ある夏の日
その日は、それはそれは暑い、夏の日だった。
「暑…。高校来たくない」
僕の親友たる多嶋 圭佑は机にダラリと体を預けて、
「机ひんやりして気持ちいい」
なんて言いました。
「暑いのは分かるけど、だらけすぎでしょ」
僕はその姿を軽い口調で咎める。
「こんの、机の金属部分が特に冷たくて良いんだよ……」
そう言って、だらけだ姿勢のまま、机の脚を触っていた。
「はぁ………」
「大体、最近皆焦ってないかー。特に濁斗とか。長谷さんも何か慌ただしいな。お前の部活の先輩方もそうだろ?」
圭佑にしては余りにも適当な発言だった。噂とかの収集は趣味、みたいな性格の癖して。
「長谷さんはバレー部の大会あるし、先輩方は文集作るの頑張ってるんだよ。……濁斗は知らないけど」
「濁斗は、アレだよ。仮にも親友だったんだからな」
分かってるんじゃん。
このクラスには、約一名失踪者がいた。原因は分かっていない。
そして、その人の友人だという保子河 濁斗にも色々考えることがあるということだろう。
圭佑はそう言ったのだ。
「それはそうだとしてさ、お前。どうするんだよ」
「何がだよ」
「髪。切らないの?」
「……………ぁ」
僕の背中の半ばまで伸びている髪の毛を指差して圭佑はそう言った。
遅れていたが、僕の名前は浅葱 優。高校二年、年は16。
髪が長く、初対面で大体勘違いされるが男である。
家族は父さん母さん、姉、妹、僕の五人だけれど、父さんは三年ほど前に再婚しているので、父さん以外とは血はつながっていない。
「………と言うわけで、髪切っていいらしいので数日中に行こうと思います」
「忘れてたのか」
圭佑は呆れた様子でそう言ってくる。
だって行く機会も無かったのだから仕方がないだろう?
義理の姉は「物騒なのに巻き込まれたら大変。あの虚無天使だかを祀ってる教団が起こした騒動が治まるまで待って」と言うし、行かせて貰えなかったのだ。
因みに既に髪を切る許可は取ってある。陥落済みだ。
「そう言えば、前上げた十字架。どうよ、何か恩恵あったか?」
アレ、か。クリスマスの時貰った羽の生えた十字架。
どうだろう。特に無い気がするが、そう言うのも気が引ける。
……って、そう言えば失踪した友人が言ってたな。危険だ手放せだって。
「いや…?」
「そうか。まあ、そうだよな」
「捨てるかどうかちょっと悩んでるとこ」
「そうか。って!! 捨てるなよ人があげた物を!!」
って、あの十字架沢山あるからそれでいいやって妥協したんじゃなかったっけ?
少し疑問に思ったけど。大した問題じゃない。
「あー、はいはい。捨てないでおくよ」
僕はそう返答した。
─────捨てておけば、この後少なくとも壮絶な運命に巻き込まれることはなかっただろう。それには後悔はしなかったかもしれないけれど。
圭佑が話題を戻して、聞いてくる。
「数日中じゃなくて、早めに行っておけよ、忘れないようにな」
「……分かったよ、ちょうど休みだ。明日行くよ」
「おうおう、行ってこい。彼女とデートでもしながらな!! それで変な髪型って笑ってもらえ!!」
唐突にキレた圭佑。僕は冷めた表情で切り返す。
「なんだそれ皮肉か。雪幸関係ないだろ」
「良いじゃねえか、どうせ切っても似合わないだろうしいつ見せても変わんねえさ!」
…………僕、一人で行こう。