皆の力で天使を倒す
「ぐっ────きゃぁぁぁぁ!!!! 何で!? 何でよ!! 何で動きが死なないの!? 何で今ので動き続けられるの!?」
天使が左肩から右わき腹に掛けて血を噴き出させながら、喚く。
戻った視界で自分を見れば光の棒が何本も突き刺さっていて……しかも僕はだんだん消えていっていた。
髪を切り落とす。天力を手放して、全ての棒を引き抜く。
「《ヒール》」
【HP】7/153
【MP】1704/19307
《祈魔術》が、消失した。代わりに魔力の回復速度が上昇した。恐らくはここからが正念場。《祈魔術》の適性と魔力値を明らかに超えた性能はもう発揮されることはないだろう。
「うぅ、まだよ……」
こんな所では力尽きて海に落ちた瞬間に死にかねない。どうにか陸に戻したい所だ。
「《破壊象剣》……!」
天使は両手に光の剣を生み出す。
「あなたはいい手駒になると思ったのだけれど……ここで死んで貰いましょう……」
「そんな傷だらけで僕を殺せると思ってるんですか?」
恐らくは、あの剣に触れるだけで死ぬのだろう。天使は暗い笑顔を浮かべたまま近付いてくる。
まだ手に持っていた大剣を構える。
「《ウィングイレイサー》」
空が、昼間のように明るくなる。
「破壊の時は今ではなかったのですけれど。さあ、これで死なぬと言うのなら考えを改めましょう。きっと羽虫のように無様に潰されるのでしょうね、という考えを」
「ああそうですか!!」
空に見える光。あれば隕石か何かか? とにかく逃げるべきか、天使に追撃を掛けるべきか。
────空が暗くなる。
「なっ!?」
「─────そうか、ありがとう。カイ」
空の光が、何かに喰い潰される。それは真っ黒な球体にも見えるが、大きすぎて全貌を把握することは出来ない。あれは追加攻撃である、何て言われても信じれるような禍々しさを放っていた。
でもあれは、あいつのだ。
「うぉぉぉおおおおお!!!」
僕は大剣を肩に担ぎ、前へ出る。
「ひっ!」
まずは三歩。脳天から振り下ろす。天使はその両手の剣で咄嗟に防いだ。
「《天鬼剣》」
自分の体が軋む。持った大剣が軋む。
胴体に回し蹴り。傷口を抉るように捻る。二歩分天使が下がる。怯えから二歩分下がる。
その二本の剣は飾りなのか。さっきまでの余裕は何だったのか。誘いなのか、罠なのか。
少し曲がって五歩で横凪ぎの振り回し。若干振り下ろしと呼べる角度で振るわれた大剣のせいか、双剣で防いだ天使は流星のように海面に叩きつけられる。
天使は海面を跳ねて、海面に着地───水没していない───する。
その顔が笑いに変わる。
「死になさい!! 愚かな男!!」
片手の剣が海面に突き刺さり、海がその光を反射。天使周囲の海面だけが光り輝く。
海面が沸騰し、光が何条も溢れ出る。
「うわぁ、洒落にならないなぁ!!」
レーザービーム。海面から伸びる光は空気を焦がしながら弧を描き飛んでくる。
「効かないと思うけど《魔力海》!!」
落下し続けながら避ける。魔力海を掠める程度のレーザービームならば弾くし、多少は屈折していく。ただ、通り道の魔力の殆どが消え去るけれども。
「このっ死になさい!!」
「そっちも死に損ないみたいな姿してるけど何時になったら!!」
「こんな傷無いのと同じです!」
どうやら海面ギリギリに飛ばすことは出来ないようで一度空に打ち上げてから曲げて僕をレーザーが狙撃してくる。
「近付けないっっ!!」
「──────オリジナル魔法起動!《光鏡》!!」
頭上に虹色の半透明の板が現れる。
「海でバカスカバカスカうるさいにゃ! やっちゃえギーツ!!」
「今はギーツじゃない! 謎の仮面男だ!! あと抱きつかないで落ち着かない!!」
レーザービームは板に当たると空へと散乱してしまう。
「フーデラさん!? それとギーツ!?」
「なぜ呼び捨て!?」
「親愛の証と受け取りなさいにゃ」
「ここは危険だから下がっててください!」
「危険と分かってれば一人に出来ないっての!」
仮面をしたギーツさんが激昂する。普段より語調が強い気がするのは仮面をしたおかげか。
「と言うか『家壊れれば誰だって気付くだろう』って寝たふりしていたエリシアが言ってたけどまあ、そりゃそうじゃにゃい? みんにゃ気付いてるにゃ。それに……」
「店長が今夜帰ってきていた。お前、呼んでるぞ。あれは何とかするから引き下がれ」
「二人だけで天使を相手に出来るわけ!!」
「二人じゃない」
そう言った瞬間、海面が凍る。ギーツは風か何かで飛んでいたのだが、降り立った。相変わらずレーザーの雨が降り注いだままなので、《光鏡》の範囲外はすぐさま氷が砕かれる。
「やっと降りれる……」
「あー、めんどくせぇ。天使の足止めとか」
「そう言うな、恨みを返すチャンスじゃないか」
「アルマさんとディエさん!?」
「店長に頼まれてなきゃ………っておいおい、天使が手負いだ、ならある程度やれるかもな」
「調子に乗るなよ? 私達はあくまで足止め。何やら店長には策があるようだからな」
二人のエルフが氷上を悠々と歩いてきていた。
「「だからさっさと戻れ。アサギ」」
「………死なないでくださいよ?」
「誰があんな死に損ないみたいなのに殺されますかっての」
ディエさんが、笑いながらそう言う。
「信じますからね!!? 任せますからね!!」
僕は、手持ちの大剣が遂に自壊を始めたのを感じて手放した。
そして氷上を駆けていく。陸を、カイを目指して。