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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 一章 後編 栄華を極める富豪の街
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服と宿の優先度



「全く、ゴブリン相手に死にかけてるんじゃないっての」


「ごめんって…」


 結局ゴブリン狩りは少しだけのアクシデント…………と言うか普通に死にかけたのだけれど、フィのおかげで事なきを得た。と言うことだ。


「全く………死んだかと思ったぞ」


「そうですね」


 フィはぷんすかと肩に怒りが現れる位に怒っていた。フィが先を歩いているので、怒ってるんだろうと言うのははっきりと分かった。


「じゃあ、行くよ。服買うんだよ。」


 怒っていながらも、目的は忘れていないようです。






 そこは、まあ、普通の店だった。


「いらっしゃいまっせー」


「おう、おばさん。入るよー」


 フィは気楽にそう言うと店の中に入る。店の中はずらりと服が干され並んでいた。


 広くはないけど、並べられ方に元の世界と共通の者を感じた。


「あたしゃまだオバサンじゃ……おや?」


 取り敢えず服を物色する。


 これで、良いか。


 適当に服を取る。


「あんた」


「何ですか?」


 店長らしき───店員は一人だけだから───人が呼び掛けてくる。


「あんたじゃない、そっちの白い髪の小娘さ。」


 びくりと肩を跳ねるような反応をするフィ。


 彼女はゆっくり、油の切れた機械のように振り返る。


「えっ…と……なんだ?」


 店長はフィにずかずかと近付いてしげしげと顔を観察した。


「よーく……似てるんだけどねぇ…人違いかねぇ………」


「ひ人違いだと思うぞ!?」


 がっちがちでそう言っても、説得力は皆無だけど、何と勘違いされてるんだろう。


「あの、店長さん?」


「ここの店員は私一人で店長とか呼ばれるような人間じゃないが……なんだい? ああ、買いたいのね。二着?」


「はい。……おい、フィ。金、金。」


「…はっ! ……うん、お金ね。おばさん、これで良い?」

 何か棘の少ない言い方にフィはなっていたけど気にしない。


「いいよ。……あんたの服はどうするんだい?」


「これとこれで。」 


 フィは白いワンピースとかを選んでいた。


 実際、服の種類なんて分かんないからね。


「はいはい………まぁこの服、懐かしいわねぇ……」


 フィは代金を渡すとさっさと店から出ていった。


「え、ちょっと待って!! ありがとうございました!!」


 僕はフィに言いながら、店員さんにそう言って走り出した。


 全く、勝手に行動しすぎじゃないかなぁ。






「服は揃ったな」


「着替えるタイミングが無いけどね」


 フィはいつの間にやら満足げに買った服を抱き込んでいた。


「………お前はそのままでも」


「良くないよ。ダメ」


 フィ……文句言いたげな顔をしないで…。


「だいたい、さっきの店で着替えちゃえば良かったんじゃないの?」


「………あの店は……良くない」


「理由は?」


「言えない」


 …………うーん……。この街来てからフィは目立つなとか長居したくないとか……そもそも来たくないとか言ってたな。


「まぁ………いいか」


 別にそう重要な事じゃないだろう。放置していても、変なことにはならないよね、きっと。


「そんな事より、今夜の寝床。どうするの?」


 もうじき辺りは暗くなる。


 今、夕日が沈みかけていて、水路に夕日の光が反射して、かなり綺麗だ。


 そんな時間だというのにフィは焦る様子もない。


 そして迷い無く、彼女はこう言ったのだ。


「野宿」


「はぁぁぁ!!?」


 大声を上げた僕に対して、慌てるフィ。野宿と言い放ったときは全くの無表情だったというのに。


「おいバッカ! 目立つなって言ったろ!?」


「モゴモゴ………」


 全力で口を塞ぎに来るとは思っていなかった。




 落ち着いた頃には、既に日が落ちた後だった。宿や店の灯りと星空、そして夜の闇を映す水路の縁に腰掛けて、僕らは話し始めた。


「野宿って……」


「仕方ないだろ? 服の分を引くと大した金額が残らなかったんだからよ」


「にしても野宿って……こういう街に来たら一階くらい泊まってみたいと思ってたのに野宿って…」


「なんか…スマン。」


 そうやって露骨に落ち込まれるのには弱い。


 僕は慌てて取り繕おうとしたが、フィが続けて話し始める方が先だった。


「それに、宿って安くないからなぁ」


「そうなの?」


「当たり前だ。この街のサービスだったら一泊と二食、さらに外国の風習のフロとか言うのが付いてくるのが当たり前だからな。フロがなければ安くはなるけど、一回のゴブリン狩りじゃあ、どう転んでも無理だなぁ。宿に泊まるのは」


「お、おう」


 正論だ。金が足りない。


「防具だって武器だって買えないんだよ、飯は干し肉あるからまだマシ……と言うか干し肉あって良かった」


「金、そんなに無いのか?」


「当たり前だって言ってるだろ、あったら残す意味もないし使ってるよ。それでも多少は保険として残しておくけどな」


「………だよなぁ…。」


 呟いて、人通りが少なくなっているのか元々少ないのかは分からないが、人のいないのを良いことに地べたに寝そべった。


「全く。綺麗だなぁ」


「星がか? おかしな奴だ」


 フィにおかしな奴と言われた。いや、星空を綺麗と言って何が悪い。


「私は………嫌いだ」


「そーなのか」


 僕は星空を、眺めながら適当に答えた。


 とても適当に。

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