水華の都
「まあ、この肉でも食べて……」
僕は通りすがりの商人さんに貰った干し肉をフィに渡す。
フィはその肉の匂いを嗅ぐと
「やっぱり少し悪くなってるだろ、お前は食べたか?」
「食べてないよ、まだ限界来てないし」
そう返すと、フィは半眼で呆れたように
「限界来てからじゃ、遅いぞ? まあ、あのゲロ飯食ってからどれくらいだ?」
「ざっと五日」
「じゃ、まだ平気だろ。私だって腹は減っていない。と言うことで私は食べなくてもいい。」
商人さんはきっとダメになりそうな肉をくれたんだろう。まあ、おかしな事ではないね。
「………っていうか街に入れないんじゃないか? 私解析喰らうのは御免だぞ?」
「それなら、僕は冒険者カード持ってるけど、これで平気?」
僕はリュックからカードを取り出して、見せる。
「へー…コレがお前の………!?」
見せたカードを見て目を見開いたフィ。
「どうしたの?」
「なん……これ……?」
「えっ?」
そう言うので僕は改めてカードを見た。
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【アサギ ユウ】
【Lv】5
身体能力適性
【HP】 (D)【MP】 (SSS)
【力】 (D)【魔力】 (E)
【体力】 (D)【技量】 (D)
【敏捷】 (C)【運】 (B)
【癒力】 (E)
使用可能属性・適性
【火】(E-)【水】(E-)【風】(E-)【土】(E-)
【妨害】(E-)【支援】(E-)【浄化】(E-)
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これのどこが? いや、属性の適正低いなぁ……なんて思ったけど。
「いや、おかしいの?」
「おかしいよ!! どう考えてもおかしいですぅ!! じゃないおかしい!」
ずずっ、と前のめりになるフィ。
いや、あの顔近い………。
「……ど、どこがおかしいの?」
「そりゃあ区分に無いものばかりだから……って、そうかお前記憶喪失か」
フィはそのことを思い出し、呆れていた。
「本来、適性って言うのは一般的なランク区分によって分けられているんだよ」
「一般的な、ランク区分?」
「…………。全く本当に知らない、覚えてないんだな」
「すいません」
「一般的なランク区分って言うのはよ、上から『SS』『S+』『S』『A』『B』『C』『D』『E』『×』ってなってて、普通の人の平均的なランクが『D』な。後は素質が高い人なら平均して高いランクを叩き出すが、間違っても『E-』や『SSS』なんて区分は無いんだよ。存在自体有り得ないんだよ」
「………へぇ……」
「聞いたことないんだよ……そんな素質…」
「と言うかじゃあ冒険者カードを見ただけで強いか弱いか分かっちゃうじゃんこれ!!」
「………そうだけど?」
「いや、それだと、ねえ?」
冒険者ギルドには少なくともSSSのステータスがあることを知られているんだろう。
………割と適当に済まされてたから、実は見ていないんじゃないか? とも少し思ったけども。
「つっても、素質偏りすぎだろ。せっかくの異常素質のMPが魔力癒力ともに低いせいで宝の持ち腐れじゃねえか……属性素質もある意味異常素質だし」
フィはそう言って、人差し指をこちらに向ける。
正しくは冒険者カードに、文字を読む為になんだけど。
「運と敏捷が高い……本当、偏ってるな」
本当だよ……何でこんな偏ってるのかなぁ。どうせなら全部高ければいいのに。
「これじゃMPタンクじゃん。すべての魔力を解き放った!! とかしか威力のある技出来なさそうじゃん」
「まぁ、七属性だけが全てじゃないんだけどさ。その属性の外をカバーするジャンルが【技能】なんだけどな」
「そっか、じゃあ低い魔力と………癒力って何」
「やっぱり分かってないか癒力。浄化と支援の魔法を使うときに元になるステータスだな。」
「そっか。……じゃあ、低くても【技能】があれば………ん?」
【技能】………?
僕はその単語に引っかかりを覚えてステータスを見る。
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【技能】
《女装》女性服が似合う男性に修得が可能。演技にボーナスがかかる。
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「おいどうした突然頭抱えてうずくまって!!」
「絶望したよ……」
「技能は習得に苦労するものだから!! 頑張れば大体習得出来るから!!」
あっさり入手した《女装》とは一体………?
「中にはMPをそのままエネルギー体として撃ち出したり、空間を歪めたりとか出来る技能もあるから!!」
「本当か!!」
「復活早!? ……習得には時間がかかると思うけどね。」
…何だかあっさり入手した《女装》のせいでこういう技能しか存在しないかと思ってしまったけど、希望が見えた。
「──………私みたいに先天的に技能を持っている人もいるんだけどね…。」
「何か言ったか?」
「何でもない。」
僕にはフィが何かを小声で呟いていたように見えていたのだけど、内容までは聞こえなかった。
「冒険者カードの適性の枠は、非表示に出来るから、設定しとけよ。見られたら大変だ」
フィは最後にそう言うと、前へと行ってしまった。
「非表示に変更………ああ、これか。…………って、ちょっと待ってよ!!」
僕は適性を非表示にして、先に言ってしまったフィを追いかけるために走り出した。
「───ようこそ、水華の都。オルカリエに!!」
オルカリエの入り口の門番が大きな声でそう言った。
「え、フィ?」
フィは僕の後ろに回り込んでいた。
「君達、身分を証明出来る物はあるかな?」
門番は、子供に話しかけるようにそう言った。
まあ、僕小柄だし、フィはそんな僕よりも小さいからね。
「これ、で、いいですか?」
僕は冒険者カードを見せた。
「うん、うん。いいよ。通って」
そう言うので、僕は門を潜るべく───
「ちょっと待って、白髪の娘……まだ通っちゃダメだ」
───足を踏み出したところでそう言われて僕まで立ち止まった。
「………えっと……妹………です」
「そうなのか?」
頼む《女装》の演技ボーナス!!
僕は真っ直ぐ門番を見つめた。
「…………」
門番さんは口を半開きにして惚けているように見えた。動きが完全に止まっていた。
「どうしました?」
僕はつい、聞いた。門番さんが不自然に止まっていたことに何か変な、違和感を感じたからだ。
「え、あ、いや………。それなら……良いか。通って良いぞ」
演技ボーナスは関係あったのか謎だけど、門番は少し顔を背けながらそう言って、あっさりと中に通してくれた。
───翠節35日、水華の都オルカリエ到達。
「どうした?」
都の中へ入った後、しばらく歩いていた。
僕はとても賑わっている都の雰囲気に当てられて、少しだけテンションが上がっていた。
だから、ステータスを開いた。
「どうした? そんな変な顔して」
なにが”だから”なのか自分で言っておいて全く分からない。本当に分からないけれど僕としては、どうなんだろう。少し見たくなかった、なんて思った。
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【技能】
《女装》───────
《演技》演技系技能で人を魅了すると入手可能。高い演技ボーナスが入る。
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………演技で……魅了………!!
「いや、本当にどうした?」
僕、オルカリエ来て早々に心が折れそうです。
「何でも………ない」
心配げに聞いてくるフィに対して、僕は呟くようにそう返した。




