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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 一章 前編 異世界の洗礼
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脱走開始

 僕はリュックの中にある物を確かめる。


 冒険者カード、ナイフ。


 たった二つだけだけれど、なくしたらいけない。


 リュックが没収されなかった理由は簡単だった。


「ケビン……本当にこれが開けられないのか?」


「ああ、すごく固く閉められているようでな。これをこうすれば開くんだったろう?」


「そうだよ。」


「…………やっぱり嘘じゃないのか?」


 どうやら、開けることが出来ないので使い物にならないのだと判断されたのだろう。


 そう考えると、奴隷商達はかなり間抜けと言うか、適当というか……。売ろうとも考えなかったみたいだし。










 蒼節32日。


 日が変わる前であるが、辺りは世界そのものが寝静まっているかのように感じられるほど、静かな状態だった。


 戦時中の最前線とは思えない静けさだ。


「そりゃ眠らなければ誰だって疲れてしまうからな」


 白髪の少女は呟いた。どことなく眠そうだ。


 それで、深夜に起きている理由だけど────


「脱出か……うまく行くだろうか」


────勿論、脱出のためだ。


「魔法を使える者が牢を破壊して、破壊成功したら一斉に脱出だったか……」


 作戦なんて有ってないようなもの。とにかく逃げ延びればいい、みたいな作戦だ。


 奴隷商も雑なら商品(どれい)も雑だった……。


「開いたぞ! 逃げろ! 自己管理はしっかりしろよ!! じゃあな!!」


 一応声を潜めてあるその言葉を聞いた同牢の人は弾けるように外へと飛び出した。


 僕はその発言を受けて、念の為、一応ステータス開いておいた。


 どこの牢屋も同じくらいに壊れたようで、僕達の所もすぐにぶっ壊された。


「お前ら行くぞ!」


 ケビンが声を掛ける。牢屋を破ったという合図だ。


 僕達は夜の街を走り出した。






 最後に摂った食事は昨日の昼頃ではあるものの、皆に今の所疲れは見えない。


 脱走開始から既に半刻は経過している。


 闇雲に走って逃げているわけでは無いからだ。騒ぎを起こすのは論外だから。


 僕はひとまずケビンとフレディの後をついて行っている。白髪の少女も一緒で、四人での行動だ。


「フフ、こっちだよ」


 不思議な笑いを浮かべ、フレディは先頭を走る。


 小さい通りを利用して少しずつ移動している。


 今のところは順調だ──「うわぁー!!」──っ!?


 遠くからの悲鳴。既にかなり時間が経っているけど!! もうバレたのか!?


「──うっ…」


 誰の呻きか。三人同時にへたり込む。彼らに装着されている腕輪が仄かに光っていた。


 ………光った瞬間、MPが減った。大体40くらい……腕輪が原因……まさかMPを吸収しているのだろうか……?


「アサギ……平気なら先言ってろ、後から追いつく」


 そう言ったのはケビンだ。ケビンだけでなく皆苦しそうだ。


「置いてけって? ふざけないでよ」


 奴隷同士、仲間だろう? 僕は新入りだけどさ。


 そう言って、僕はケビンの腕輪に思い切り、渾身の力でナイフを突き立てる。


 そしてナイフは腕輪に突き刺さり。


─────あっさりと腕輪は砕け散った。


「「「「え……?」」」」


 これには全員驚いて、目を丸くしていた。


 いや、全力でやったことにはやったけども………あっさり砕けすぎじゃないですかね?


「………すげえ。」


 ケビンはぽつりと呟いた。フレディは目を輝かせ、白髪の少女は目を見開き信じられないものを見たかのような反応だ。


 僕は手に持ったナイフをみる。


 どう見ても、偽物に精巧に似せた本物(ただ)短剣(ナイフ)である。おかしな事はない。


 僕の【力】の能力値も特におかしな事は……?


【力】88(38+50)


────どうしよう、ナイフが強いのか弱いのか判断できない……!!


 せめてゴブリンの持っていた剣の能力値をみれたら良かったんだけど…!


「なぁアサギ。他のもよろしく頼むよ」


「フフ、よろしく」


 期待した目で見てくるケビンとフレディに、僕は頷く以外の選択肢は取れなかった。


「勿論だよ」


 取る気もなかったけどさ。

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