMPが自動回復していたのだが、その数値は360。一分で120回復するようだ。


「ジリ貧じゃないか………!!」


 体力を倍加したことで、少しだけ体が軽くなる。持久力はどうやら体力に含まれているようだ。


 しかし、この消費速度ははっきり言って重すぎる。


 普通の人だったら消費が破綻してるこの技能を使う事すら出来ないのは分かっている。


 《MPバースト》を利用してやっと逃げられていることも分かっている。


 でも、MP切れたその時が僕の………と考えると頭がおかしくなりそうだ。


「おい、まーてーよー!!」 


 炎の球は打たれるのではなく、投げられているのだろう。速度的には危険な速度じゃない。


 足より速いのは否定しないけれど。


「水路………」


 一瞬、泳いで逃げようか考えたが、そう言えばリュックは背負ったままだし、その上中に浸水しないとも限らない。


「泳いで逃げてくんないかなぁ!! そしたら簡単に殺せるのにぃ!!」


 後ろの少年の短絡さ故に、水路に入れば詰むことくらい、簡単に分かった。


「どこに逃げる……」


 オルカリエの街はかなり広い。ギルドにはフィが語っていたとおりの、オルカリエの情報があった。


 流石に街の地図までは頭に入れていないけども。


 そして僕が使えることが分かっている技能は《演技》《憤怒》《MPバースト》《三倍撃》だが、《憤怒》は使えないと考えていいだろう。


 兎に角、どうすれば………


「そうだよ……地面!!」


「逃げるなよまちやがれ!!」


「うるさい餓鬼! 良い子はネンネの時間だ」


 僕は細い路地に入る。目に入ったレンガを手に取った。


 そして発動を念じたのは《MPバースト》。対象は【力】。


 ごっそりとMPが削られることによってか、今まで感じたことの無いような虚脱感に包まれる。


 しかし、レンガを手放さずに振り上げる


 そして次に念じるのは


「《三倍撃》ッッッッ!!」


 思い切りレンガを地面に叩きつける。


 丁度、少年は曲がり角に入ってくる。


「なっ──────」


 少年はバットを剣道の選手みたいに正眼に構える。投げつけてくるならやって見ろと言わんばかりに。


「バカめ」


 そして僕は腕を振り下ろした。


─────瞬間、視界が爆ぜた。



「──────ふう。どうなるかと思ったよー。だって暇つぶしで見ていれば? 一気にMPがゴリゴリ減って行くじゃない? そんで外がひっっじょうに騒がしくて。こりゃあ外で何かドンパチやってるなぁと思って飛んでいけば?」


「ありがとうございます…………ネイシーさん」


 僕は今、『長耳魔法書店』に居た。






 あのとき、振り下ろしたレンガは地面を穿ち、煙を巻き上げる。


 破片すら残さずに爆散したのだ。


 しかし当然余波のようなものは存在したのだが。


 それを食らいそうになった瞬間僕は脇の下から体を抱え上げられ、地面から浮いた。


 魔法って、空も飛べるんですね。






「礼には及ばんよ、だってほら、スッゴい面白いもの見れたし?」


「ははは………」


「そんな利用法を思い付くのも、実行するのも君しか出来ないことだからねはっはっは……まあ、素手で地面に攻撃してたら多分君は死んでたよ? 本当に。いや、マジで。MPバーストってHPとMPはバースト出来ないから」


 利用法。それは単なる…………


「えっと……重ね掛けくらい、誰か思いつかなかったんですか?」


「んー、思い付いても、実行するだけのMPが無かったからねぇ。にしても君はさっき何回力に重ね掛けしたの?」


「四回ですよ……つまり640まで、数値のばしました。ですよね?」


 ネイシーさんは笑う。爆笑だ。


「はっはっはははははは!! これは傑作だよふふはふくくくはははははっ!! 化け物じゃないか!!」


「え、化け物? え! え?」


 僕って化け物だったのか? ネイシーさんの発言の意味を理解できず、戸惑っていると


「ははははあでっ………ちょっ、フィーナぁ。」


「夜中だぞ。静かにしろよ。迷惑だし、押し入られたら言い逃れできないぞ? 只でさえエルフの癖にそんな匿ってたなんて分かったら」


「……分かってるよ、でも匿うのは止めないけどね。と言うわけで止まっていってよ?」


 ネイシーさんはフィにそう言った。


「………仕方ないな……わざわざ外で寝るのは嫌だが」


「ね、寝ないの!?」


「…………一日だけだ」


 どっちとも取れないような発言であるが、ネイシーさんの顔を見れば、泊まるつもりだろう。


 というか、何でそんな心底嫌そうな顔してるんだ、フィは。


「やったぁ!! 二階の私のベット二人で使って良いよ!!」


「フィが使っていいよ?」

「おまえが使え」


 ネイシーさんがニヤニヤと笑ってそう言ったので、僕達は同じことを言った。


「二 人 で 使 っ て い い ん だ よ ?」


 しかしそのやり取りを少しみただけで、ネイシーさんは笑顔のままキレた。


 間違いない。これはキレた。見たことある。姉さんがよくやるやつだ。


「………だったら私は」


「『神の(しもべ)として命ずる。フィーナ=オルカリエ……安らかに眠れ。』《セイントディープ・スリープ》」


「ぐう……………」


 フィの全身から力が抜け、それをネイシーさんが支える。


「じゃ、私はフィーナをベットに寝させてくるけど、お風呂入ってて良いから。一応これがここの部屋の見取り図ね?」


 僕は紙を受け取った。


「わ、分かりました。」


「んじゃ………ぐへへ……」


 そう言って、奥の階段から二階に上がろうとするネイシーさん。


「……………って、ネイシーさん……聞き分けないからって寝かせてはいけないでしょ……。」


 僕はどっと疲れが来た気がして、体が重くなった。


「ま、風呂入ってから、考えよう。」


 久しぶりの、風呂だからな。実際少しわくわくしている。






「全く変わんないのなー………と言うかどんな文化レベル……ってああ、一応この街、豊かな水が売りでもあったっけ………それは関係ないか」


 僕は風呂から上がり、着替えた。


「あれ、ネイシーさん?」


「………あー、ユウ君。どうしたの?」


「いや、どうしたんですか、明かりもつけずに本なんか眺めて」


 書店のスペースで本を眺めていたネイシーさんにそう聞いた。


 書店の、本棚が並んで居るというのに、どこも月明かりに照らされたようにある程度の明かりはあった。


 それでも禄に本を読める明るさじゃないのだけれども、ネイシーさんはいすに座り本を眺めていた。


 しかし僕が声をかけると、パタンと厚い本特有の気味のいい音を立てて本を閉じた。


「いや、こうもいろいろあると、考えたくもなるだろう? 幸いこのあたりは人も居ないから、どれだけ騒いでも迷惑じゃないし、何より騒がなきゃ静かだ。考え事にはもってこいだろう?」


「何もしてないのは分かりましたけど、ちょっと、輪ゴムみたいなのありますか?」 


「………わごむ? なんだかわかんないが、それを探しているの?」


「いえ、髪を縛れそうなものあれば、欲しいなぁって。ほら、金無いので、わざわざ買うものじゃないですけど、邪魔ですし」


「綺麗な髪だと思うんだけどなぁ……」


「いや、髪縛ったからと言って別に髪がなくなる訳じゃないですよ。どうせ一つに纏めるだけですし」


「分かってるけど、私としては縛らない方が……」

「逃げるとき邪魔なんですよ。切れれば楽なんですけどね?」


「切れば……って、あー。何か変な状態異常入ってるね……しかも解除不能って」


「まあまあ、そう言う事ですから」


「はいはいわかったー、ちょっと待ってネー」


 ネイシーさんは僕の横を通り抜けて奥に言ってしまう。



 数分後、布を数枚持ってきた。どれも女子女子した品だが一つだけ無地の布があった。真っ白。


「全部持ってて。せっかくだからね」


「ありがとうございます」


 持っていたリュックにしまい込む。そろそろリュックの中大丈夫じゃなくなりそうな気がするけど、まぁ、まだ平気なら平気だろ。


「それとフィーナの事よろしくね。あの子には色々あったのよ。知ってると思うけどね」


「いえ、知りませんよ」


「あれ? 知ってて一緒に行動してるんじゃないの?」


 暗めで表情が見えないけど、多分意外だと思っているのが顔に出てるんだろう。


「ええ、まぁ、聞いてないですよ? わざわざ聞くことじゃないですし」


「へー。身近な異性のことは何でも知りたいと思うのが人間じゃないの?」


「そう言うものなんですかね? やっぱり聞かないのは変ですか」


「まぁ。言われてないなら別に私が言う必要のないことだと思うの。気にしないでいいよ」


 それから間をおいて


「ま、フィーナのことは気にしてあげてね? お姉さんとの約束だよ?」


「まぁ、善処しますよ」


 僕はそう言って二階へ向かった。

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