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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 一章 前編 異世界の洗礼
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逃走の先に

「やっぱり来た………!!」


 白髪の少女が呟いた。


 三人の腕輪を砕いた頃街中は遂に騒ぎになった。


 見つかったと分かった奴隷達が腕輪の干渉でふらふらになったせいなのか、なりふり構わず暴れ出したからだ。


 騒ぎになったことは分かるが、騒ぎを起こしたのが誰か起こしていないのは誰なのかは分からない。


 連絡手段なんて持ち合わせていないし、そもそも顔も知らない人ばかりだったし。


 腕輪を何故外さなかったのかを聞きたい。


「後ろから来てる!! あれ本当にヤバい人達だよ!!」


 フレディが笑う余裕もなく叫ぶ。


 何だかんだ逃げおおせているが、余裕は勿論無いのだ。


「せめてそのナイフを僕達にも使えればね………」


 ケビンは振り返り、追っ手を見るついでに僕の手元を見る。


 確かにあのナイフが使えれば、追っ手は僕たちを脱走奴隷と見なさないで見逃すのかもしれない。


「このナイフが専用装備じゃなきゃ楽だったろうに……」


 僕は、未だに填められていた腕輪を見て、そう思った。




 夜の街を追い立てられるままにひたすら逃げる。


 見つかってしまったなら、隠れる必要はない。


「知らない道ばかりなんだ。袋小路に入ったら大変だからな!!」


 腕輪を砕いて。走り出す前にケビンはそう言っていた。


 とにかく、今は逃げる事が重要なんだ。


「大体ずっとアサギの腕輪光っているけど平気なの!?」


 僕と併走するフレディが心配そうに聞いてくる。


 ステータスを見ると、MPは何度も減っていた。普通なら平気じゃないだろう。MPがなくなればどうなるかは分からない。


─────けど一回40しか減らないんじゃ、僕のMPが切れる心配はないかな。


 腕輪を砕いてからちょうど10分。その間に十回減った。大体一分に一度。


 そのペースではMPが切れる心配はないだろう。


「ったく………!!」


 苦々しく呟いたのは僕たちの最後尾を走る白髪の少女だった。……最後尾と言ってもそう離れているわけでもないし、後ろには一人前にも一人しか居ないんだけど。


 苛立つのも分かる。


 遠くからは誰かを追う者共の怒号が聞こえ、騒ぎを無闇に起こす脱走奴隷、声だけが聞こえるけれど動いてないだろう奴隷商達。


────全く、段取りが悪い。


「って、そうじゃないか」


 きっと今後方から追いかけてくる人達が諦めてくれなくて焦ってるんだ。


 最後尾って言うのも焦りの原因の一つかもしれない。


 何より僕は彼女自身じゃないから、分からない。


「何がおかしい。」


 白髪の少女は僕に追いついて、如何にも苛立たしいといった様子でそう言ってきた。


 というか、そんなに苛立っても良いことはない。


 追われているときはな、大体何とかなるんだよ。全力で逃げていれば。


 校舎内を捕まらずに逃げ切った僕を舐めるな………!!


「おいお前ら分かってるな!!」


「分かってるぜ!! 誘導だろ!?」


 ……関係ないことを考えていると、どうやら追う側には作戦があったようだ。


「ケビン! 魔法は使えるか」


「ダメだぜフレディ! 何故か分からないがMPが殆ど空だ!! こんな状況で撃ったらそれこそ気絶だ!」


 それは腕輪のせいだろう。誰かが気付いているもんだと思ったんだけれど案外気付いた人はいないのかもしれない。


 ケビンは魔法が使えるらしい。そのことには少し驚いた。


 でも追っ手に向かっての攻撃が出来ないんじゃ意味が無さそうだ。


 フレディは露骨にショックを受けているのが分かったが、それでも走り続ける速さは落とせない。


「────サイトーさんの所へ誘導するんだ!!」


 ん?


 知っている名が聞こえた。


 ちょっと待て、そのサイトーさんはあのサイトーさんかな?


「誰があんな禿の所に行くかよ!!」


 確認のためにあの人の一番の特徴を叫ぶ。


「ああっ」「小娘!」「言ってはいけないことを!!」


 多分あのサイトーさんだ。


 僕は確信した。


───サイトーさんなら助けてくれるかもしれない。


 どうしてこんな町にいるかは疑問だが、保護してもらえそうな人がいるのは有り難い。


 僕は走るペースを上げる。


 そして、町の家々の切れ目に到達する。


 町から出たのだ。壁とかは無かった。


「来ましたか。」


 僕は走るペースを落として、その声の主を見た。


 頭の天が寂しいメガネの男。正しくサイトーさんだ。彼は背中に長剣を装備し、特徴的で見覚えのある白いローブに身を包んでいた。


 しかし居たのは彼だけではない。


 サイトーさんの隣には特徴的な形の大きな棍を担いだ、小学校高学年位の男の子が居た。


 少年は居るだけで気圧されるような威圧感を漂わせて、そこにいた。


 彼の持つ棍は、木製で手元が細く先に行くほどに太くなっているような棒だ。が、あれって野球のバットじゃないの?


 いや、今やるべきは少年の観察ではない。不思議な少年の事は一度頭から追い出せ。


「あのサイト─────」


「やれ」


 少年が、僕の言葉の途中だというのに、バットのような棍を振り下ろしそう言った。


 同時に、サイトーさんはこちらに手のひらを向けて


「死ね」


 そう言ってきた。


 気のせいか、サイトーさんは前に別れた時よりも顔色が悪かった。

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