『オオカミ』
少女は笑っていた。
「ああ…………遅いぞ」
少女の中の闘争本能が疼く。
さあ、早く。
「殺すッ!!」
相対する少年は、棒切れを振り下ろす。
────避けるのはいいが、それでは”面白さ”に欠ける。
私は鼻で笑う。
少年はその動作に、舐められていると言うのを感じ取り、激高する。
さあて、料理の時間だ。時間はあまりないが、充分だろう。
僕は信じられないものを見た。
「なっ………」
少年もそれは同様で、振り下ろした姿勢のまま、固まっていた。
白髪の少女は笑ったままだ。
少女の髪が少し不自然に隆起している気がするが、遠目からはよく分からない。
少年は、信じられないといった様子で少女と自分の手元を何度も見た。
────手元のバッキリとおられた棍と、両手で振り下ろされた棍を握り潰した少女を。
「遅いよ」
失望したように、少女は吐き捨てる。
握り潰したとはいえ、まだ持っていたもはや木片となったそれを、振り下ろす。
「何しや がっ」
顔面を殴られて転がる少年。
「弱いね」
失望したように呟いた少女。
「何 だぐぇっ」
手に持つ木片を思い切り顔面に投げつけた。
「おい! 愚者ぁ! オレを助けろ!!」
転がったまま、不利を悟った少年が叫ぶ。
必死、だな。
「させま……せんぞ……」
剣を杖にして立ちふさがるサイトーさん。
どうしてそこまでするのだろうか。
「ふはっ……」
ゆらりと立ち上がる少年。棍は持ったままだ。
「抵抗しても無駄なのは分かるよね?」
少女は二人に向けて、呆れたように言う。その額には、薄く汗が浮かんでいた。
「分かりま…せ──────」
───僕は思ったんだ。何故そんな少年を助けるのか。
「何を……っ!?」
戦闘に乱入してきてから初めて少女に動揺がみえた。
「あははははっ!! 僕の仕事は終わりだ!! じゃあな愚者共!!」
────少年は、少年を守ろうとしたサイトーさんの背中から貫手を放ち、サイトーさんを仕留めた途端に笑い出して手をその背中から抜き、後ろに走っていった。
「待てよッ!!」
少女は追いかけようとして力が抜けたのか、崩れ落ちる。
「さ、サイトーさん!!」「何が起きたんだ!?」「大変だ!! サイトーさんが!!」
取り巻きは、その光景を見て慌ててサイトーさんへと駆け出した。
僕は、少女に駆け寄る。
取り敢えず背負う。
「…………すま……なかった……」
ボソボソと、力無く呟く声が少女の隣に転がるサイトーさんから聞こえた。
そして一瞥をくれると、迫り来る人の輪から僕は走り逃げた。
フレディやケビンはどうなっただろうか。
それだけは心配だった。
【アサギ ユウ】
【Lv】5
ナイフ(力+50)
妖精加護(運+50)
身体能力値
【HP】 44 【MP】 7582
【力】 40 【魔力】19
【体力】41 【技量】47
【敏捷】73 【運】 94
【癒力】18
使用可能属性
【火】【水】【風】【土】
【妨害】【支援】【浄化】
【技能】
《女装》女性服が似合う男性に修得が可能。演技にボーナスがかかる。
【状態】
《不幸悪運の加護》 …… 紅蓮の森の妖精の加護。不幸な目に何度も遭うが、不思議と致命的な失敗をしない。運+50。加護期間残り19日
《----の祈り》 …… 己のMPを犠牲にして髪の長さを一定に保ちながら髪の色を変える誰かの魔法。解除不可能。




