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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 最終章 浅葱優は勇者となる
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流星の如き一撃



「おいっ!?」


 カイの声が聞こえる。


 腕に刺しただけで、僕のHPが全損した。


 今の僕に人の体はもう要らない。


 幻痛を感じる腕を無視。海へと飛び出す。まだ天力を吸引してはいないので体には何の異常もない。


「さて、力尽きるのと、天使に当てるのとどっちが早いかな……」


 秋は、天使を殺すのには人の身では力不足と感じたらしい。


 鬼は、自分の力では立ち向かうのも難しいと断じていた。


 じゃあ僕は──────。


「一、二、三」


 歩みを進める。鬼の歩きを模倣して、一歩ごとに力を増す。


「《三倍撃》」


 六歩目。未だ天使は遙か遠く、その遠くでは週末でも訪れたかのような嵐が生まれていた。


「《憤怒》」


 怒りに包まれて、赤く体が揺らめく。八歩目にして、燐光が僕を包んでいく。


 天力を集め始めたことで自分の体がほんの少しずつだが確実に崩壊を始めていた。


「……届けよ」


 矢のように、跳躍する。十歩目で崩壊が天力によっての内部からのみではなくなった。限界を越えた歩数が崩壊をさらに促したのだ。


「…届いてよ」


 胴体の輪郭がもう朧気だ。


「届けぇぇ!!」


 見えた。もう、届く。


 フーデラさんは片腕を血塗れにさせてギーツさんの後ろで休んでいた。ギーツさんは傷だらけになりながらも魔法を撃ち込んでいた。


 アルマさんとディエさんは無傷で、魔法を撃ち込んでいた。


 天使が空で再生した翼から羽根を散らして、魔法を全て防いでいたが余裕はないように見える。それは超高速で近付く僕を見てしまっていたから。


「天使ぃぃぃいいいいい!!!!!」


「──────っ」


 両手で持ったナイフを突き出す。羽根をかいくぐり、天使が余裕を完全に失ったのが、分かる。


 一撃で決める────ッ!!


「うそ」


 天使は剣を交差してナイフから身を守る。天使はこの剣は破壊の象徴であり、天使の内心では破壊されないだろうとタカをくくっていたのだ。


「やめ」


 だがそんな慢心を砕く。


 たかが天使の剣など取るに足らぬと砕いてやる。


 その双剣がガラスのように砕ける。破片がきらきらと舞うのがやけにゆっくりに見えた。


「あぁぁぁぁぁぁあ!! ぁぁあ!!!」


 高速移動する視界にもはや天使以外移らない。二十四歩───鬼の限界を三倍以上越えた歩数。それは天使に当たる前に砕け散った────否。ナイフは既に手になかった、手もなかった。


 手が消える前に届かなかったのだ。そのかわり突き出す動作のおかげで一拍早く天使の剣を砕くことが出来た。


「にっっっじゅうっごぉぁ!!!!!」


 足が空を蹴る。


 天使が絶望をたたえた表情で僕を見る。


 こんなところで───。そう口が動いた気がした。抵抗をあきらめていないのか。後退する素振りを見せる。


 ああ、本当なら僕はこの後のうのうと寝続けるはずだったからその思いは間違ってはいない。が、天使。お前はいくつもの大切なものを僕から奪った。


「吹雪け!!!」


 雪が散る。最後の絆。受け取れ、とそんな意志が伝わってきた。


「《幸雪真手(こうせつしんしゅ)》!!」


 僕の手が再構成される。一瞬であり永遠。崩壊して再構成。


 天使は世界を滅ぼす。


 僕は愚者で、勇者ではなかった。


 でも、それはただの立場。


 僕は世界を救う勇者に憧れた。滅ぼす側の味方の立場? 知ったことか。


「あぁぁぁぁ────っ!!!」


 叫ぶ。それは天使に対する殺意。


 叫んだ。それは雪幸達への想い。


 叫べ。それがこの世界を生きた────。


「消えろぉぉぉぉっ!!!」


 天使の後退虚しく僕の手が天使に触れる。天使は腕を盾にした、僕は左側の手でその腕をつかんだ。


「いやぁぁぁあっ!!!」


 天使の手が凍てつき歪み砕け曲がり崩壊しながら再生し、僕を推進力にして吹き飛んでいく。再生する速度は早く、形が崩れない腕を僕は左側の手で掴んだまま引き剥がす。


「因果応報って言うことだよ!!《神の威光:クロクス》ゥゥゥ!!!」


 光が左側の手から漏れる。察した天使の腕が体から羽根で切り離された。右側の手がその胸に突き刺さる。


「がぅぅぅうううっ!?」


 光が広がる。突き刺した手から、幾条もの光の筋が、伸びていく。


『因果応報、未だ何も出来ていないあなたが成したあなたの行いの報いを受けるとは、時間の神からしても奇妙。しかし、消えて貰う事には変わりない』


 失速し、落ちていく。


「いやだ、いやだいやだいやそんなまだなにもできてない何もしていないなんにも!!! まだ消えたくないまだまだまだまだまだまだまだまだ!!」


「何もしていないって言うのは、嘘でしょうに」


 僕は消えかけた意識に鞭打って、一言言ってやる。


「いやよまだわたしは神になれていない破壊、そう壊すの全部あなたみたいな虫螻ごときに負けてられな…うそきえてるやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて」


『全時間から天使、エクスヴォイドの存在を我──時間の神クロクスの名の下に消却する』


「嘘やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ」


「うるさいな おとなしく 消えて くれ ない  かな !!」


 雪の刃がザクザクと天使の羽根を刺す。右腕もついでに刺す。そして天使の羽根がまだ僕の腕を狙っているのだ。


 僕自身の崩壊を早めれば生き残れると踏んでいるのか、最期まで生き汚い!!


「終わった んだ よ!!」


「まだよ まだ おわ ら ないわ !!」


 落ちていく。光がいっそう強くなる。


 天使が真っ白く光り、もう分からない。羽根が執拗にまだ狙ってきて……


 雪の礫で防いで………


 あれ、真っ白………─────なんも見えない。


 ああ、死んだかな。




 僕は────────

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