白髪の少女
「待って!!」
悲痛な程の叫び声。アサギはその隙を突かれて地面に転がされる。
「アサギィッ!」
フレディが叫ぶ。
ケビンは相変わらず、苦しそうに呻いている。
私はといえば、醒めた目で状況を見ていた。
────町の郊外、追っ手は後ろで遠巻きに見ているだけ、ハゲがこっちに向かってきているけれど容易くナイフを受けきった反応の良さから、しっかりとした戦闘能力がありそうで。
まず間違いなく、普通に戦えば死ぬ。
武器もない、持ち物もない。普通に戦うことすら出来ないが。
「……………」
例のハゲは走って向かってきている。
私は。
「…っ」
フレディの前に出て、走りながら剣を振り上げたハゲを睨み付ける。
「死ね」
────とても直接的で、詰まらない言葉だな。
私はそう思った。
「《獣化・狼種》」
呟いて思う。
────この技能名も同じだな。
「ホラ! ホラホラホラホラホラ!!」
突き下ろし、ゴルフスイング。そこから転がる僕目掛けて突き下ろしの連続。
わざわざバットから離れられたのはいいが、無様に転がるように逃げる僕を見て笑っていた。
どう考えても無様さを嘲笑い、遊んでいた。
「───あぁぁぁぁぁあ!!!」
悲鳴と思しき声───誰の声か考える余裕なかった───が聞こえた途端外野がざわめきだした。
「ンだよ……オレは楽しんでるんだよ? それを聞きたくもない声で………使えねぇな、あのハゲ」
少年は手を止めて、不満足だと言わんばかりの声音だ。
【HP】8/42
────洒落になってない。
とにかく距離を取る為に転がるのを止めず、転がりながら立ち上がる。
足がフラつくが、背中を叩かれたのだから動けるだけマシ。と捉えておこう。
「あ? ンだよ、逃げるの? 逃げても無駄って、分からないかなあ?」
「うるさい…!!」
「あー、でも目を逸らさないのは評価するよ。意識している間に近付くのは僕には”出来ない”からねェ!!」
少年は炎の球を宙に作り、その手の棍でまた同じように打ち出した。
スイングが終わる頃に炎の球を作り出し、またスイングが終われば作り出し。
僕はそれを鎖で払い除け続ける。
必死に。
「あっれェ? 意外に保つなぁ。」
うるさい、今死にかけてるんだ。必死にもなるだろ。
左手で鎖を持って飛んでくる無尽蔵かとも思える数の火の球を右へ左へ上へと弾き飛ばす。
一度に二球は来ないので、何とか捌き切れている。
「ぎゃぁぁぁあ!!」
「何─────チイッ!!」
火球を弾き飛ばしているうちに、少年へと飛んでいく人影。
それを少年は舌打ちしてから棍で打ち返す。
その隙に僕は前に足を進める。火球が来ない隙を狙って接近し直すのだ。
ちらりと転がった人影を見る。
なんと打ち返された人影は────サイトーさんだった。
「えっ?」
理解できず、凝視する。見間違い……?
しかし打ち返されたのはサイトーさん。間違いはなかった。
何で?
「余所見はいけないッ!! なぁ!!」
────しまっ……た…?
その声に振り返ると、しかし少年はすぐ近くにいるわけではなかった。
少年は遠くで棍を振り上げている状態で、首を傾げて固まっていた。
「何で!? 何で何で何でナンデ何で!!?」
少年は癇癪を起こし、地団駄を踏む。
「何────ぐぶぅ!?」
怒りで周りを見ていなかったのか。背後からの誰かの突進で意図もたやすく吹き飛ばされる。
「何しやがんだッッッ!」
しかし少年は受け身をとり、素早く立ち上がる。
そのまま怒りのままに、突進してきた相手に突撃する。
「殺すッ!!」
僕は、走って近付くも、その戦闘に割って入ることは出来なかった。
少年はおぞましいほどの殺意を持って、棍を振り下ろす。
その殺意を向けられた相手。少年に対して突進を繰り出してきた人。
────その人たる白髪の少女は笑っていた。




