天使を倒すのは1人じゃなく
因みに空震斬というのは今名付けた。ただ重力で空気を吸い込んで、吸い込んだ空気を解放するだけの技なのだが、それではあまりに味気ないと思ったからだ。
「あ、ぐ……今のは……」
天使からすれば正面に居たはずの突然背後から現れ、斬りつけてきたのだから、驚くのも分からなくはない。
《隠密》と《幻影》だ。魔力で感知されないために《武器生成空間》なんてものを本来より魔力を込めて作り上げた。
「知らなくて良い」
《幻影》の僕が、天使の左に現れ、本物の僕が《隠密》で掻き消える。
偽物に気を取られた天使の右肩を斬りつける。が、とっさに急降下されたせいでかなり浅い。
だと言うのに、少し妖刀から嫌な感じが伝わってくる。破損する手前のような。
「ごめん、付き合わせて……──よい、頑張れよ」
妖刀を手から放しエリシアさんの部屋に風の魔術を用いて飛ばした。
「あれ? 武器捨てて良かったんですかぁ?」
翼が再生を始めていた。
僕は槍を作り出す。加えて天使を囲むようにナイフを大量に生成する。そして天使を囲むように出来上がる鋼の球体。
「さぁて────《肉体強化》」
ここからは本格的に天力を使用していく。肉体強化を天力で強化し、あり得ないほどにステータスに補正が掛かったように思える───がステータス数値に変動がない。
「この程度で死ぬとでも───」
バラバラと弾かれ、その球体は崩壊した。僕は槍をその隙間を縫って槍を投げる。
「──くぅぅっ!?」
左肩を貫く。天使の反応速度を超えたのか。幻影で3方向からに見せかけて本命を当てることに成功した。
「これは……まずいかな?」
「《加速・劣化式》《炎華閃》!!」
重さを求めた大剣を手にする。三歩で距離を詰めて鬼歩法に充てる。
《幻影》《隠密》を起動し背後に幻影を作り出す。
「くっ」
背後を本物と断定して動き、正面には障壁。僕は障壁に大剣を叩きつける。ガラスを砕いたような音を立てて障壁が砕けた。
「やっぱりそっちなのね!!」
「ああそうだよ───《雪ノ手》」
手から雪が溢れる。魔術ではなく魔法だった。集中力的に余り長く維持できるものではない、一瞬目眩ましのように撒いて、天使の背後から《隠密》付与した天力によって生成されたナイフが二本迫り来る。
「その程度───くっ」
障壁。再び張られたそれは一瞬で砕け散るが、天使が射線から外れるだけの一瞬を稼ぐことには成功した。
「羽根よ、舞いなさい」
「っ!」
天使の羽根が散る。そこには確かに天力が乗っていた。威力を推察するに、当たったら即死である。
「《武器生成》!!」
カードで相殺を狙う。
しかし、明らかに数が違った。羽根が異様に多い。
「《重力球》!!」
僕の両隣に引力の働く球体を生成する。そして僕自身はギリギリまで引き付けてから下へと逃げる。落下。
だが、吸い込まれるのは一部。半分以上がついて来た。
「これをどうやって対処するんですかねぇ!!」
天使が高笑いをする。視界を埋め尽くす光の羽根。確かにこれは危険な状況だ。
「────こんなんで負けてられないんだよ!!」
海面ギリギリに魔力を固めて着地する。そして走る。当たれない、だから逃げる。負けられない、けれど逃げる。
そして羽根の壁の切れ目から天使の姿が見えるまで逃げ切るんだ。
「あぶなっ!?」
足下からの羽根が掠める。
【HP】3/153
やっぱり掠るのも危ないじゃないか!!
羽根が滝のように降って、横にきた瞬間直角で飛来する。それを上昇して避ける。
弧を描いて収束する羽根に《加速・劣化式》を活用して突っ込んで収束点から外れる。
カクカク曲がりながら飛んでくる羽根をカードで相殺する。
様々な軌道で羽根は飛んでくる。無茶をしないように、ひた走る。余裕があればカードで羽根を折る。
「見えた」
急ブレーキを掛けて反転。《軽重力化》《加速・劣化式》《幻影》《隠密》《武器生成》を併用───魔力がかなり減った。《武器生成》のみ天力を用いて重力重視の大剣を作り出したが、これはもう直ぐ魔力が危険域に───魔力回復が遅いのはそう言えば祈りの代償だったか。
《幻影》で羽根から逃げ続ける僕の姿を作り出す。相変わらず天使は動いていないが、出来るだけ天使の姿を確認するように動かさないと。
他の魔術を自分に掛けて───
「八歩が無理だって言ってたよね───やるか」
───僕は跳んだ。
五歩で羽根を追い抜いて天使よりも高空に飛び上がり六歩で空を蹴り降下。七歩で天使の頭上に───天使が見ている!?
不敵に笑う天使が見えた。
八歩目で背後に回り込み────視界が白く散った。
視界が潰れ、体の隅々から激痛が走る。
「あ─ぁぁぁぁ──ぁぁ──ぁ───っ!!」
全力で吼える。手の大剣は離していない。鬼の力は身から抜けていない。
何の激痛かわからない。天使の場所が分からない。何処にいるかもわからない。
ただ天使は逃げない。確信のままに僕は力の抜けてしまいそうな手を振り上げて、重鈍な大剣を振り下ろした───。