フィとエルフ
僕はペラペラと本を捲る。
捲れど捲れど、一切謎文字しか見えてこない。全て暗号だ。読めない。いっそ、絵じゃないのかこれは。
「アサギ君? 文字分からないって言ったけど、文字分からなくても適性のある技能のページなら内容が分かるようになってるから、安心して探してね」
ネイシーさんはすたすたと僕の背後に立ってそう言った。
一度手を止めて振り返れば、近くにネイシーさんの顔がある。
僕が見ていることに気付いたのか笑顔を作るネイシーさん。
でもネイシーさん、なんですかその頬に付いてる赤いものは。
「んじゃ、がんばってねー」
ゆらりと僕から離れて元居たところに戻っていくネイシーさんにそのことを聞くことは出来なかった。
「読めるページなんてないんだけど……。………ん?」
何も書いてないページが一つあった。
「あー、それ懐かしいページねぇー。フィーナが修得した技能のページじゃないの」
「あれのせいで、どれだけ苦労したか」
「ん? むしろ感謝してほしいね、あれのおかげで君自身に色が付い」
「《 獣化・狼種 》」
「あぎゃぁぁぁあ!」
思い切りヘッドロックを後ろからかけられるネイシーさん。腕がギリギリいっているけれど大丈夫かなぁ、全力でかけてるよねそれ。
フィを見るとその頭に不思議なものがあった。
「ま、気にするな。早く読め」
「………けもみみ?」
「あ?」
「けもみみじゃないですか!!」
「おう!?」
驚くと同時にその頭にある耳が引っ込むように消えた。
驚くと同時にまた、ネイシーさんも解放されていた。
「…………えー」
「な、なんだよ、早く読めっての」
そう言って、本棚の向こうへと消えてしまった。
「んじゃ、前の時見たのは、見間違いじゃなかったのか……」
前とはサイトーさんと戦った時のことで、あのときはフィの頭に2つの不自然な隆起が見えただけだけども。
「いたたー……」
「ネイシーさん。大丈夫ですか?」
「大丈夫だって……言ったよね、私はこれでも高レベルなんだよ」
ネイシーさんは頭をさすりながら自慢げにそう言った。
僕はもう興味も無いので本に目を戻す。
「ねー、ねーねー、興味ない? 昔のフィーナちゃんのこっとー。」
「興味ないです」
「えー。本当にごぶっ! ちょ、ちょっとフィーナ……さん?」
横でまた、なんかやってるよ……。
僕は、目も向けずに本をまた読む事を再開した。
…………読めないけども。
「よっ、と。こんな部屋で一人のか弱い運動不足すら捕まえられないんでーすかお嬢さん」
「うるさい、早く捕まれよババア!!」
次のページ。読めない。
「ァんだとフィーナァッ!」
次のページ。読めない。
「うわっ!? ちょっ!!」
次のページ。読めない。
「はははっ!! 《ウェーブ》!!」
次のページ。読めない。
「やめ……きゃぁぁあ!!!」
次のページ。読めない。
「ははははは!! 後悔して泣き叫べ!!」
次のぺージ。読めな────
「大人気ないぞ!!」
「うるさいいい加減黙れ静かにしろよ! 図書館では人の迷惑にならないように静かにしろって言ってただろうがぁ!!!!」
─────い。その苛立ちをぶつけるように騒ぐ二人に向かって駆けだした。
「あいたたたー………君本当にあの力のパラメータなの? 恐ろしいくらいの力あったんだけど………」
取り敢えず諸悪の根元っぽかったネイシーさんを殴り倒すと、満足したので読書を再開した。
相変わらず読めないけども。
「《ステータス閲覧》………あー、技能増えてるじゃん。なんだこれ………」
──────どうやら《ステータス閲覧》は一度許可すればまた見れるようだ。
「見るの止めてやれ。何度も見て良いとは言ってないんだぞ」
「えー、本当に技能修得出来るか心配だからさ、良いじゃん。減るもんでもないし」
二人を後目に、僕はステータスを開き、技能の欄を見る。
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【技能】
《女装》
《演技》
《憤怒》怒り任せの一撃。1日に一度力の基礎能力値を五倍する事が出来る(メリット:三分、一回) 、代わりに使用後力の八割が減少する。(デメリット:三十分)
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「「何これ怖い」」
ネイシーさんと声が重なる。
「必殺級じゃん。」
「力は今……」
力いま40だから五倍で200………!?
「って言っても低レベルだし、たかがしれてるからね。」
さっきふつうに耐えたネイシーさんはそう言っている。
因みに発動していたことは自分の力の数値が恐ろしいくらい減っていたのでよく分かっている。
「と言うか、有りましたよ、読めるページ。でも何ですかこれ……」
「あー、《MPバースト》かー……それ覚えたい?」
ページをよく見る。
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《MPバースト》能力値の十倍のMPを支払い、能力値を二倍にする。効果時間三分
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「頭おかしいのかこの技能」
「あはは………」
ネイシーさんは苦笑いしている。ネイシーさんでもこの技能には苦笑いのようだ。
消費コストが見合ってない。
すると、ネイシーさんは新たに本を持ってきた。
「一応、こっちに魔法書じゃないけど基本的な魔法の使い方が書いてある本があるよ。文字の勉強でもしながらでも。そのリュック、特別製なんでしょ? 持ってって良いよ。」
そう言って僕の横にドスンと数冊置いた。
一応、《MPバースト》のページには栞を挟んで、渡された本をリュックに詰める。
重そうだけど、リュックに入れた途端にリュックは軽くなる。
このリュック、どうなっている………!?
「まあ、それはともかく。あった?」
「…………また、変なのが。」
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《三倍撃》MPを30消費して一撃の攻撃のダメージを三倍にする。(デメリット:三十秒間力5減衰)
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「悪くないんじゃない?」
「そうですね……。じゃあ、修得しようかなぁ……。」
ネイシーさんに顔を向けて聞いた。
「どうやるんですか? 魔力を流すって」
「そー、ねぇ。魔法、使ったこと無いんで?」
「そうです……けど……!?」
突然、ネイシーさんは顔を近づけ、額に額を当ててくる。
突然に顔が近くなり動揺してしまう。が、何事かを考える暇なく全身に何かが巡る。
「かほっ………何ですか、今の……」
そう問うと、ネイシーさんは額を離して呟いた。
「あっれ、思ったよりも大丈夫そうだね。初めてならもっとダメージあってもおかしく────」
「ネイシー何やってるんだよ!!」
突然横から間近というのに思い切り叫ぶフィ。顔を真っ赤にして叫ぶ。
「あっらぁ? 何よ、フィーナ? 顔真っ赤よ?」
ネイシーさんはそんなフィを見て、口元を押さえニヤニヤと笑いながらフィーナの肩を叩く。
「そっ……」
そう言われてフィは顔を触る。いや、触って赤いのわかるの?
「そんな事はないし今の魔力流したんだろ? それで動けなくなられたら私が困るからな」
顔を触っていたのを誤魔化すように腕を組んで後ろを向き、フィはそう言う。
きっと自分の中では赤くなかったという事になっていそうだ。
「………なんだその目は」
まあ、気にしていても埒があかない。
今の感覚が魔力を流すことなら、多分出来る。
▷《MPバースト》 を おぼえた !
▷《三倍撃》 を おぼえた !
「あれ、いいの?」
店を出るとき、ネイシーさんは僕らにそう言った。
何の事だろうか?
「ああ、いいんだよ」
フィはそう答える。
「なら、いいんだけど。帰る気がないんだよね?」
「あるわけ無いだろ? 当たり前だ」
堂々と言ってのけたフィ。
「じゃあ、あの子には気にしないように言っておくよ。今でもまだ気にして入るみたいだから」
それを聞き、フィは少しだけ俯いた。
「ま、頼むよ」
「じゃ、いってらっしゃい。また来てね」
「─────当たり前だ。」
フィは店に背を向けて歩き出す。
僕は、一礼してからフィを追い掛ける。
「んで、フィーナって……本名?」
「気にするな、今私はフィ。それ以外でもそれ以上でもそれ以下でもない」
「そうか……」
僕はそれ以上聞かなかった。




